第6話 理不尽と新属性

「君だね? 通報をしてくれたのは」

「はい。そうです。ここが、ゴブリンの巣で。中で、こいつらを助けました」

 俺の横に立つ、ボロボロの服を着ている。高校生達。


「君達、先日から、行方不明になっていた子達だね」

「えっと。多分そうです」

 一人が、答える

「事情を教えてくれたまえ」

「はい」


 そう言って、彼らが連れて行かれる。

 ぼーっと見送る俺に、もう一人の警官がそっとつぶやく。

「君。完全に巣を潰したの?」

「はい」

「それはご苦労さんだね。でもね、ゴブリンの巣は、見つけたときに、連絡をくれると懸賞金が出るんだ。潰しちゃうと、もう単なる洞窟だから、ご苦労様で終わりだよ」

「えっ?」


「もしかすると、あの子達の親から、謝礼くらいは来るかもだけど。当てにはしないでね。今度からは、見つけたらすぐ連絡頂戴。そうか、潰したのか、それも一人で。いやあ。それは凄いね。いやあまあ。うん。君は凄い。はっはっは」

 そう言って、肩を叩いてくる。地味に痛い。

「いや。ご教示ありがとうございます」

 俺は思わず、膝をつく。


「理不尽だぁぁ」

 どこかの主人公のように叫ぶ。


 俺は、疲れ果て。しかし、嬉しそうに手を振る高校生達が、どなどなされていくのを見送る。

 取り残された俺は、バスに乗るため、駅方面へ下っていく。


 すると、高らかにファンファーレが鳴る。

 無論、悠翔からの着信だ。

 おうまさん少女が、スマホの中でにこやかに手を振っている。

 無論。悠翔と、優勝をかけてある。読みは、はるとなんだが。

 これは俺の趣味ではなく、悠翔の趣味だから。そこは重要だからな。


〈おう。悠翔どうした?〉

〈どうしたじゃない。今どこにいるんだ? 皆ミーティングで、居酒屋に集合しているぞ〉


〈ああ。それなら、もうない〉

〈はっ? 無い? 何だそれ〉

〈俺が潰した〉

〈潰した? それはそれで凄いが、賞金はまさか独り占めか?〉

〈賞金もなかった。完全に潰すと駄目だそうだ〉

〈何やってんだよおまえ。とにかく来い〉

〈分かった〉


 無論行ったら、口々に責められ、俺のおごりでとなった。

「畜生ぐれてやる。皆よってたかって。今朝から、凄くついていない。おい万結。俺の背中に、鎌を持った死に神とか、貧乏神とか引っ付いていないか?」

「うん? 背中? リンゴでも、置いておこうか?」

「馬鹿野郎。撒き餌をするな」

 そう言って、ジョッキをあおる。


「あーもう」

 そう言って愚痴っているのは、万結。


「ほら起きて、重いよ」

「大丈夫だ、真っ直ぐ歩いている。俺の中ではな。歪んでいるのは道だ。ふにゃふにゃしやがって」

 そうくだを巻きながら驚いていた。

 うーむ。世界が明るい。夜なのに。

 ビールも、13杯ほど飲んだが、すでに冷めてきている。

 何だこれ。足はまだふらついているが、うーん。


「うちのマンションへたどり着き、部屋へ上がる」

 当然だが、玄関から上がり、ソファーへ倒れ込む。


「あーもう。ほらお水。飲み過ぎだよ。それじゃあ。あたし帰るからね。ちゃんとお布団で寝るのよ」

 そう言って、帰ろうとした、万結の手首を掴む。

「だめだ。万結。ここにいろ」

「えっ」

 万結が、それを聞き。嬉しそうな顔になる。


 その時、俺の目じゃなく、頭の中に見えた景色。


 文句を言いながら、帰っている万結の前に。ゴブリン達が現れ、さらわれる。

 巣の中には、変異種がいて、立派なもので貫かれ。喜んでいる万結が見えた。

 

「あっ。元気になっている」

 その声で、予知? 明晰夢? とにかく。それから目が覚めた。

「やっと、受け入れる気になったんだ」

 そう言って、万結が覆い被さってくる。

 知らなかった。俺NTR属性があったのか?


 そして、あのじいさんから、力をもらった俺の才能は。

 完全に開花してきたようで、凄かった。

 歯止めがきかず。


 あの元気な、万結が。限界を超え。かっくんかっくんしていた。

 抱きしめた彼女は、思ったよりも小さく。か弱かった。

「もう許して」

 とうとう、泣きが入った。


 そして。悲劇は起こる。

「ねえ、改。やばい。腰が。力が入らない。私トイレに行きたい。漏れる。連れて行って」

 仕方が無いので、連れて行く。

 だが、本気で力が入らないようで。座らせるが、倒れてくる。


「うー仕方が無い。歩坂万結。新世改に、すべてを見せます」

 顔が凄く赤くなっているが、勢いよく済ませると、命令してくる。

「はいビデ洗浄。そして拭いて。すごい。ビデで感じた。普段は痛いのに。はい抱っこ」

 そして、寝室へ運ぶ。

「お水。飲ませて。んんっ。ぷはっ。しかし凄いね。それ」

 そうずっとギンギン。


「俺も分からないが、おかしいなこれ」

「えーそこは素直に、万結が魅力的だからだよ、とか言ってよ」

「あーまあ。そうかもな。魅力的、魅力的」

「ひど。んーチュウして。んんっ。んあっ」


 結局、翌日。昼過ぎになるまで、万結は動けなかった。

 ところがだ、復活した万結は、元気いっぱいになっていた。


 慢性的な腰痛や、肩こりが治ったらしい。

「ストレスが、念願叶って飛んだのかな。いや、相手をしてくれないのがストレスだったのか? 難しい問題だ」

 訳の分からないことを言って、万結はうむむと、首をひねっている。


 もう授業は諦め、夢で見た用水路に行く。

 すると中から声が聞こえ。今度は無事通報。

 当然横にいた、万結に、懸賞金半分を取られる。

 おれは、昨日のファミリーレストランと、居酒屋分がチャラになった。振り出しに戻る状態。


 警察が潰すのを見物していると、一匹。上位種に変異したやつが、警官を蹴散らし、こちらへやってくる。こいつは、夢の中で万結を喜ばせていた奴。

 ついむかっとして、殴ってしまう。

 認めたくないが、おれは、万結のことが好きだったようだ。


 起こってもいない。NTRに対する焼き餅で、首から上が吹っ飛ばされ、奴は消失して消えていく。

「ねえ。今、何をしたの?」

「さあ。愛の力?」

 万結が聞いてくるが、とぼけながら、魔石を拾う。

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