第9話 どっちだ

「あー。まいったな。おまえもひょいひょい攫われるなよ」

「攫われたくないけどね。きっと体重が軽いからね。攫いやすいんだよ」

「うー」


 夏の夕暮れ。

 そう。事情聴取は、意外と時間がかかった。

 行きは地下道。帰りは駅前。


 どうしてかなど。当然、知っているが言えない。

 あのじいさん。散々下位の生物って言っていたから、上位なんだろうなあ。一般に言う神様か?


 まあ答えられる訳もなく。

 そのため、分かりません。記憶にございません。善処し対応を検討いたします。

 後は、情報を精査いたしまして、また後日といって納めた。


 うん。定型文は偉大だ。


 疲れたし、背中の惣菜も、どうなったのか。怖くてあけられない。

「疲れた。野郎ども酒盛りじゃあ」

 そう言って、帰り道のドラッグストアに突入をする。


 ビールとかを買い込んで、乾き物を放り込む。

 ふと見ると、薄いのが5ダースほど、カゴに入っていた。

 まあ良いか。


 いい加減寂しくなった、財布の中から、金を支払い。家へと帰る。


 家に到着。

 惣菜物の、匂いを嗅ぎながら選別をする。


「冷蔵庫。冷蔵庫。チン。冷蔵庫。廃棄。チン。チン。廃棄」


 ぶつぶつと言いながら、選別をする。

「うーん。チルド物なら、まだ大丈夫か? 冷蔵庫だな」

 惣菜をチンした後。

 もう一度、匂いを嗅いで判断する。

 ツンとする匂い。だまって、ポイする。


「結構。駄目になっているな」

 俺が選別している間。


 万結は、帰ってきた瞬間。

「暑かった、風呂じゃ風呂じゃ」

 そう言って、風呂場へ向かった。

 何処のおっさんだよ。


 もうすでに、熟年夫婦。

 俺に対して、恥ずかしい物は無いと。豪語していた。

 まあ。気を使わなくて良いのは、楽だけどね。


 緊張して、腹の探り合いをしながら、日々生活とか。

 最悪だよ。


 かといって、こいつみたいに、全裸肩掛けバスタオルで、出てくるのはどうだ?

「惣菜。結構駄目になったね。もったいない」

「暑かったからね。30~40℃の雑菌繁殖温度が、結構長かったからな。まあこっちは大丈夫そうだ。先に食え。少し経ったら俺も食うよ」

 一瞬、割り箸で掴んで。口に入れようとしたが、万結の動きが止まる。


「はい。改ちゃん。お上がり」

「何だよ。大丈夫だよ」

「えー」と言いながら、匂いを嗅ぐ。


「ばかか、俺がそんなトラップを、仕掛けるわけ無いじゃ無いか。俺も風呂に行くからだよ」

「なんだ。大きい方もするところが見たくて、トラップを仕掛けたのかと思った」

「そんな趣味は無い」

「ほんとうに?」

「本当だよ」


 大体片付けて、風呂へ行く。

「しかしまいったな。自分のできることを、ちょっと把握しないと困るな」

 その時作り上げた、落書きソードを思い出す。


「美術不得意だしな」

 本気で静物のデザインでもするか。

 

 風呂から出て、リビングに行くと、あぐらをくんで、惣菜をつまみ。チューハイを飲みながら、テレビを見て笑っている。どこからどう見ても、立派なおっさんがいた。

「おい。おっさん美味いか?」

「うん美味しいよ。はいあーん」

 ラスト一個のエビチリ。

 もぐもぐ食べながら、ソファーに座る。


 俺は、Tシャツに、短パン。

 こいつは、相変わらず、バスタオルのみ。

 何かおかしい絵面だが、良いのか?


「寒くないのか?」

「うん大丈夫。したいなら良いよ。いつでも。大体私がこの格好なのに。何で服を着てるのよ」

「俺が悪いのか?」

「そうよ。それじゃあ。今と言う時を逸してしまうじゃない」

「おまえの劣情は、そんなに刹那の時間なのか?」

「いっやあねえ。途中で言葉を挟むとさ、つい正気に戻るじゃない? やっぱりちょっとてれるもの」

「照れる奴は、そんな格好しないだろ」

 そう言うと考え始める。


「それって、どうなのかしらね」

「なにが」

「いざというときに脱ぐと。今からと言う決意とか緊張が出るじゃない。あらかじめだったら、有無を言わさずできるから。なんとなくお得?」

「何だそりゃ」


そんなことを言っていると、チャイムが鳴る。

「ほーい」

 そう言って立ち上がろうとするが。

「ちょちょっと待って。わたしの服どこ。ぱんつ」

 裸で走り回りだした。


 玄関へ行き、スコープを見る。

「なんだ、悠翔か。ちょっと待て」

「おう。早くしろよ」


「もう良いか?」

 万結に声を掛ける。


「うっうん」


「お待たせ」

 ドアを開ける。

「なにやってんだよ。おせーよ。あれ? 歩坂。もしかしてお邪魔だった?」

「いっいえ別に。大丈夫よ。ほほほっ」

 そう言いながら、ブラをかぶって、トイレに走った。


「そんで、どうした?」

「うん暇だったし。ほれ。チューハイ」

「おうありがと。お返しだ。つまみに自然発酵したお惣菜はどうだ? 得も言われぬ香りがするけど」

 そう言って、台所の一角を指さす。

「自然発酵? の惣菜? それって傷んだっていわないか?」

「そうとも言う」


 悠翔は、やれやれという顔で、歩いて行き。向かい側のソファーに座る。

「ここにも大量に、惣菜。何かパーティーでも、開く予定だったのか?」

「いや。予定じゃ。耐久の堕落した生活をするつもりだったんだが、ゴブリンにじゃまされてな」

「ゴブリン?何処で」

「駅前。ショッピングモールの所」


 チューハイのプルトップをあけて飲み出す悠翔。


 グラスを持ってきて渡す。

「ありがと。いや実は、建築の安田と化学の薬研に、連絡が取れなくってさ」

「あいつら? 会ったぞ。昼前に」

「何処で?」

「ゴブリンがパーティを開いていた。……会場近く ……でも全員。救出したぞ」

「もう一回連絡してみるよ。朝あいつから、きゃっほー。今日はデートさ。悔しがれって連絡が来て、以来だからな。しけ込んでいても猿じゃないから、もう出てきてるよな」

 そう言って、コールするが、『奴ぁは、電波の届かないところにいやがるぜ。きっとばっくれやがった。時間をおいてもう一度。連絡して見やがれ』そんなアナウンスが流れた。


「さーてと。どっちだ」

 思わず、悠翔と見つめ合う。

 パシャッと、写真が撮られる。

 万結がカメラを構え、赤い顔をして、くねくねしていた。

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