第21話 一歩進んで、二歩下がる

「ねえ、どうしよう? 狂華」

「と言っても、ここから出ないと、どうしようもないけれど」

 

 ぼやいている二人は、同じ高校に通う幼馴染。親の代から仲いい。

 河合妖芽(あやめ)1月生まれのため、まだ16歳。168cmでほっそりめ。

 髪に赤のメッシュを入れて、仲間には赤の女王と呼ばれている。


 下野狂華(きょうか)9月生まれで17歳になった。172cmちょっとグラマー。

 無論彼女は、青のメッシュ。通称、青の女王。

 二人ともちょっと大柄だが、親の体格が立派なため家族の中では目立たない。

 狂華のお兄さんは、狂一郎。195cmある。


 2人は、ちょっと学校をサボり。買い物に出たところを攫われた。

 二匹や三匹は倒したが、数には勝てなかった。

 そう、彼女たち。子供の頃から、親に空手を習わされて結構強い。


 自称魔王が、ゴブリンの集落を訪れた時間。

 捕まっていた中で、若い女性がこの2人だったのには訳がある。


「はあ。まっぱじゃ恥ずかしいし。せっかく守ってきたのに。あんなモンスターに奪われちまった。せっかく、人が望んでいたささやかな願い。白いレク○スでダウンサスきめた、お金持ちが現れる予定だったのに」

「ばかねえ狂華。そんなのいないよ。親父がロースロの、防弾仕様に乗っているような奴が、堅実なんだって言っていたよ。それに、モンスターだからノーカンだし、最初の辛いのをすっ飛ばして、気持ちよくなったんだから、ラッキーじゃね。家のマミーも、最初は辛いって言っていたし」

 狂華は何か考えていたが、納得したようだ。


「確かに、なんだか知らないけれど。気持ちはよかった」



 少し離れた、柱の陰。

「あーちょっとあれかな?」

 魔王様は見ていた。

「初めてとかはあまり気にしないけれど、ちょっとタイプじゃ無いな。どうしようか?」

 悩んだ末に、牢の檻を消す。

「放流。君達は自由だ」


 ついでに、玄関までの経路。すべてのドアを開く。


「適当に、巣を巡るが。オークの後はいやだな。やっぱりゴブリンか。でも正気に戻るまでは気が乗らないし。あの女を離すんじゃ無かったな」

 ブチブチ言いながら、転移をする。




「おーい。妖芽。檻が無くなった」

「えっ」

 言われて、見ると確かに無い。


「出ようぜ。今のうちに」

 そう声を掛けるが、妖芽は動かない。

「どうした」


「出て、どうするつもり?」

 聞かれて、はたと止まる。狂華。


「どうしよう?」

「ねっ。困るでしょ。まっぱで此処がどこかも分からない。食べ物も無けりゃここから離れれば水も無い。下手すりゃ、あのモンスターに、またまわされるだけ。ただ、気満ちよくて、死にそうじゃ無くて、本当に死んじゃうけどね。多分」

「じゃあ、どうしよう」

「するなら、このお城の探検だよね」


「そうか、そうだね。さすが妖芽。行こうぜ」

「一応、そこにあるペットボトルをゆすいで、水を入れるよ」

「あっそうか。そうだな」

 いそいそと、ペットボトルを洗い。水を用意する狂華。

 その背後で、シーツを体に巻き付け、またトーガのような服にする妖芽。


 ペットボトルを持って嬉しそうに振り返り、姿を見て動きが止まる。

「ずるいぜ。あたしも」

 そう言って、リネンの棚からシーツを取り、あわてて体に巻くが微妙にノリが効いて堅い。

 歩くと、あんな所やそんな所がこすれて痛い。


「ええい我慢」

 そうしているうちに、妖芽はペットボトルを持ち、階段を上がっている。

「チョ待てよ。妖芽」

 あわてて走り始める。だが、妖芽はきちんとトーガ風に巻いたが、狂華は適当に巻いて結んだため、背中側は引きずっていて、幾度か裾を踏み。脱げた。

 そのため、担いで走り始める。



「此処が1階か」

 そう言いながら、ぐるっと見て回る。

「外が見えるけれど、見てみるか?」

「でて、ドアが閉まらなきゃ良いけどね」

「あいつなら、あり得る」


 1階は、天井が高く。地下と同じように。等間隔で、大きな柱が天井を支えている。


「上への階段はどこかしらね」

「エレベーターじゃないのか?」

 そう言われて、一瞬妖芽は止まる。


「エレベーター? あれば良いわね。楽だし」

 狂華を一瞥して、クルクルと柱を回り。何かを探し始める。

「残念、なさそうよ。柱に、隠し階段でもあるかと思ったのに」


 それからも、探し回るが、階段は見つからない。

「どうなっているの? そもそもが、ここは1階のホールだけ? 外からお城へ入る? それとも、地下から別の階段でもあるのかしら」

 座り込んで、考え始める。


「よし。分からないことが分かった。本人に聞こう」

 そう言って地下へ降りる。隠れて見張ること数時間。

 白い液で汚され、ぐったりしている女の子2人を抱え、魔王が転移をしてきた。

「浄化」

 ぐったりしている2人は、白い光に包まれて綺麗になる。

 だが、か細いながらも自身をなで回して、すすり泣くような嬌声を上げている。


「まあこれで、2~3日で正気になるのは分かったから。待つか」


 振り向き、檻の範囲外へ出ると、檻を造る。

 首筋に、腕が巻き付き。ぷにゅっとした感覚と共に、背後から言葉が聞こえる。

「捕まえたぞ。この野郎」

 背後にいるのは、狂華。


「やれやれ、出て行っていなかったのか」

 何か力を発し、狂華が後ろ向けに転がる。

 いい加減にシーツを巻いていただけなので、色々なものが見える。


「なんだ、裂傷まであったのか。痛いだろうに。治療してあげよう」

 そう言うと、4人共に白い光に包まれる。


「居たのなら、食べる分は働いて貰おう」

 次の瞬間、狂華と妖芽は軽い浮遊感と共に、檻の中へ逆戻りした。

「ベッドの上にお茶と、相変わらずコンビニ弁当で悪いが、積んである。彼女たちの世話をしておくれ」

 そう言って魔王が消える瞬間。

 弁当とお茶が二個追加された。

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