第28話 攫われた。

「さっき居た人、見たことある気がするなあ?」

 俺がぼやくと、悠翔が答えてくれた。


「あれだな、痴漢と間違えて、おまえを追っかけ回した人だ」

「あーそれで。で、あの人は何をしているんだ?」

「さあ?」


 一度、文字通り消えた。

 向こう側に攫われていた人たちが、バラバラと帰ってきた。

 それと共に、警官達も突入していき、白濁液を口から垂らしながら、例の人がタンカで運ばれていった。


「あのお姉さんも、やられたようだな」

 時折、ビクビクと痙攣しているのが痛ましい。


「まあ基本的に好きそうだったから、本望じゃない」

 万結が、身も蓋もないことを言う。


「あーまた出てきたが、周りにおかしな者を連れているな」

「あの土色の女の人や、周りの炎や半透明の物も、女性型だな」

 悠翔と2人で妙にリアルな女性みたいな物を観照していると、彼女は突然スマホで子供を作ろうと誰かを口説く電話を始める。


「エレメンタルって確か精霊だよな?」

「英語かな?」

 もうその不思議な光景に仲間はテンション爆上がり。

 工藤と木下は、別な方向にテンションが上がったのか、写真を撮りまくっている。


「おい、改。ズームしても細部までのリアルさが分かる」

 悠翔がのぞきこんで一言。

「これってさ、精霊が、あの女の人を模写している感じだな。ほら全部体型が同じ」

 そう言われて、まじまじと皆が見つめる。

 こういうことには、女性の方が鋭いのか、万結と薬研が口をそろえて「「ほんとだ」」と叫ぶ。


 その時、電話をしている女の人と、目が合う。

 無論一瞬で目をそらされたが。


 いやな予感がして、顔を背ける。

 気になって見直すと、さっきより距離が近い。

 また顔を背ける。

 いやな予感がして見直すと。スマホを見るふりをしながら、こっちに明らかに近くなってくる。


「おいおい。目を付けられたのじゃないか?」

「おまえが撮影をするからだろう。来てるぞ」

 また顔を向ける。


 1m位になっていた。

「あっやっぱり。この前はごめんなさい。あの後、謝る暇も無く魔王って言う人に捕まっちゃったの。ずっと異世界にいたの。かわいそうでしょ」

 そんなことを言いながら、工藤と木下を押しのける。


 工藤と木下は彼女の横にくっ付いている。精霊達をむきになって撮影している。

 この距離なら、細かな所までくっきりなのだろう。


 そして、俺の手を取る。

 ものすごいスピードで、反応が遅れた。こいつ本当に、人間か?

「えへっ。お詫びするから、一緒に異世界で暮らそう」

 そう言って、俺に微笑む。

 

 もがこうがどうしようが、掴まれた手はびくともしない。

 彼女は、横にいる精霊に、目で何かを合図している。

 ヤバイ。そう思った瞬間。見慣れない泉の側にぽつんと立っていた。

「此処何処だよ?」



 地球側。

 うざい女が、改を捕まえる。

 話を聞いた感じ、改にえん罪をかぶせた女。

「離しなさいよ」

 そう言って、掴みに行った手が突き抜ける。

「あれ? 改。あの女もいない。どこへ行ったの?」

「きっと攫われて行った。女と同時に消えた」

「じゃあ、向こう側に行こう」

 万結が裂け目に、走り出そうとする。


 腕を掴み、悠翔が止める。

「ちょっと待て、歩坂。向こう側もおんなじレベルの星があるとしたら、地球サイズを歩いて、探すつもりか?」

 それを言われて気がつく。


 それでも、悲しい顔をしながら、万結がぼやく。

「あっ。でも何とかしないと」

「分かっている。あの女が攫ったのは間違いない。所がだ。俺たちは、顔は見てもどこの誰かは知らないが、警察は知っているはずだ。この前の一件があるからな。丁度、工藤と木下が写真を撮っただろ。それで彼女を指名手配をして貰おう。なんなら今回のゴブリンの襲来を、彼女が男あさりに使っているのかもと流せば、国際手配も出来るかもしれないし」

「それ。えん罪だと、家族が悲惨だぞ」

 工藤が、珍しく。まともなことを言う。


「だがな、改を攫ったのが、精霊だとしても。彼女が何か指示したのは間違いない。誘拐主犯はあの女だ」

 そう言うと、工藤も確かに。という顔になる。


「良し警察は、その辺りにいる。捕まえて、友人が攫われたと報告しよう」


 そして俺たちは、混乱した現場で、巣の発見手続きと、改が攫われたという届けを出す。

 犯人の目星はと言うところで、写真を見せながら、先日改が痴漢えん罪をかけられ、その事を謝りながら、近寄って来たことを伝える。

 問い合わせて、すぐに分かったそうだ。

 家族から、その日に失踪届が出て、改が逆に誘拐に関与かもと警察に目を付けられていたようだ。


「分かりました、ですが、異世界側で主に活動で、その写真の精霊を使役していると。助けられた人や、警官でもそれを見た物が居て、あのオークだったか? あのごつい奴達の首をコロコロと転がしていたようだ。向こうに行くなら、自衛隊に応援要請が必要かもしれない」



「ごめんなさい。またご迷惑をおかけします」

 そう言って、土下座をしている彼女。

「もうこっちで、一人でいるのは嫌だったの。誰か、話し相手が欲しくて」

 そう言って、泣き始める。


「百歩譲って、良いとしても。近くだと、そのなんだ。あんた最近風呂へ入っていないだろ。匂いがちょっと。すまない」

 素直な改は、また女を泣かす。

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