第20話 お姉さん達

 学食の喫茶室で、万結と名刺を眺めていた。

 わらわらと、示し合わせたように皆が集まってくる。


「何だそれ?」

 目ざとく、工藤が聞いてくる。


「名刺」

「どこか、怪しいお店に行ったのか? 連絡すると、周りを怖いおじさん達に囲まれそうだな」

 ニヤニヤと、そう言ってくるが、全くもって同意だ。

「やっぱり、そう思うよな」

 俺がそう答えていると、万結が素早く名刺を盗る。

 そして、電話をし始める。


「もしもし。だあれ?」

「今朝、名刺を貰ったものです」

「あら? ぼくちゃんに渡したはずなのに、どうしてかしら?」

「危険そうなので、私が代わりに電話しているだけです」

「そうなの? まあ近くにいるようだから良いか」

 モードはハンズフリーでしゃべっているから、向こうも分かったのだろう。


「あなたたち、変な能力を持ってない? ゴブリンの巣を探知するとか?」

「持っていないわよ。大体あなた本当に警官なの?」

「そうよ。地域安全課特別対策班。森下瑠璃巡査部長28歳。おわかり?」

「まあ良いわ。それで、話は終わりよね」

 万結が切ろうとする。

 

 だが。

「いえいえ。ここからが本番。大事なお・は・な・し。新世君、あなた。高校生5人を助けたとき、何をやったの? 話を聞いたら、集落一つ消えていて、数百個の魔石拾いをしたって、調書が上がっているわよ」

「なにそれ?」

 万結が俺に聞いてくる。当然とぼける。


「行ったときにはその状態でした。まあ数匹残っていたので、何とか倒しましたけれど」

「あら、そうなの? じゃあ、その時他に人は?」

「瓦礫というか、大きな草の葉っぱに埋もれた、高校生達くらいです」

「ふーん、そう。うーん。じゃあ。いいわ。何かを思い出したら、電話してね。夜ならビデオ通話で掛けてくれば、サプライズもあるかもね。待ってるわ。ちゅ」

 そう言って、通話が切れる。

 無論名刺は、すでにシュレッダー状態。犯人は万結。


「で、本当は?」

 万結につめられるが、当然ごまかす。

「無理に決まっているだろう」

「まあ。そうだよね。普通」


「うん。何の話?」

 遅れてやって来た、悠翔。こいつはトイレに籠もっていた。


「何でも無い。手は洗ったか?」

「当然だよ。いつまで、中学校の時のことを、言うんだよ」

「何それ?」

「悠翔ってさあ。俺が言うまで、トイレから出て、手を洗っていなかったんだよ」


「あー外国人で結構いるって言っていたな。日本人くらいじゃないのか。真面目に洗うの」

「悠翔って、外国に行っていたのか?」

「いや、行っていない」

「じゃあハーフ?」

「わけない。そんなに大事だなんて、思わなかっただけだよ。親に言われても洗ったよって言って適当に」


「それで、今日の放課後は、どうする?」

「用事があるし、今日はパスかな」

 工藤がそう言って、木下も手を上げる。


「じゃあ。オフにしようか」

 何故か、悠翔が締める。


「そういえば、悠翔。声は掛けてみたのか? 気になる女の子には」

「あーいや。掛けていない」

「なんだよ。おまえなら問題ないだろう」

「あるよ」

 どこの芸能人だよ。


「まあ、ぼちぼち行くさ。歩坂方式だな」

「あー。がんばれ」

 万結が声を掛ける。



 所轄。警察署。

「うーん。ああ言われるとなあ。証拠がないし。現場には行けないし。困ったわね」

「どうされました?」

「うん? ああ。現場に再び行けないのが、辛いと思っていてね」

「ああ、そうですよね。突入時のウェラブルカメラのみですものね。あれそういえば、同じ現場で、一度閉じたのに同じ所に開いたって報告がありましたね」

 若い捜査官が、資料を探す。


「これですね」

「部長が、現場で巻き込まれたときのか。あら?これも、あの僕が発見者じゃない。いやあねえ。また、会わないといけないわね」

「また、お姉さんごっこをやっているんですか?」

「意外と、若い子だと素直にしゃべってくれるけれど、彼女がじゃまでね。今回うまく行っていないのよ」

「苦情が来ないようにしてくださいよ。前に旦那が誘惑されたって、大騒ぎになったんですから」

「いやまあ。分かっているさ。気を付ける」



 異世界側。

 見たことのない植生の森。

 なるべく意識的に、真っ直ぐ突っ切っていく。

 ただし、少しずつしか飲んでいないのに、ペットボトルのお茶は残りが少ない。

 サバイバルで、自分のおしっこを飲むとか在るけれど。私には無理。

 水を、なるべく早く見つけて、何とか煮沸しなきゃ。


 魔王城。

「あら? お姉さんがいなくなっている。もしかして、逃げた?」

「待ってよ、逃げたなら方法は?」

 二人が騒いでいると、声が聞こえる。


「方法は、僕が出したからだよ」

 とっさに、しゃがみ。体を隠す二人。


「なによ、あんた」

「うん? ああ、君達をゴブリンから助けた恩人で、元勇者だ」

「勇者?」

「ああ。この世界に呼ばれたが、魔王を倒したら追放されてね。ひどい目に遭ったよ」

「それは、かわいそうだけど、私たちをどうする気?」

「別に。助けただけさ。正気を失っていたから、檻に入っている」

 黙っていた方の子が、言葉をかける。


「すみません。服とかはないのでしょうか?」

「必要?」

「出来れば」

「じゃあ、何とかするか。元のはビリビリだったしな。し○むらのスエットで良い?」

 その言葉を聞いて、反応をする。


「帰れるのなら、帰して」

「帰るの? それは寂しいな」

 そう言った瞬間。勇者の雰囲気と周囲の空気が変わる。


 二人は、小さく悲鳴を上げる。

「まあ、その前に、服だね」

 そう言い残すと、姿が消える。

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