第26話 思い通りには行かない

 少し騒動があったが、やって来ました。予測地点。

 場所は閑静な、住宅街。

「こんな所で開くのか? 家の中だと、どうしようもないぞ」


「そう言われても、マッピングをしたら、此処になっただけだからな」

 工藤と木下が、周りを探す。

 ゴブリンはいねがぁ。状態。

 住人からすると、不審者で通報間違いなしである。


 するとどこからか、ゴブリンの声が聞こえ始める。

「どっちだ」

 工藤と木下が方向を見定めたのか、走り始める。


 曲がり角を曲がったところで、誰かにぶつかる。

「あっ。すみません」

 そう言いながら見上げると、尻餅をついた工藤の前には、角ウサギを咥えたオークさんが立っていた。


「やったな。最高のシチュエーションじゃないか」

 こそこそと、木下が工藤に伝える。


「それは、食パン咥えた女の子の場合だ。ウサギを咥えたオークはいらん」

 それが聞こえたのか、オークの手が伸びてくる。


「変身ヒーローキック」

 そう言って、改が飛んでくる。

 すでにオークは、工藤の足を掴むため、しゃがみかけていた。

 そのため改は、オークの背中でバウンドしズリ転ける。


「何やっての?改」

 だが改は、ただではずっこけない。

 オークの股間を、後ろから思い切り蹴りあげる。

 足に伝わる、いやな感触。

 コロコロしたものが、潰れていく。

 そのぐしゃっとしたイメージで、自身もダメージを食らう。


「プゴーオオッ」

 断末魔的な叫びが、周囲に響く。


 さらに、膝の後ろへ攻撃が加えられ、膝立ちのオークに攻撃が加えられる。


 すると、住民達が、何だ何だと出てくる。

 そして非現実的な、光景を見て叫ぶ。

「虐待しているわ。だれか、警察を呼んで。あのままじゃ。……あれ、なあに?」


 怒り狂った、オークは再び大地に立つ。

 小柄なのかは知らないが、2mを超えた体躯。

 無論、鬱陶しい改達よりも、雌の匂い。

 すべてにおいて、優先される。


 オークは体の割には、俊敏で、さっき叫んでしまった女性は、あっという間に捕まり、連れ去られてしまう。


 住民達は、それを見て蜘蛛の子を散らすように自宅へと逃げ帰り、鍵を閉める。

 あちらこちらから、雨戸を閉める音がする。


「無茶苦茶丈夫だな。きっちり玉を蹴ったのに」

「あれ、どうやったら倒せると思う?」

「どこかその辺りの岩に、剣が刺さっていないか?」


 そんなことを、話していると人が出てくる。

 先ほど攫われた女の人の、旦那さんだろうか? 出てきて、周囲を見回している。

「さっき、攫われた女性の旦那さんかな?」

 声をかけてみる。


「さっき攫われた、女性の関係者さんですか?」

「女房が、いつものように叫んでいた声が聞こえたのだが」

「警察呼んで。の方ですよね」

「そうだ。またご近所に、ご迷惑でもかけているかと思って」

「いやそれが。叫んだ後。モンスターに攫われちゃって。本当に警察に連絡した方が良いかと思います」

 そう話していると、悠翔がやって来た。


「巣の位置は確認した。警察には発見の連絡をしたよ」


「モンスターに攫われると、どうなるんだね」

「女性の場合は、性的な暴行を加えられますが、命は助かる可能性が高いです」

「なんだと。助かるのかぁ」

 旦那さんの残念そうな顔。

 その時俺らは、闇を見た気がする。


 そそくさと、巣の方に移動をする。


「さっきは、ゴブリンの声がしていたよな?」

「ああ、最初だろう。俺も聞いた」

「悠翔、巣のところは、どうだったんだ?」

「仲良く出てきている」


「奴ら、仲が良いのか」


 そして奥へ行くと、宴が始まっていた。

 オーク達が5体ほどいて、女の人たちが抱えられている。

 そこへ、次々と人が捕まって、連れてこられる。

 すぐ脇に揺らぎがあり、ゴブリン達がまるでアリのように、出入りをしている。


 俺たちは、手前の壁に隠れてそれを見ている。

「さすがに、これに手を出すのは怖いな」

 やがてパトカーの音が聞こえ、集まってくる。だが、ここは住宅地。いつもの発砲音が聞こえない。


 やがて、お巡りさん達まで、被害に遭い出す。


「これ、どう見てもやばいよな」

「応援くらいは、呼んだだろ」

 そう言いながら、俺たち自身がゴブリン君と交戦中。

 気を抜けば、ヤバイ事態。


「あのヤバイ姉ちゃんに、連絡でもしてみるか?」

 悠翔とそんな話をしていると、本人が目の前を連れて行かれた。

「あー。現場に来ていたんだ」

「そうだな」


 あの門番のような、オーク達が居なければ、もう少し何とかなるだろうが。

 さっきの攻撃でも、倒しきれなかった。


「悠翔、改。ぼちぼち息が上がってきたぞ」

 工藤と木下から泣きが入る。

 周りには魔石が、結構転がっている。

「一体。どれだけ大きい。集落なんだよ」


「ごめん。改。私も限界が近い」

 万結にまで、弱音が出始めた。

 万結はメリケンサックと、特殊警棒で武装しているのだが。

 薬研は早々に、へたり込んで壁際に座っている。

 俺たちは、それを守りながら戦っている状態。


「あっ。やっぱり日本だ。やっと帰ってこられた」

 揺らぎの向こうから、見たことがある顔が出てくる。

 そして出てきた瞬間。

 オーク達の頭が爆散した。


「なんだあれ? すご」

 皆が注目する。

 そう。帰ってきた奥村沙羅。

 万歳をしたまま、エレメンタル達に異世界側へ引き戻される。

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