第39話 不知案内(ふちあんない)

 皆が適当に注文をする。

「少々お待ちください」


「二人は頼まなかったが、良いのか?」

「あたいらは、いつものが来るんで」

 そう言った後、顔を見合わせる。


 俺は不思議に思ったが、まあ良い。


「それで、なんだ」

「うちらの親って、土建業なんですが、色々妨害されていて、困っているみたいなんです」

「妨害? どんな」

「それがよく分からないんですが、資材調達でミスがあったり。請け負ったはずの仕事で、現場に行ったら、すでに工事を他の業者がしていたり」

「そんなのは、契約書や明細。発注書があるだろう」


「それが工事の分については、契約前にうちから断りがきたとか、発注もいきなり追加がきたとか、急ぎだから発注書も後でと言われたと」


「どう思う?」

「そんなの、中で誰かがポカをしているか、悪い虫が居るかだろう。その担当者を捕まえてみれば良い」

「話を聞いたみたいですが、怪しいところはなくて」

「相手方は、そうか証拠がないのか。とりあえず見張っていれば、尻尾を出すだろ」

「手助けを、してくれるのですか?」

 妖芽がそう言って。まだ慣れていない感じ、あざとさが残る上目遣いで、聞いてくる。

 だが、制服から覗く胸には、目が行くな。高校生なのに、けしからん。


「まあそのくらいなら。とりあえず、発注とかに関わる人間の、情報が欲しいな」

 話をしていると、万結が脇腹を突っついてくる。


「うきゃ」

 変な声が出た。

「なんだよ、こそばゆい」

「あーごめん。本当に首を突っ込むの?」

「聞いた感じ、大したことはないだろう」

「そうかなあ?」

 そう言っていると、注文した物がやってくる。


「お待たせしました」


 コーヒーやら色々が、テーブルに並び始める。

 そして、妖芽と狂華の前には、ジョッキに入ったタワーパフェ。


 思わず皆が、後ずさる。


「それ食えるのか?」

「はい。子どもの頃から好きで、竜二にパフェを食べた後、もう少し欲しいって言うのを繰り返したら、このお嬢様スペシャルが出来たんです」

 そう言って、やはり少し恥ずかしいのか、もじもじしている。


「やっぱり、この年でパフェって恥ずかしいですよね」

「いや、それは別に良いと思うけど」

 そう言うと、二人とも何故か表情が明るくなる。


 狂華達の食べているのを見て、万結がもじもじし始める。

「欲しいのか?」

「あーうん」

「妖芽ちゃん。それもう一つ頼んでくれる?」

「はい。分かりました」

 そう言うと。カウンターの方を振り返り、叫ぶ。


「おい竜二、嬢スペ追加だぁ」

「はい。少し、お待ちください」


「あいつ、とろくさいから丸鋸で左の指飛ばして、少し時間が掛かるのでお待ちください」

 妖芽ちゃんが、万結に頭を下げる。


「丸鋸で?」

「ええ。鉄管を切るのに、クランプせずに手で持って切っていて、刃が横滑りしたそうで。親父が労災一号だって嘆いていました」

「うわあ痛そう」


 結局、万結は食い切れず、大半は俺が食べることになった。

 血糖値が上がって、めまいがする。

 そらはそらで、万結の食べ残しを、俺が食べ出したのを見てほしがり、一口食べさせると、まあという顔をしてほしがり、もう一個注文する。これなら、そらに食べて貰えば良かった。


 会計の時に、恐々していたが、姫スペは千円という良心的お値段だった。

 絶対赤字だろ。

 つい、心配して竜二さんに聞くと、あれは、お嬢様スペシャルというだけあって、妖芽ちゃん以外には、基本出さないのだそうだ。

 そのため、普通のパフェと同じ値段。


 店の雰囲気で、他にパフェを注文する客が来るとは思えないが、そうでもないらしい。後日聞いたが、客層が特殊で、特別なところでお金を借り、今後のお話をするときなどによく利用されるらしい。『そう言うのって、若い女性が多いですから。結構注文が入ります』竜二が淡々と教えてくれた。

 怖ええよ。



 その晩。

 家に帰ると、当然、万結からの追求が来る。

 ついでに、凪紗さんも飛んできた。

 文字通り、玄関を開けると、飛びついてきて俺を抱きしめる。

 そしてキスの嵐。

 それを、俺の後ろで呆然と眺める、万結。

「改くん。改くん」

 そう言いながら、マーキングのように、スリスリと顔を擦り付けてくる。


 当然、万結が割って入る。

「お姉ちゃん。これ、私のだから」

「ええ? お姉ちゃん悲しい。万結ってば、いつからそんなに、心の狭い子になったの? お母さんに言うわよ」

「言えば」

 冷たい目付きで、万結が返す。すると当然。

「言わない」

 言い放つ。凪紗さん。

 そんな、訳の分からない寸劇が起こる。

 そう言っている間も、凪紗さんは、俺に抱きついたままだけど。


 まあ説明するのも、なんなので。

 異世界側にある家へと、精霊石と呼ばれる、マーカーを目標として開く。

「まあ、どうぞ。異世界側の家だよ」

 二人を連れて、向こうへ渡る。


 すると、すでに帰ってくるのが分かっていたのか、勢揃いでお出迎え。

 そらが、こっちにいるので五人勢揃い。

「お帰りなさいませ」

「うわあ。何これ?」

 万結が驚く。凪紗さんもびっくり状態で言葉が出ない。


 まあ、同じ顔が並んでいるから。

 ちなみに、家にいるとき、皆は浴衣を着ることを選択したようだ。

 浴衣は各自の色に染めてある。

 皆が、最初。白装束だったので、お願いして染めて貰った。


 廊下の向こうから、白装束の女の人が、俺を見つけてすささと近寄ってくると怖かったんだよ。

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