第7話 強制的アドベンチャーレース

 結局、万結は居着いた。

 そしてこりもせずに、限界に挑戦して、俺にすべてをさらけ出す。


 「あー。こんなに過酷な物だとは。トライアスロンでも、こんなに過酷じゃないと思う」

 なにか、ぶつぶつと言いながら、膝の中にすっぽり収まっている。

「でも幸せ。ふふっ」

 とか言いながら。


 幸せなのだろう、肌つやが良くなっている。

 普段から、あまり化粧をするようなタイプではなく。健康系少女的な万結だが、俺から何か吸い取っているのじゃないかと思える。

「アイス。あーん」

 すっかり、あまえんぼ。

 いやこれは、前からか。


「明日はさすがに、大学へ行かないとな」

「何しに?」

「何しにって、もう俺。2日も授業を受けていない」

「それは良い心がけだけど、明日は土曜だよ」

 言われて、カレンダーを確認する

「えっ。あっ本当だ」

「だから、午前中。お買い物っへ行って、後は、いちゃいちゃする?」

「おまえなあ」


 まあ出かけるが、比較的新しい大学。

 そんな大学ができるところは、田舎だと相場が決まっている。


 当然。

「おう。デートか万結。良かったなあ」

 そう言ってくるのは、建築の安田と化学の薬研理花。

「そう言う、おまえ達。変わった組み合わせだな」

「そうか? おまえが相手しないから、今まで結構。おれは両手に花で行動していたんだ。そこで、万結が抜ければ、あら不思議。おかしくないだろ」

 そう言って、安田はヘラヘラ笑う。

「まあそうかな」



「ねえねえ。うまくいっているの?」

 少し離れ、こそこそと、薬研と万結が話し始める。

「うんまあ。ただまあ予想より強い。あんなに激しいものだとは思わなかったの。体がなんか、強化されて、私も強くなった気がする」

「そんな物なの?ちょっとイメージが違うけど」

「うんでも、一日目は立ち上がれなくなったのが。2日目で平気になったの。今日はもう体が軽いわ」

 そう言って、万結はその場で、くるくると回る。


「えっと、何かのトレーニングの話? 私エッチの事かと思ったけれど」

「うん。エッチ。丸2日エッチ三昧。今日も午後から48時間耐久レースに参戦予定。もう、アイアンマンレースだよね。これを超えれば、きっとアドベンチャーレース。1600km位。私、走れるわ」


「そう。なんだか、想像ができないけれど頑張って。でもそっか。そんなに大変なんだ。よく皆気軽に、エッチしたなんていえるよね。あっだからマグロなんていう言葉があるのか。私もきっとそうなる。鍛えようかしら」

 理花の頭の中に、壮絶な謎を刻み込んで、万結は手を振り離れていく。


 二人を見送り、理花は建太に向かい言葉を紡ごうとするが、言い出せず。うつむいてしまう。私ではきっと資格がない鍛えよう。そう心に決める理花だった。


「えーと食料。お手軽なのが良いけど、サラダとかもほしい」

「惣菜とかも買うか」

「うんそうだね」

 帰りが大変だな。どうせ使うし、バックパックを買ってくるか。


 アウトドア専門店で、33l程度の大きさがあるザック。北の顔というブランド物を、今なら値下げ中に誘われ。つい買ってしまった。結構高かった。懸賞金は。ああそうだ、俺の手元には無かったんだ。


 地下へ降りて、惣菜などを買いあさって行く。

 こいつは金持ちだったな。


「さあ帰るか」


 とことこと、駅前に向かい歩いていると、騒ぎが起こる。

「逃げろ。そのゴブリン魔法を使うぞ。気を付けろ」


 見ると大きめのゴブリンが一匹。

 その後ろに、3匹のゴブリンが続いて走ってくる。


 大きい奴が俺を見て、キュピーン。ぬっ。こいつやりおるという顔をする。

 対峙して、タイミングを計る。


 奴の手から、炎が出され飛んでくる。掻い潜り左手でパンチを顔に決める。

 ついでに、すぐ後ろに来たゴブリンの顔を左足で踏んづけ、その後ろにいた奴の顔を右足で蹴り上げる。そのまま最後の奴も右足で踏んづける。


 2番目に踏んだ奴が、踏み込みが甘かったようで、すぐ横にいた万結に飛びつく。

『ヘヘっ。どうだい。手が出せまい』

 そんな感じで、背後から万結を捕まえ、じわじわ引きずっていく。


 がっ、胸を触ってやがるな。

「この野郎」

 追いかける。

 すると、周りに散らばっていた奴が集まってきて、手助けを始める。

「ちょ。離してよ」

 万結がジタバタするが、すでに複数匹に支えられ、猛スピードで走って行く。


「早ええなあ、時速30kmは越えているよな」

 そういう俺も、そんなに離されていない。


 奴らは、線路の向こうへ抜ける地下道へと入っていく。

「この野郎ども、早いな」

 必死で駆け込む。

 すると、向こうは見えているが、景色が波紋のように揺らいでいる。何だ?

 ええい突っ込め。

 何も、感じず。いきなり世界が変わる。

 広場で、幾人もの人間が引っ張り込まれていた。 

 今だに場は大騒ぎで、ツタを持ったゴブリンが走り回っていた。


 ふと、後ろを見ると、こっちは大きめの洞窟。

「場所は分かった。万結、何処だ」

「ここ。改あぁ」

 声の聞こえた方を、見て、見つけた。


 白シャツにデニム。

「おらあ。何してくれやがんだ。この野郎」


 蹴る殴る蹴る。

 もうね周りにゴブリンばかり。


 人間もいるのに、何で皆ぐったりしてるんだよ。戦えよ。

 ああ、何か吹き掛けているな。

 なぜか俺は、ピリピリするが効かないようだ。だが、いつまで持つのか分からない。

 効いた瞬間。新しい世界へご招待に、きっとなる。


「おい。万結。あれ? これ誰だ?」

 そっと寝かし。次の女の子を助けに行く。

「おらあ。万結」


「此処だっつの」

 後ろから飛びつかれる。

「あれ。いつの間に?おまえ、デニム穿いていなかったか?」

「さっき買ったときに、履き替えたじゃ無い」

 そう仰る。万結。

 白い麻っぽい、ゆったりパンツになっていた。


「まあ良い、離れるな」

 そう指示をして、そっと移動を開始する。

 とりあえず、皆は放っといて逃げる。


 帰るため洞窟に入ったら、洞窟に入った?

「えっ何で?」

 俺は驚き、声を上げるが、万結はゴブリンに抱えられていたから、知らないのだろう。

「どうしたの?」

「此処が日本と、繋がっていたんだ。戻れない」

「どうしよう」

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