第10話 救出

「まあ。明日だな。9時に現地集合でもするか?」

「間に合うか?」

 悠翔が聞いてくる。


「それは、どっちの意味だ?」

「無論。やられたかという意味だろ」

 悠翔の目が光る。おれは、それを聞き、答えをだす。


「無理。あいつら、連れ込んだら、すぐに何かを吹きかけて、皆が動けなくなる。すると、間髪を入れず。いたしていたからな。捕まっているなら、今の時点で駄目だ」

「そう。なのか?」

「ああ」


 落ち込んだ雰囲気が漂う。


 その頃。

「ねえ此処、何処だろう」

 みすぼらしい、塀に囲まれた所。


 さっきまで、ゴブリン達が大騒ぎをして、攫ってきた人たちを襲っていた。

 安田と薬研は、ゴブリンが出始めたときに、逃げ惑い。地下道から駅の反対側へと、抜けようとした。


 ところがいきなり景色が変わり、目の前には大量のゴブリン達。

 安田は薬研の手を引き、思わず洞窟の奥へと逃げ出してしまった。


 奥に隠れていたが、やがて静かになり様子を見に来ると、すでに何も居ない空間。

 やがて、日は落ち。持っていた菓子パンや、飲み物を分け合って食べる。

「帰れるのかな?」

「何とかなるさ。頻繁に奴らが来ているのなら、空間が繋がるっていうことだ。その時さえ。見落とさなきゃ。ゴブリンに分かるなら。きっと何か兆候があるはず」

「安田君」

「建太と呼んでくれ」

 優しくキスをして、抱きしめる。


 空には、満天の星々が、見慣れた星座を形作っていた。

「私も理花って呼んでね」

「分かった」

 盛り上がった彼らは、気がつかない。


 そして、盛り上がった彼らは、止まらない。


 遠くで、オークやオーガの雄叫びが聞こえ。空にはドラゴンの飛び交う中。彼らは盛り上がった。



「これは、ゴブリンじゃなく。自分たちで盛り上がったな」

 気がつけば、友人達にニヤニヤとみられる中。ほとんど、裸で抱き合う2人。


「おう。起きたか。帰るぞ」

「いやぁー」

 響き渡る。理花の叫び声。


 めでたく彼らは救出され、今、見慣れたファミレスでがっついている。

 友人達のニヤニヤした。生暖かい視線の中で。


 時は少し戻る。

 仲間に集合を掛け、状況を説明する。

 絶望的雰囲気の中、昨日の記憶をたどり。皆を地下道へと案内をする。


「この辺りだったけどな? 空間的揺らぎとか見えないか?」

「そんな超能力は、普通持っていないだろ」

 あきれた感じで、工藤がぼやく。


「どんな感じに見えるんだ?」

「水面に波紋が広がる感じで、揺らぎがあるんだ」

 皆に説明をする。


「場所は、本当にこの辺りか?」

「昨日はな。丁度こっちから見て向こう側が、揺らいで見えたんだ」

 そう言いながら、思い出す。

 帰りは、俺が開いたな。

 昨日の、景色を思い出しながら、繋がれと念じてみる。


「おい。これじゃないか?」

 木下が叫ぶ。目を開けると、ゆがみができていた。

「誰か手を突っ込め。切られても手だけなら生えるだろ」

「俺は、ヒトデもなければ、プラナリアでもない」

 隣に居た工藤が、ぶーたれる。

「そうか知らなかったよ。残念だ」

 そう言いながら、そっと顔を突っ込んでみる。

 眼前には、見慣れた奴らの、見慣れない格好。

 実に素晴らしい。


 俺は顔を引き抜き、皆に宣言をする。

「大変ショッキングな物を見ることになる。心構えをして中に入れ。決して叫ぶな」

 そう言って、向こう側へ移動した。


 残りの奴らは、顔を見合わせ、悲壮感を持ちながら。

「行くか?」

 そう言って、続いてくる。


「うんまあ。確かにショッキングと言えばそうだが。言い方。勘違いをするだろう」

 悠翔が、ぼやき始める。


「理花ちゃん。お胸かわいい」

 万結がニヤけている。

「こら。そんなことを、言うものじゃ無い。工藤捲るな」



 そう言って、なぜか見守る。

「そろそろ、起こすか?」

「すごく幸せそうだけど。仕方ないよね」


 そんなことを言っていると、安田が目を覚ます。丁度良かった。

「おう。起きたか。帰るぞ」

 その声で、理花も目を覚まし。一瞬で状況を把握。そして叫ぶ。

「いやぁー」


「ひどい。黙ってみるなんて。もうお嫁に行けない」

 そう言って、顔に手を当て、いやいやしているが。

「安田が貰ってくれるから、大丈夫だ。助けに来たし。飯くらいならおごってやる」

 俺がそう言うと、いきなり顔が上がり。仕方が無いという顔になる。そして。

「デザートも付けて」

 すかさず、理花から注文が来る。


「ああ良いぞ」

 そう言って、ファミレスへ移動。スキップをしているのは気のせいか?

 随分安い。言わないけどな。

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