5時間目「テレビ頭と幽霊と私①」

 人外学校に転入してから少し経った頃。人外さんたちに囲まれる日々にも慣れつつあった。


「おはよー」

「おはようモリノちゃん!」

「今日の体育持久走だって!」

「えー!? バッテリー足りるかなあ」


 クラスメイトたちと挨拶や会話を交わしながら登校して、授業を受ける。


「えー、ではここを……アンジュさん」

「はい、解は5です」

「流石ですね。では次はカラオさんに……カラオさん?」

「ムニャ……ミラウさん……うへへ……」

「ちょ、ちょっとカラオ、起きて!」


 お昼はみんなと一緒に食堂へ。たまにお弁当を交換しあったりして……。


「モリノちゃん、一人暮らしなのォ? すごいネ」

「そんな事ないよ! あと、モリノでいいよ」

来蕾ライレイもモリノって呼んでいい? あと卵焼きが欲しいナ」

「もちろん! …え?卵焼き? あっ、いつの間に取ったの!?」


 放課後はカラオと一緒にのんびり帰る。たまたま家の方向が同じだったらしい。


「宿題忘れないようにしなきゃね! じゃ、また明日〜」

「また明日ね〜!」


 なんてことの無い、楽しい毎日を送っていた。

 そんなある日のこと。教室でお弁当を食べていた昼休みに、教室のドアを叩く音が響いた。


「ちょっとええ? 人間の転校生さんがおんのはここの教室であっとる?」


 聞きなじみのない関西弁が聞こえてきた。肉声というよりは機械音のような声。生肉でできた肉団子をほおばりながら、アンジュさんが教室の入り口に向かった。


「おう、ミルカか。どうした?」

「どうしたもこうしたも無いで! 今いっちゃん熱い噂の、人間の転校生! ここの教室におるって聞ぃたから取材に来てん」

「ああ、モリノだな? すまんが、今は昼食中で……」

「モリノちゃんね。おるなら話は早いわ! ちょっと失礼するで」

「あ、おい!」


 アンジュさんの脇の下を潜り抜けて、誰かが部屋の中に入ってきた。教室の真ん中まで入ってくると、キョロキョロとあたりを見回している。

 頭部がレトロなブラウン管テレビになっており、頭頂部からはアンテナが生えている。人間で言えば顔、テレビで言えば画面の部分にハテナマークが映っているのが見える。制服は、人外たちの中にいても目立つ明るい黄色のワンピース。


「あれは誰? カラオは知ってる?」

「ああ、あれは新聞部のミルカだね。スクープを取るんや! って、いつも学校内を走り回ってるのを見るよ。あの感じだと、モリノちゃんに用事があるんじゃない?」


 モリノちゃん、と言う声が聞こえたのか、テレビ頭がぐりんとこっちを向いた。私のことを見つけたのか、テレビ画面に映ったハテナがビックリマークへ変化した。


「お、そこのアンタがモリノちゃんか? って、ちょっと前通るわ、すまんなー」


 生徒たちの間を潜り抜け、私の席に一直線で向かってきた。私の顔や体をじろじろと見ている。その恥ずかしさから咳ばらいをし、姿勢を伸ばした。


「えっと、何か御用ですか……?」

「おお、すまんすまん! ほんまに人間なのか、自分の目で確かめたくてな! どうやらほんまに人間みたいやね。ウチの名前はミルカっちゅーねん。明日あけのひ人外高校の新聞部やで。ぜひ仲良うしてな!」


 元気に右手を差し出された。握手……ってことだよね?

 おずおずと握手をすると、ガッチリ掴まれてぶんぶんとシェイクハンドされた。元気だなぁ。


「ウチがアンタに会いに来たのは他でもあらへん! アンタのことを取材させてほしいねん。人外学校唯一の人間…… きっと、おもろい記事が書けると踏んどるんよ」

「はあ、新聞部……ですか?」

「そんな敬語なんて使わんでええで! 気軽にミルカって呼んでほしい。で、早速なんやけど今日の放課後、ウチに時間を取ってほしいんやけど……」


 前のめりで聞いてくるミルカに思わず仰け反る。


「な、なるほど…… えっと、どうしようかなぁ」


隣のカラオに意見を求めるように目くばせすると、カラオはのんきにキャベツの芯をかじりながら答えた。


「いいんじゃない? アタシら人外も、人間のこと知りたいと思うし!」



***



 時は進んで、放課後。終業のチャイムが鳴ってから10秒程経って、廊下を走る音が聞こえてきた。


「こらぁ! 廊下は走っちゃいけませんよ~!」

「すまんなララミー先生! っと、モリノちゃんはおるかー?」


 教室の入り口から大声で呼ばれた。何人かのクラスメイトがこちらを振り向く。ちょっと、いや、かなり恥ずかしい。

 教科書を急いで鞄に詰め、挨拶もそこそこにミルカの元へ向かう。


「モリノちゃーん!」

「ミ、ミルカ! そんな大声で呼ばなくてもいるから!」

「お、来たなぁ! 今日はよろしゅうな。ま、取材って言うても簡単なもんやし、そないに緊張せんでええよ。ほら、事前報酬の飴ちゃんや」


 ミルカはポケットをまさぐると、いくつかの飴を渡してくれた。


「あ、ありがとう。後でいただくね」

「気にせんといて! で、場所なんやけど…… あ、中庭とかどないやろ? 広々としてて、気楽に話せると思うわ」


 ミルカと一緒に中庭へ向かうこととなった。貰った飴を一つ頬張る。

 ──にっが!? 思わず顔をしかめると、ミルカの画面に汗のマークが映った。


「あれ? 美味しくなかった?」

「これ、すっごい苦い! 何味!?」

「あ……? あ、これ、どんぐり味や! リスの子とかにあげる用やった! すまんモリノちゃん! は、吐き出すか?」


 ど、どんぐりってこんなに苦いのか……。貰ったものを吐き出すわけにもいかない。思い切ってバリバリと噛み砕いて飲み込んだ。


「ヒュ~、まずかったろうによう飲み込んだわ! 気合のある子やね」

「あ、ありがとう…… お茶持ってない?」


 涙目でそう言うと、ミルカはお茶を奢ってくれた。

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