第29話 お城拝見

「どこかな、どこかな。まあ異世界側だろうな。水は飲めそうだし。あの小高いところにぽつんとあるのは、言っていた魔王のねぐらかな」


 独り言を、一通りぼやいた後。歩き始める。


 白い部屋で貰った能力は、今だ不明だが、あそこへ飛びたいと願う。

 さっき食らったばかりの、テレポーテーション(転移)を試すが出来ない。


 この前、家で散々テレキネシス(物体移動)とかプレコグニション(未来予測)なども試したが、出来なかった。

 物体移動で、手を前にかざし、うむむとしていると、万結が胸を持ってくるのは理解した。


 当然、光の剣や鏡も試した。いやあ、久しぶりに読み返したらおもしろかった。

 先生を偲び、思わず読みながら泣いてしまった。


 さて、超能力は発現をしていないが、体力はゴブリンハントのせいで上がっている。


 あっという間に、たったの三時間で到着したよ。

 ここまでずっと緩やかな勾配。さらにぽつんと盛り上がった所に建ってやがる。


 普通なら地平線まで、3kmだが、これだけ勾配があったのなら標高70mとか80mあるだろう。ならたしか30km位見通しがあるはず。

 それにな、数キロ走ったら足が動かなくなって、ヘロヘロとなった。レベルアップの恩恵はそんなに無いようだ。


 一瞬、たのもーとか言いそうになったが、本気で魔王ならまずくないか?

 ここに来て気がつく。


「さすがに、異世界の魔王だろ」

 頭の中で想像する。


 ゴスロリ決めたお嬢ちゃんが「のじゃ」と叫んでいるが、そんなことは、ほとんど無いだろう。

「ひょっとしなくても、まずいか。あの女よりはましと思ってきたが、帰るか。いやでもなあ。あの時電話で子供を作ろうとか言っていたけど、するのは良いが、その後助けに来た万結に、言い訳が立たんよな」

 ニコニコと笑い。包丁をかまえて迫ってくるのが見える。これは駄目だ。


 人間孤独だと、独り言が多くなるな。


 そっと、城の方をみるが、人気は無い。


「城。誰も居ない? はっ。俺に対し、空城の計(くうじょうのけい)か…… なんで? それは難しい問題だな」

 とうとう独り言で、ボケと突っ込みを始めた。これはヤバイ。


 こそこそと、開いている入り口へ入っていく。


 凜とした空気。立ち並ぶ石の柱。

 クルクルと見て回るが、何もない。

 あったのは、地下への階段。


「地下墳墓で、骸骨な当主がいるわけじゃないよな」

 努めて、こそこそと階段を降りる。

 途中から聞こえてくる、嬌声。


「げっ。魔王様。お楽しみでしたね。状態か」

 カサコソと、台所によく出る忍者を見習い。移動をする。


「あーこりゃ。良い景色。4つの裸体。そして、その横にコンビニ弁当とペットボトルのお茶。今切実に少し欲しい」

 ヤバイ。静かにしないといけないのに、声に出した。

 思わず、自分の口を押さえる。ヤバイ。目が離れない。女の子同士でなんとまあ。あんな感じですると、気持ちが良いのか。


 そっと、両手を上げたまま、近くに寄っていく。


 あれ? 気がつかない?

 3m。2m。1m。

 うん。一生懸命なめ合っている。

 一本だけ頂戴。

 手をのばし、お茶を貰う。


 パキッと開封して、いただく。

 うん、うまい。


 完全に彼女たち、目がいってるな。

 とりあえず、この牢だけでも壊してみるか。

 頭の中で、鉄の棒が切れることをイメージする。

 すると、音もなく切れた。

 下側を持って、引っ張ると上は抜けて鉄格子が倒れる。

 重い。ヤバイ。


 何とか、彼女たちに倒れかかるのは回避した。


 ズリズリと引きずり、脇に寄せる。


 彼女たちは忙しそうなので、ちょっとだけツンツンして、ペットボトルの飲みかけを握りしめ、外に出る。


 眼下に広がる景色を見る。

「あー良い眺め。さっきのもよかったけれど。さてどうするか」

『やっと、出てきおった』

 土の女の人が、激おこだ。多分。

 腰に手を当て、睨んでいるのかな? 無表情だからよく分からない。


『さて、戻って貰おう』

「なんで?」

『何でって、えーとあれだ。人間が増えるためなら相手が居る。一人では増えられないからな』

「こんな、何もないところで、さあ子供を作れって言われても、できるわけがないじゃないか」


『どうしてだ、オーク達は作っておるぞ』

「オークはオーク。人間はひ弱でね。力も無く体も弱い。だから環境を先に整えるんだ。さっき向こうの世界に来たの、あんただよな」


『そうだ。向こうへ赴き彼の地にいた精霊と言われる者と話を付けた。ある程度自由に向こうとこっちで、行き来する許可を貰った』

「じゃあ向こう側に、色々な作りの建物があっただろう」

『見た』


「ああ言うのが、必要。後は食べ物や病気になった時の医者とか。着るものとか」

『うぬ。手間が掛かる。だが我らには時間はある。なるべく叶えてやる。それで良いか?』

「ならついでに、力も分けて。精霊なら出来るのだろ?」


 そう言うと一瞬。動きが止まる。

『あの人間の娘に、力を分けた。そのため。おまえに渡すことは出来ない』

「どうして?」

『そういう、決まりなのだ』

「変だね。理由もないのに出来ないとか」

『試したことはないからな』

「じゃあ、死ぬことはないでしょ。試してみて」


 そう言うと、悩んだ末頷く。

『うぬ。よし。試してやる』


 そうして一部を、俺に投げてきた。

 その瞬間。体に取り込まれ、一気に力が吹き上がる。

「おおっ。こりゃ良い」

『何もならんな。単なる言い伝えか?』

 土の精霊がなんだか悩んでいる。


「問題ないなら、他の精霊にも頼んで」

『我々は、エレメンタル』

「却下。言いにくい。土だから土筆(つくし)。おまえの名前はつくしだ」

 俺がそう言った瞬間。土の精霊との間に何か繋がりが出来て、それが太くなる。

 さらに、土の精霊。姿が人間に近くなり体が変わる。


「なんだ、これは。あなたは一体?」

「いや俺も分からない。名前を言ったら繋がりが出来た」

「これは、ええ。確かに繋がっている」

 まあ良いんだけどね。

 あの女の人に近い顔で、裸だからなかなか照れる。


 今日だけで、一生分。女の人の裸を見た気がする。

「他の奴らも呼ぼう」

 つくしがノリノリで、通信を開く。

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