4時間目「大道芸部」
キョンシー姉妹に手を引かれるまま校舎内を駆けずり回り、一室に案内された。入り口には画用紙に手書きで『大道芸部 部室!』と書かれた紙が貼られている。
「ここが大道芸部の部室?」
「そうヨ! この看板も来蘭たちが作ったのヨ? 可愛いでしょ」
「看板ていうか、張り紙ていうか……」
「可愛ければなんでもいいのヨ! さァさァ、入って入って!」
二人にぐいぐいと押され、部室に案内された。中は埃っぽく、ボールや箱など、様々な小道具が床に転がっている。
「カラオ、その辺の布、踏まないでネ! 衣装だから」
「え!? こんなところに衣装置かないでよ!」
「モリノちゃん、その辺の板、踏まないでネ! 小道具だから」
「これ小道具なの!?」
足元に気を付けながら歩き、部室奥に設置されたステージの前までやってきた。
「ちょっと待っててネ!」「準備するヨ」
そう言うと、キョンシー姉妹はカーテンの奥に行ってしまった。準備を待つ間、カラオと雑談をする。
「ステージまで用意されてるなんて、結構ちゃんとしてるんだね」
「ここ、元々は音楽室だったの。校舎を改装した時に使われなくなってから勝手に部室にしたらしいよ」
「そうなの? なんか、あの二人らしいね」
「ああ、ここを占拠したのはあの二人じゃなくてね──」
カラオが言いかけたその時、部室の明かりがパッと消え、ステージがスポットライトに照らされた。ライトの真ん中には、赤と青の色違いのチャイナドレスとかぼちゃパンツに着替えたキョンシー姉妹が立っている。
「さァさァ皆様、お立合ーい!」「
腕と足をピンと伸ばし、鏡合わせで息ピッタリのダンスを披露する。キョンシーらしい振り付けがかわいい。
「まずご覧に入れますのは~、摩訶不思議、踊る手足のジャグリング~!」
来蘭が背中に手を回し、どこからともなく二本の腕を取り出した。……二本の腕!?腕が、腕が動いてる!?
「こちらの腕はなんと不思議、生きている不思議な腕!タネも仕掛けも──」
「きゃあああああ!? ちょっと待って!? 腕、腕!!カラオ、腕が、腕が!!!」
思わずカラオに抱き着く。そんな私を見て、キョンシー姉妹はケラケラと笑っている。
「ううう腕! 死、死……!?」
「モリノちゃん! 大丈夫大丈夫、アタシも見てるから!」
カラオが手をぎゅっと握ってくれた。毛がもふもふしてて暖かい。
かなりビビりながらステージに目線を戻す。キョンシー姉妹は踊りながら腕を宙で回している。
「もっともーっと! 足も回しちゃえーっ!」
今度は来蕾がどこからか足を取り出した。宙に投げると、来蘭がそれを受け取め、手と一緒にジャグリングし始める。頭がくらくらする。カラオは私の背中を支えてくれはいるものの、楽しそうに声をあげている。
「いいねーっ! 次は次はー?」
「次は今日だけの大技、頭回しーっ! 目を離さずにご覧くださーいっ!」
来蕾が番傘を取り出し、広げた。淵がいくつかのタッセルで装飾されている。
頭回し? 字面だけ聞くと、頭を回すってこと? その傘で?
「頭? カラオ、頭回しって何?」
「見てればわかるよ! ほらっ、来た!」
カラオがステージの上を指さした。恐る恐る視線を向ける。……特に何も起きない。頭回しっていうからてっきり頭が落ちてくると思っ──
「じゃんじゃじゃーーーん!! びっくりしたァ!? いつもより多く回してくよーーーーッ!!」
大声を上げながら人の頭が落ちてきた。人の頭!?!?
「大道芸部ぶちょーのお出ましだヨーーーっ!」「アハハハハ!!!」
生首がケタケタ笑いながら、傘の上で転がっている。
「出た、部長の大技、頭回し! 見て見てモリノちゃん、あれが大道芸部部長の…… あれ? モリノちゃん? モリノちゃーん!?」
***
「──いじょ……ちゃ……」
「起き……る?」
ぼんやりと声が聞こえる。背中が冷たい。横になってる?
頭はふかふかした何かに乗っかっているようだけど。
「うぅ……ん……」
ゆっくりと目を開けると、心配そうに私を覗き込んでいるカラオの顔が目の前にあった。顔が近い!
「うわぁ!? か、カラオ!」
「あ、起きた!? モリノちゃん、大丈夫?」
カラオが私を膝枕していたようだ。なぜ?
「起きた! 心配したヨ!」
「いきなり倒れちゃうんだもん! びっくりしたヨ」
キョンシー姉妹もかがみこんで心配そうな顔をしている。
倒れた、って本当に? ステージの上から生首が落ちてきたあたりからの記憶が無い。
「観客さん、大丈夫~? アンナのパフォーマンス見てぶっとんじゃったァ?」
愉快そうな声音と共に、さっき落ちてきた生首が目の前に現れた。
「イギャアアァーーーーー!?!?」
「キャハハハッ! やっぱり人間の観客はやりがいがあるわァ! 回されても気持ち悪くならないように特訓した甲斐もあるわね」
生気の無い色をした腕が生首を掴み上げた。誰なのか確認しようと顔を上げると── 無い。頭が無い。
「きゃあああぁ!! な、あ、あたま、ああたまが無い……!?」
「ぶちょーの体、すごいよネ!」
「来蕾も初めて見たときはお化けかと思ったネ」
頭と首が繋がると、それはぴったりとくっついて一人の人になった。
青緑色の肌につぎはぎだらけの手足、人間でいうところの白目が黒く窪んでいる。ウェーブのかかった緑髪、スタイル抜群の人外さん。
「初めましてェ! 大道芸ブチョーのアンナだよ! アンナのバラバラ芸、気に入ってくれたかな?」
「あ、あの、い、生きてる……!? バラバラになって……!」
「アンナはね、ゾンビなの。死んでも死なないゾンビちゃん! 腕も足もこの通り! 面白いでしょ?」
アンナちゃんは笑顔で自分の手足をぺきっと取り外して見せた。
「い、痛くないの?」
「ぜーんぜん! ちょっとコツはいるけどね」
人外学校って色んな意味ですごい。人間の生活ではありえない様子を目の当たりにして、何回目かもわからない感動をする。
「まさか倒れるくらい楽しんでくれるとはねー。やりがいもあるねェ」
「モリノちゃんが楽しんでくれて良かったヨ! 来蘭たちも楽しかったネ」
「また見に来てヨ! 大技練習しておくからサ!」
「張り切るのはいいけど、けが人とかは出さないでよ? でも楽しかった! ありがとね」
「あ、ありがと~……」
カラオに抱き抱えられながら、大道芸部部室を後にした。
大道芸部で長い間気絶してしまっていたらしい。廊下の窓から見える空はすっかり暗くなっている。
「あれ、もう外暗いね。そんなに長い間倒れてたんだ」
「ほんとだねー。転校初日だし、疲れてたんじゃない? 今日はもう帰ろっか」
こうして、あまりにも充実した一日が終了した。
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