第27話 皆さん、異世界へ来ませんか?

 沙羅は焦る。

 さっき見たのは、絶対住宅地。

 それに、今、周りで絶好調にゴブリンと、いたしているのは、どう見ても日本人だもの。

 

 さっき来た時には、空間の裂け目を優先し、泣き叫ぶ人たちを、ガン無視して、飛び出した。

 景色を見て喜んだら、浮遊感と共に、元の世界。

「何でよ?」

『使命を果たせ。子をなし。この地にはびこれ。この世界の母となれ』

「嫌よ。そんなの、あなたたちが勝手に言ったことで、本当かどうかも分からないじゃない。それより、周りの人たちを助けて」


『承知した』

 エレメンタル達は、素直に散らばる。

 この集落は大きく、ゴブリンとオークが、共存している。

 と、言うか、オークが、ゴブリンを使役している。



 うわー。攫われた。動けない。ゴブリン、力が強い。

 何かを吹き付けられて、力が抜くていく。

 あっ。僕ちゃん達。たすけてー。

 森下瑠璃巡査部長28歳。

 助けられることもなく。

 改たちに、冷たい視線で見送られる。

 特に、万結の目は心に刺さった。


 あらー、あんなに恨まれるなんて、ドキドキしちゃう。

 でも今は、だめー。

 さっき景色が変わったから、向こう側だけど、こんな明るいところで、脱がさないで。

 ああ。あの子なんか、3匹を一度に?

 あそこじゃ、あんな大きいモンスター。

 あんな太いの無理。でも何で、喜んでいる?


 分かった。ゴブリンの体液を入れられると、飛んじゃうんだ。


 私もそうなるの? 体がうごかない。

 ああっ。駄目駄目だめぇー。


 きっちり、3匹にたかられ。キメられた。

 もう。そこからはのりのりでゴブリンを相手にする。



 そんなことは知らない沙羅は、助けられ、浄化された人たちを日本側へ、一生懸命送っていた。


「目の前にある。ほんとうに目と鼻の先。日本との境。閉じる前に説明をして説得しないと。また帰れなくなっちゃう。もう、味気ないウサギは嫌なのよ」


 あれ以来、完璧に全く同じ条件のウサギが、ご飯時に供えられる。

 だけど、うまくないものはうまくない。

 多分塩が欲しいとか、醤油が欲しいと言えば、彼らは努力し。完璧な物を作ってくれただろう。

 そこには、沙羅の思いは至らなかった。


 すべてを、精霊達が倒し。

 皆を送った後。しらっと、揺らぎを越えようとするが、止められる。

 

 沙羅は考える。ここは、助けられたし、百歩譲って妥協点を見いだそう。

「あのね、あなたたち。私は、向こう側の住人なの。分かる? 帰りたいの」

『では我々はどうなる? 永きに及ぶ退屈。あっいや、神からの啓示を受け、送り込まれた者を手助けするのが使命』

「ねえ今。退屈って言った? 言ったよねえ」

『我らエレメンタル。そんな事は言わぬ』

「言ったじゃない。聞いたもの。ええ確かに。嘘をつかないで」


『エレメンタル。うそつかない』

「ねえ。どうしてこっちを見ないの?」

 だが頑なに、目を合わせない。


 こそっと動き始め、揺らぎへと移動。

 抜けようとすると、誰かに引っ張られる。

 捕まえることが出来る、エレメンタルは1柱しかいない。

 土が、足首を掴んでいる。


「あのね。私だって、いきなり子をなせと言われても、好みとか、心の準備とか色々あるのよ」

『では、どうすればよい』

「ちょっと、向こう側とこちら側を、自由に行き来出来るようにするとか、私の気になっている人を連れてくるとか、出来ないの? それに住むところも必要だし。色々準備が必要なのよ」

『行き来か? どれ、向こう側のエレメンタルと話を付けよう。空間管理は誰だったかな?』

『呼んでくる』

 そう言って、大気を司るエレメンタルが消える。


 そしてその間に、土のエレメンタルと、沙羅は地球側へ来た。

 エレメンタルが話を付けに行った間。沙羅はスマホを取り出しキャリアを確認。

 現在地を、スクショして、親や友人へ流す。


 そして気になっていた同僚へ電話する。

 子作り候補者、第一号。

 お願い。と祈る。

〈もしもし。木村君?わたし。奥村。奥村沙羅〉

〈奥村さん。今どこに? それと無事なんですか? ご両親も捜索願を出されたようですが?〉

〈いや、なんだか。魔王って言う奴に、異世界へ拉致されてたんだけど、捨てられて、今スクショを通信アプリに送った所にいるの。それでね、木村君よく聞いて。私と子供を作ってください〉


〈…………〉

 しばしの沈黙の後。言葉が返ってくる。

 切られなくてよかったと、安堵する沙羅。


〈はぁっ? 奥村さん? 本物ですか?〉

 本気なら分かるが、本物かと聞かれた。

〈本物よ〉

〈子供? 作る? 種族が変わって、サキュバスとかになったとか?〉

〈いや。冗談みたいだけれど、冗談じゃないの。エレメンタルって言う人たちに助けて貰ったんだけど、子供を産んで、こちら側で人を増やさないといけないの〉

 そう言うと、ため息の後。提案がやってくる。 


〈それって自分で産むより、募集をかけて、希望者募った方が早くないですか?〉

〈あっ。それはそうね。試してみる〉

〈今ので本人と分かりましたけど。僕、彼女いるんでパスしますね。それに結婚となると、奥村さんちょっとあれなんで。すみません。会社の連中には、元気そうだったと伝えておきます。では異世界での、人類補完計画頑張ってください。それじゃあ。プ。ツー〉


「ちょっと。ねえ。きむらあぁ」

 肩で息をするくらいまで、叫ぶ。

「奥村さん、ちょっとあれなんで。ってなによ。私の評価悪いの? いつもにこやかに優しく接してくれたじゃない。昔から皆、おっちょこちょいなところがかわいいとか、散々言っといて。最後は、疲れるとか、あれとか。好き勝手ばかり」


 その頃。

「おう木村。どうした? 変な顔して」

「変な顔は昔からだが、奥村さんからだったんですが、いきなり子供を作らないかって」

「行方不明の彼女? そんな台詞が出るって言うことは、借金がらみで危ないところに監禁されているのか?」

「いや、そんな感じじゃなかったけど」

「彼女、顔は普通だし。一度くらいなら良いけど、付き合うのを考えると。あれだよなぁ」

「ええ。あれでしょ」


 皆から、あれだと言われる評価。

 それからすぐに、奥村沙羅アカウントで、異世界移住者募集のつぶやきが投稿された。

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