第33話 困惑

 魔王は焦っていた。

 誰も居ない。

 それどころか、せっかく買いそろえた家具がない。

 お値段以上な、寝具セットそれにマットレスまで。


 鉄格子を見ると、下側が横一列にスパッと切れている。

 あの女の子達ではない。


 手に持った、エコバッグが床に落ちる。

 今日は、チキンカツ弁当だったようだ。


 部屋にいれば、魔道具で様子を見られるが、録画機能はない。

「発電機を何とかして、監視カメラか? 出費がキツいな。発電機って魔道具で創れないかな? ここを直さないと、誰も連れてこられない。まいったな。誰だよ一体?」



 その頃。

「はい。とりあえず、これでも食べて。収納してあったから、傷んでない様だし」

 目の前に置かれた、コンビニ弁当。それにお茶のペットボトル。


「明日の朝食からは、お姉さんの分も用意するから」

「はい。頂きます。これってどこで?」

「ああ。お城。女の子がいて、捕まっていたから日本へ帰した。お姉さんも明日帰すから」

「えっ。良いんですか?」

「良いんじゃないの?」

 皆を見ると、頷く。

 エレメンタル達が、あれだけこだわり、帰してくれなかったのに。


 こんなにあっさり。

「良いって」

「そうなんだ……」

 エレメンタル達が帰さないと言ったのは、今朝のこと。

 それなのに。

 本人は、意識をしていないが、涙が流れ出す。


「あっ。暖めようか?」

「あっ。大丈夫です。そうじゃなくて、……エレメンタル達にまで、必要のない存在にされたのが、ちょっと。いえ、帰れるのは嬉しいけど」

 うーん弱っているな。でもなぁ、甘やかして懐かれても困る。


「まあ。明日には帰れるから」

「はい」

 そう言って、もそもそと弁当を食べる彼女。


 落ち着いたところで、部屋に案内して休んで貰う。


 さてと問題は、こいつらだ。

 ずらっと並ぶ、エレメンタル。

 もうね。当然という感じで。待っている。

 まあ、彼女達? からすると当然という感じなんだが、良いのかね。

「では、お願いします」

 ずらっと見られている中で、順番にして行くが、こちとらただの人間。

 そんなに無限に…… 出来るな。

 ただ、俺。遅くなっている? 先に彼女達がへたる。


 あーなんだか、体のコントロールが。そうか、力を貰ったせいかな。

 意識的に、コントロールが出来る。

 『接して漏らさず』貝原益軒(かいばらえきけん)の養生訓だな。

 年齢別の理想回数が決められていて、触れ合ってもいいが、それ以上は出さずに済ませる。

 健康の秘訣。今は、主に俺の。

 

 まあまだ、彼女達。体になれていないせい、とかもあるのかも?

 順番に寝かせていく。


 ……。あれ?


「1、2、3、4、5、6…… 7?」

「つくし、ほのか、ひかり、ちかげ、そら、いずみ、?」

 黒髪が、二人? ちかげとだれ?


 じっと見ていると、気がついたようだ。

「あの。私、今更ですが、奥村沙羅です。此処にしばらく置いてください。体、好きに使って良いので。それと、もう一回してもらえます? あんなに優しくて、満足できたの初めてで、愛されているとか、繋がっているって感じられて」

 そう言って、赤い顔で、つぶやくように言ってくる。


「あー。もう一回と言うことは、しちゃった?」

「ええ。凄くよかったです。こんなの初めて」

 これは浮気かな。浮気だよな。

 背中に、冷たい汗が流れる。


 何かを振り切るように、もう一回のお代わりをしながら、自分の能力を確認していく。これは、ハーレム王に俺はなれる。きっと、刺されなければ。



 その頃。

「んんっ? 何か嫌な予感がする」

 万結はガバッと目を覚まし、スマホを確認する。だが、当然既読が付かない。

「大丈夫だよね。改」

 心配している後ろで、寝言が聞こえる。


「あん。そんな所。もっと。改。好き」

 万結は凪紗の鼻をつまむ。

 凪紗は眉間にしわを寄せ、苦しがる。


「変な夢を見るからよ」



 そして、別の家では。

「体が痛い。どうしてこんなに筋肉痛なの」

 それにしても、新世 改。大学2年生か。ちょっと年上だけど、あの冷たい感じ良いわ。妖芽は助けられた時のことを思い出す。


 こっちは、服も着ていなかったのに、完全無視。

 女に興味がない訳じゃないと思うけど。他の男とは違う。

 どうすれば、会えるかな。まだ向こうかしら。


 あの周りの、女は、見たことがあると思ったら、あの時いなくなった女ね。

 どうして、髪や目が色違いで、幾人もいるのか不明だけど。でも、雰囲気が違った。まるでこっちを虫でも見る感じだった。


 何とか向こうに行けば、会えるかしら。

 しかし、私が気になる男に巡り会うとは、それも助けて貰って。

 狂華の言う王子様ね。白馬で来られても困るから、馬車、持っているのかしら?



 そして。

 理花は悩んでいた。

 隣には、苦悩の色を浮かべ、精根尽き果て。泥のように眠る安田。

 技を駆使して、搾り取られた後だ。ベッドに固定はされていないが、手足には、まだ枷が付いている。


「もう、基本的な技(こと)は覚えた。でも。肝心の本人がいなくなるなんて。あっ、でも。考え方を変えれば、これはチャンス。万結より先に見つければ。きっとこんな感じに」

 理花は脳内で、妄想する。

 画質は、8Kクラス。


 ジャングルの中で、死にそうになりそうな改を見つけ、改に口移しで、精力剤を飲ませる。そのまま、泉を見つけ、体を清めながら一戦をして満足して貰う。

 でも、手作りのお弁当も必要ね。疲れには、L-アルギニン、L-グルタミン、ビタミンC、ビタミンE、葉酸。それと、そうね。にんにく、アリシンも必須ね。他にも、主にタンパク質、ビタミンB1、B2、B6、カリウムも取れるし。でも弱っているとお腹が壊れるかな。

 でも、必死にそれを、我慢する彼も見たいかも。


「理花、助けてくれてありがとう。役に立たない万結は放っておいて、幸せになろう。なんて…… 良いかもしれない。これはチャンスね」

 ぐへぐへと、理花の妄想は広がっていく。

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