第ニ章 異世界側開拓
第31話 改は、一歩を踏み出す
「とりあえず心配する人が居るから、状況だけ説明する。スマホだけ向こうに出させて。ほんの先っちょだけ。良いだろ」
「それだけなら。信じて良いですか?」
何故だろう? 凄く悪い事をしている気がする。
「ほら、もう送ったから。大丈夫だっただろう?」
「はい」
そら達の、安堵の顔が胸に刺さる。
送った文面は、『おれだおれ、今異世界側。何とか無事で。精霊達と仲良くなった。何とかするから心配しないで』
それに気がついた、万結は返信を返す。
『あの女は? 逃げられたの?』
又手だけ出す。
受信して、中を見る。
「女? そういえば会っていないな」
『こっちに来たら居なかった。そっちじゃ無いの?』
『こっちにはいない。今、警察が参考人で手配した』
『分かった。こっちにいたら捕まえる』
『欲求不満でも、手を出しちゃ駄目よ』
『分かった。サービス期待する』
『あーうん。気を付けて』
「まあこれで良いか。よしみんな。家を作ってくれ。出来るか」
「家ですか? 何か参考になる物があれば」
「じゃあちょっとの間。向こう側へ皆でいこう」
そう言うと、そうか。という顔になる。
おれは、皆で向こうに言って暮らせば良いんじゃ無いかと考えるが、精霊が居なくなると、自然が死ぬのかとも思い、諦めた。
さすがに、どうかと思う。
「あの、建物がすべて家だ」
「あのような物で良いのですか」
つくしは離れず、構造を読み取っているようだ。
皆も離れず、おしくらまんじゅう。
俺の役に立ちたい、なんでも良いからヒントを。そんな感じが感じられる。
「分かりました。中にある物も把握いたしました。お役に立てそうです」
そう言って、つくしが嬉しそうに答える。
近寄ってくるので、頭をなでる。
すると、えへへと言う感じで目を細める。
それを周りの皆が、うらやましそうに眺める。
「よし。じゃあ、向こうで拠点を創ろう」
「「「はい」」」
「ああ。戻っちゃった」
「妖芽どうするの?」
「こいつらもいるし、面倒だが、サツに事情を説明。その時にあの人の情報も貰おう」
「さすが。じゃあおい。おまえらもいくぞ」
2人を連れて、警察に向かう妖芽と狂華。
万結は凪紗と、コミュニケーションアプリの文面を見ていた。
「みた感じ、元気そうだね」
「あーうん。おねえちゃん。これどうやって通信をしたんだろう?」
「そういえば、そうね。でも精霊と仲良くなったって書いてあるし、何とかなったんじゃ無い」
「うーん。帰れるけれど、帰れない感じかなあ。女じゃ無いよねえ」
「でも、改君。知らない人には、基本冷たいし」
「そうか。そうだよね。私だって半年以上掛かったし」
「そういう点は、安心ね」
異世界側。
「建物は、どこに建てますか?」
「あの魔王城からは離れていて、生産物を考えると、海に近い方が良い。崖じゃなく小高い丘で、水はいずみが何とか出来るのか?」
「はい。お役に立てます」
嬉しそうに、手を上げる。
「よしよし」
頭をなでる。
「じゃあ。そんな感じの所」
「では、まいります」
そらが、皆を連れて飛ぶ。
来たが、木が鬱蒼として、見通しが悪い。
だがその方が良い。魔王は、空を飛ぶかもしれないし、飛行型のドラゴンとかが居るかもしれない。
「よし。必要分だけ切り開き、整地をして、浄化槽を作ろう」
「浄化槽というのは?」
そらが聞いてくる。
すると、つくしが説明をする。
「向こう側の家。地下に水槽があり、水に含まれるゴミなどの沈殿と、小さな生き物が汚れを分解していました。こちらでも、川の河口に住んでいる者達が同じような事を行えます。水を綺麗にすれば良いので、最後のところに浄化魔法をかける仕組みを付け加えましょう。動作には魔物が蓄えた魔力が必要ですから、いくつか捕まえてくれば良い。ウサギなどなら改の食事にも使えますし」
「それなら、あのお弁当に使われていた植物の採取と、塩。砂糖というのも植物由来。豆と油を含む植物。仕事をする小さき者達を集め、仕事をさせましょう」
エレメンタル達が、役に立てると張り切り、姿が消えると何かを持ってくる。
そらが木を切った後を、つくしが整地して、土を石化させ基礎を作る。
脇に作られた浄化槽や、にょきにょき生える配管。
そらが、木を一気に乾かし、製材していく。
みるみるうちに、家が造られていく。
一部では、土が盛り上がり、ボコボコと瓦が生まれてくる。
「これは凄いな」
見ていると、壁にも断熱材か繊維が詰められている。セルロースだと思ったが、ちかげが教えてくれる。
「この繊維は、アラクネや大蜘蛛の糸で燃えにくく、丈夫です。これで私たちの服も作られています。先ほどのベッドという物やシーツも作る予定です」
「そうか。ありがとう」
頭をなでる。ちかげが黒髪に黒目で一番安心感がある。
そして、顔を見て、あの女を思い出す。
「そういえば、あの女はどうした?」
「あの女とは?」
ひでえ。皆が忘れている。
「俺と、子供を作らそうとした奴だ」
そう言うと、ああと言う顔になり。思い出したようだ。
「もう必要ありませんが。たぶん、子供なら私たちが作れるはずでございます」
「そうなのか? まあそれは良いが、必要ないと放って置くのも良くないだろう。探して来てくれ。むろん後で良いが」
いやそうな顔で、頷く。そら。
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