第24話 沙羅。エレメンタルが勝手に考えた、存在の核心。

 俺たちは理解した。

 こいつは質が悪い。


 トイレに、移動。

 普通に一つ開けて、便器の前に立つ。

「まいったな」

 俺がぼやき始めると、悠翔も同意する。

「お姉さん。言っていることと、やっていることが無茶苦茶だ」

 悠翔がしみじみと答える。

「女の人って怖いな」

 俺も、ものを振りながら答える。

「激しく同意する」


 手を洗い、トイレを出る。

 そこには、ヤバイ奴が仁王立ちで待ち構えていた。

「間に合った?」

「おかげさまで」

「じゃあ私も済ませるから、待っていてね」

 そう言って、横のトイレに入っていった。


 そしてしばらくして。

「ふうう。よかったわ。あなたたちがじらすから、自分でしちゃった」

 何を? 心の中で突っ込む。


「行きましょ」

 そう言って、ふらふらと駐車場へ移動する。


 色々危惧したが、無事学校までたどり着いた。

 そして、驚くほどあっさりと帰って行った。


「無事に帰ってこれた」

 2人とも、安堵する。



「うーん。何か隠していると思うけれど、尻尾を出さないわね。でもあまりやると、またお小言を貰うし。どうしようかしら? それに、悠翔君。あの目は駄目よ。やっぱり改君のほうがかわいい。初心さが良いわ」


 まだ諦めてないようだ。



 魔王城から放り出されたお姉さん。奥村沙羅はまだ、彷徨っていた。

 そして、幸運にも森が開けた所に、水の湧く泉をみつける。


「やった。お水。湧水なら大丈夫ね」

 あわてて、ペットボトルをゆすぎ、水を汲む。


 湧水でも、地質によって毒性などがあるが、そんなことは焦っている沙羅には思い浮かばない。


 幾度も、水を飲み。空腹をごまかす。

 人心地つき、ぺたんと座り込む。

「生き返った」

 おもわず、気持ちを吐露する。


 そう、独り言のつもりだったが、目の前に静かにたたずむ女性?

 一糸まとわず。水面に立っている。

「そなたは、人間か?」

 聞かれて、存在に気づき固まる。


『ふむ。そなたは、人間か?』

 今度は、直接頭の中に声が響く。

「はい。そうです」

『ほうほう。久しいな。もう永いこと人は居なかったが』

「私は、他の世界から、連れてこられたみたいで」

『なんと。それは難儀なこと。どのような役目をもって使わされた』

「いえ。何も無いと思います。何の力もありませんし」

『ふむ。ちょっと見せて貰おう』

 そう言うと、自身の体から水の玉を出し。頭からぶっかけられた。


「ひゃっ。冷たい。何を」

『ふむ。加護の類いも無い。神はなにを思って使わしたのじゃ。はっ。此処で私に巡り会わせ、力を与えろと言うことか。さす神。すべてを俯瞰し。理の中で役目を私どもに与えるとは。ううむ素晴らしい。そうとあっては、力を与えるだけでは無く面倒も見なければ。娘少し待て。他の奴らもよぼうぞ』


 なんだか1人で盛り上がる女性。呆然とみながら返事をする。

「はい」


 少しすると、自分の脇に、土が盛り上がり。

 女性になった。


 そして、どこからともなく、火で出来た女性も現れる。

 光る女性も。自分の影が立ち上がり、女性の形を取る。

 いや元々自分の影だから女性だけれど、一部がはるかに影のほうが立派。

 そして、水よりも薄い多分女性。


 意を決して、声を掛ける。

「あのう。あなたたちは精霊様でしょうか?」

『『『エレメンタル』』』

 頭の中で大音量の声が響く。

「あぎゃあああ」

 思わず、出してはいけないような声が出た。

 おまけに、ちょっとちびった。


『おお。すまぬな。ということで、皆、力を与えておくれ』

 水のエレメントの言い分に、口々に反論が出る。

『まあ力を与えるのは良いが、神の意というのはどうかな?』

『そうね。私もそう思う。まあ器としては、いけそうだけど』

『だが、何時以来かの人じゃ。それも、いい』


 そうして、沙羅は訳も分からず。精霊、いやエレメンタルから力を貰った。


 だが。

「ひょっとして、人が居ないと言うことは、食べるものがないということ」

『うん?人など、何でも食べていたと思うが』

 そう言って、土の形が崩れ。

 少しすると、角が生えたウサギを携え帰って来る。

『ほら。食えばよい』

 そう言って、突き出されるが、現在進行で、ジタバタしている。

 ウサギの目は、血走り。なにしてくれてんのおまえ状態。


「生きているのを、そのままではさすがに」

『そうなのか? オークどもはうまそうに食っているが』

 そして、べきべきと音がして、ウサギさんは動かなくなり、恨めしそうな瞳が沙羅を見つめる。

「ひいぃ」

『こやつ。力を与えても。これでは、すぐ死ぬぞ』


「すみません」

 そう言って泣き始める。

『まあ。面倒を見てやれば、暇つぶしになる。これをどうすれば食える』

「せめて、肉の部分だけを焼いていただければ。多分」

 風のエレメンタルがしたのか、首から下だけ皮が消え内臓も消える。

 突然火に包まれ、良い感じに良い匂いがする。


 首から上は、まだ睨んでいるが、体は美味しそうな感じ。

 食欲に負け、突き出されたウサギの前足をむしる。

 目をつむって、かじる。


 それは、今まで食べたこともないくらいの。

「生臭」

 思わず目を開き、ウサギさんと目が合う。

「ひっ」


『どうした?』

「たぶん。血抜きをしなかったからだと思いますが、食べられません」

 そこから、エレメンタル達の共同作業が始まり。

 10本以上の角が、そこかしこに散らばる。


 そして、素材の味が十分に生かされた肉ができあがった。

 味も素っ気もないが、噛めばなんとなくうまみを感じる。


 そして味見をしたせいで、お腹も張った。

 その様子を見て、エレメンタル達も嬉しそうだ。

『さて、考えておったが。神が使わしたなら。人の居なくなったこの地に。再び人を増やすのが、こやつの使命ではないか?』

 土が、土らしい意見を言う。


『そうか。それなら納得できる。だが人は番が必要だったはず』

『オークは、種族関係なく増やせなかったか?』

「いや、です」

 即拒否。


『嫌とな。ふうむしかし、この地に他の人間? おっおるな』

 風のエレメンタルが、別の方向を、見つめる。

『少し眠っておったら、至る所で空間が歪んでおるな。人も幾人かおる』

「そこへ。空間が歪んでいるところへ、連れて行ってください」

『よかろう』

 エレメントがそう言って、いきなり沙羅は飛び上がる。

「うっきゃあああぁ」

 またちびった。

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