8時間目「鬼、デート計画を立てる」
『デート』をする為には、3つのステップが必要らしい。
と、意気込んだのは良いものの、ステップを飛び越えていきなりデートの約束までしてしまった。これは、ラッキーなのだろうか?
「アンジュ、いきなり約束できたじゃん! よかったねぇ。モリノちゃんも遊びたかったって言ってたし、これはもう勝ちっしょ!」
今日は部活動も休み。カラオと一緒に下校している。登校時も下校時もぺちゃんこのスクールバッグは相変わらずのようだ。
嬉しそうなカラオとは裏腹に、私の気持ちは不安でいっぱいだった。カフェで何を話すんだ? 人間ってどんな会話をするんだろう。カフェに行って解散じゃちょっと味気ないよな……。
「ちょっとアンジュ、せっかくデートの約束できたのに何その顔~!? アタシがミラウ先輩と約束できたら一週間くらいはウッキウキだよ?」
「その、嬉しいは嬉しいんだが…… ふ、不安の方が大きくて。私は普段人と遊ばないし、モリノは楽しんでくれるかなって……」
どんどん猫背になっていく。下を向くと、いつもより1.5倍くらい地面が近い。
心配事をブツブツ唱えていると、いきなり背中を叩かれた。
「あんた、意外と自信無いのね!? そんなんじゃモリノちゃんも心配になっちゃうよ。心配なら対策を考える! テスト対策と同じでしょ」
「カラオはテスト勉強したことないだろ……」
「んー、まあね! アタシは勉強なんてしないけど、アンジュは得意でしょ?」
カラオが言っていることはめちゃくちゃに聞こえたが、考えてみると一理ある。デートの日は土曜日。あと3日ある。当日までに周辺調査をして、良い感じの計画を立てられればモリノも喜んでくれるだろう……か?
「だーいじょうぶ! アンジュがいい奴なのはアタシもモリノちゃんもわかってるから! 楽しんでこ?」
夕日の中でニコっと笑うカラオが、とてもたくましく見えた。
次の日から、『モリノちゃんとの距離を縮めちゃおう大作戦!』が始まった。いつも適当なことを言っていると思っていたカラオだったが、この時ばかりは頼りになった。
「モリノちゃん、買い物行きたいって言ってたよ! カフェの後にショッピングとかは?」
「情報提供に感謝する。ショッピングの後の休憩でカフェの方の順はどうだ?」
「あ、それもいいね。アンジュも手馴れてきたか~?」
「な、何を言ってんだ! あんまり茶化すなよ」
予定を決めるほかに、当日の服装を考えたりもした。放課後にカラオが家まで来てくれ、コーディネートというやつをやってくれた。
制服に使えそうな服しか持っていなかったからか、カラオは相当頭を抱えていた。勉強に向かう情熱はこういうところに使われているらしい。また一つカラオのことを知ることができて良かった。
「う~ん。トップスが白しかないのか……。ショッピングとカフェだから、落ち着いた中でも個性を出せるような服が良いよねぇ」
「カラオは色んな服を持ってるよな。私にはさっぱり……」
「アンジュが鬼じゃなかったら服を貸しても良かったけど、この体格差じゃ服が弾け飛ぶしな~。アンジュ、コンタクトとかは無いの?」
「コンタクトって、目玉の中に入れるレンズだろ? そんな危ないもんは持ってないぞ」
私一人だったらこんなことできていないだろう。計画が終わったら、カラオにも何かお礼をしないとな。
***
そして、あっという間に土曜日。デート当日の日がやってきた。
「──よし」
カラオに決めてもらったコーディネートを身に纏い、姿鏡の前に立つ。そこには、普段の休日とはかけ離れた私の姿があった。
白いTシャツにベージュ色のハイウエストワイドパンツ、頭にはパンツと同じ色のキャップ。カラオ曰く、肌が赤い分、薄い色で統一すると良いらしい。
慣れないメイクも少ししてみた。する前とどう違うのかあまりわからないが、自信に繋がっていると思う。
鏡の前で少し前髪をいじり、深呼吸をする。
「行ってきます」
待ち合わせ場所に徒歩で向かいながら、今日の予定を確認する。
まずはショッピングモールで買い物、そのあと休憩も兼ねて私の行きつけのカフェに。そのあとは…… モリノを家まで送り届ける。うん、ばっちりだ。
待ち合わせ場所は、ショッピングモールの噴水前。時間よりも30分前についてしまった。カラオ曰く、待ち合わせ時間前に着いて、周りのお店を見ておくと良いって言ってたが……。
「アンジュさん?」
「ぅわっ!?」
視界の外から聞こえた声に驚く。振り向くと、いつもとは違う服に身を包んだモリノがいた。フリルの付いた白ブラウスに黒のタイトスカート、足元は履きなれていそうなスニーカー。
制服とはまた違う雰囲気にドキッとする。
「集合時間まだだよね? 私も少し早めに来ちゃったの! アンジュさんも今来たところ?」
「ああっ! わ、私も今ちょうど来たところだ! ま、待たせたな」
恥ずかしくて、キャップを目深に被りなおす。モリノのことを見るが、キャップのつばが邪魔をして、靴しか見えない。
「良かったー、私もちょうど来たところなの。ナイスタイミングだね。……じゃ、買い物行こっか。アンジュさん、何買いたいとかある?」
「ん! ああ、そうだな。服とか見たいな」
「じゃあ、3階から見ていこ! レッツゴー!」
モリノをリードするつもりがリードされながら、ショッピングモールの中を歩く。見たことのない店ばかりでキョロキョロしていると、モリノから話しかけてくれた。
「アンジュさんは普段買い物する?」
「ん、あまりしないな。こうやって人と遊ぶこともあまりないし……」
「そうなんだ。でも私のこと遊びに誘ってくれたんだね、嬉しいなぁ」
自然に笑顔を向けられ、顔が熱くなる。
「その…… 学校以外でも話してみたくて。に、人間ってどんな感じなのかなーって……」
そこまで言って、しまったと口を抑えた。人間がどうこうじゃなくて、モリノがって言えば良かったのに!!
モリノは私の言葉を聞いて、すこし寂しそうな顔をした、ように見えた。
「アンジュさんも、人間ってことに興味あるんだね。意外だなぁ。あんまり面白いことできないと思うけど……」
「ち、違う違う! そうじゃなくて、モリノが! モリノだけのことをもっと知りたいと思ってて……!」
慌てて付け足すと、モリノは吹き出して笑ってくれた。
「あはは! アンジュさんってギャップがあって可愛いよね。私もアンジュさんのこと、知りたいな」
かわいい、知りたい、という言葉に心臓を貫かれた。ドキドキと心臓がうるさい。
心臓の鼓動を見て見ぬふりをしながら、服やアクセサリーを見て回った。モリノはショッピングが好きなのか、私の腕を引いて様々なお店に入っていく。
「わ、このリング、なんだろ? ブレスレットにしては大きい……よね?」
「ああ、これはツノ用のリングだな。ツノの根元に着けるんだ」
「へぇ~! アンジュさん、着けてみてよ」
「わ、私か? 似合わないだろう……」
「いいから! ……ほら、可愛い、似合ってる! こっちの服はどうだろ…… あ、背中に穴が開いてる。天使用?」
モリノにいいところを見せるつもりだったが、思っていたのと違う形になってしまった。が、モリノが楽しそうだから、とりあえず良しとしよう。
そのあとも、二人で店を見て回った。
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