第22話 悩み

「起きて改。朝ご飯が出来ているわよ」

「ああ。ありがとう。いつも綺麗だよ凪紗」

 そう言ってキスをして、洗面所に向かう。

 

 ダイニングで、テーブルに着くと食事を始める。

「いつも美味しいね。感謝をしないとなあ。役立たずの万結。おまえは何時、家を出るんだ?」

「わっ、わたしはそもそも??? なにこれ」

 カッと目が開く。


 周りを見回す。

「あー改の部屋だ。やばい最悪の悪夢を見てしまった。お姉ちゃんの旦那が改で、そこに居候。最悪」

 背中に、いやな汗が流れる。


 無論幸せそうな顔をして、改が横に寝ている。

「もう。かわいいんだから」

 チュッとキスをして、風呂場へ向かう。


 シャワーを浴びながら考える。

 切っ掛けを作ったのは自分。

 でもよくない。この流れだと、捨てられるのは自分になる。

 うー。捕まえるには、私の良いところ。存在証明を改に示さねば。

 エッチの耐久力だけでは駄目ね。


 この日から、改は謎の物質を食わされそうになる。

 万結の言い訳は、『タンパク質の完全炭化反応後に残る物質からの、栄養摂取と人体への影響についての考察とか』そんな理由を述べる。

 無論。改の反応は「どこを切っても炭だな。炭化したものはガンの原因になると昔警告が出ていたし、学会でも結果は出ているよな。科学系の薬研なら分かるテーマだが、建築で何でそんな研究? おまえ俺に、保険でも掛けたのか?」


 そう言われて、万結は焦る。

 このままでは、居候一直線になってしまう。

 すると、改は万結の頭にぽんと手を置いて、台所へ行ったと思ったら、少し経って目の前に皿が出てくる。

 目玉焼きにサラダ。カリカリベーコン。

「食いたかったんだろ。食え」

 泣きながら、それを食べる。


「おいしいよぅ。でも目玉焼きは、両面か堅焼きが良い」

「分かった」

 そう言って、涙を流し、ベーコンをかじる万結を見つめる改。

 すると、「ぐっ」と言って、万結の動きが止まる。


 改はグラスを、万結に向かって押し出す。

 万結は、一気に牛乳を飲み。一息を付く。

「盗らないから、ゆっくり食え」

「うん」


 最高だけど、最悪。


 万結の家は、100VのIH。

 改の家はガスで、点火ボタンの下に、レバー式の火力調整がある。

 小さなフライパンを、最強火力で調理は、非常に難しい。

 それに気がつくまで、数日かかった。



 魔王は、思い出していた。

 小学校5年生のとき、学校帰り。

 いつも通る川の横。突然足下に魔方陣が浮かび。転移をした。


 気が付けば、石造りの高い天井。

 そこに座り込み、周りを見る。

 周りを囲むのは、白い布。頭からすっぽりとかぶった大人達。


「此処はどこ? お家へ帰して」

 そう言って泣いたかな? 覚えちゃ居ない。

 召喚場所は、メディオラヌム王国。


 そして、訳の分かっていない、小学5年生相手に、勇者として召喚をしたのだから強くなれと一方的に言い放ち。そこから騎士達に混ざり訓練の日々。

 15歳の成人の儀。そこから、旅に出される。


 そこから、仲間だと思った。

 いや、思っていた4人と、フォローをする兵達。


 苦楽を共にする中で、魔法師のアイリが、22歳と年も近く。仲良くなった。

 無論体の関係はあったが、それは俺だけじゃ無い。

 あの世界。


 いや、この世界のあの時代は、婚姻などは無く。

 適当に付き合い。適当に子供が出来れば、育てる世界だった。

 無論、法術師のエルナとも体の関係があった。彼女は35歳。だが、術の効果で成長が止まり。幼く見えた。無論俺よりも。


 あの時は、楽しかった。


 いや、あの後。

 魔王を、倒してしばらくは楽しく暮らした。

 家に、アイリ達を招き、パーティを開き。


 あるとき、パーティへ乗り込み。奴が、王が言い出したつまらぬ話。

「貴様。魔王を倒し、頭に乗り。我ら王族を排除。王国の転覆を謀るとは許しがたし。捕らえろ」

 そうして素直に捕まった俺も俺だが、魔力を封じられじっとしてれば。

 仲間だと思ったあいつらが、ニヤニヤしながらやって来た。


「ごめんね」

 アイリが言う。

「僕ちゃんの体もよかったけどさ。お金と名声を貰うことにしたんだ。楽しんだし良いよね」

 エルナが言う。


「いやまあ。俺も30だし。今度良いところの血筋と婚儀? を行うことになって。もう少し、出世をしたいんだ」

 騎士アハトが言う。こいつは確か30歳。この世界、貴族には婚姻があったのか。


「聖魔法は、教会のもの。貴様に種をまかれ、門外に広げられてはかなわん。どうせこの世界では異端の者。子供が出来るかは分からぬが、手を打たせて貰った」

 聖魔術師アウグストが言う。こいつは35歳だったはず。


「教会も色々と世知辛くてね。出世には、タイミングと手柄が必要なのだよ」

 それが理由か。つまらん。


「何故こんな事になったかと思えば、実に下らん理由だな。勝手に人を向こうからこちらへ引っ張り込み。勝手な役割を与え、生きていくなら働けだと。俺はなあ、おまえらにじゃまされなければ、学校へ行って。彼女でも作って、仕事をして。結婚をして。幸せに生きるはずだったんだ。俺の人生を返しやがれ」

 そう言って力を解放した。


 牢の上にあった、城はもちろん。城ごと王都は消滅した。


 だがその後、触れが大陸中に伝えられており、なまじっか顔が売れていたために安息など無かった。


 それで、奴ら原住民を根絶やしにした。

 まあモンスター達を嗾(けしか)けるだけで、ほとんどは済んだ。

 そこから、アイリに習っていた、理術を練り直し。応用をして、寿命など超越した。


 

 そう。決して、こいつらのように。

 お気楽じゃ無かった。


 おれは、世話をしろと言ったのに。

 後から来た奴らが、ゴブリンの体液で酔っているから。

 反応がおもしろいと言いだし。レズってやがる。


 なにが、「反応かわいい」だ。

 浄化はしたが、体内には成分が残っていて。それでこいつらも、また酔ったのかもしれないが。俺が姿を見せても、裸のままだし。

 やっぱり、服も要らないのじゃ無いか?

 今の間に混ざるか? いや、ひょっと酔うとまずい。

 ええい。

 悔しそうに、転移していく。

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