2時間目「部活動見学」
「はあい、それでは皆さん、気を付けて帰宅してくださいね~」
ララミー先生が和やかに挨拶をすると同時に、終業のチャイムが鳴り響く。転校初日が無事に終わり、一安心だ。無意識に肩に力を入れていたようで、息を吐くと肩がすとんと落ちた。
生徒たちが友達と挨拶をして解散していく。何人かのクラスメイトは笑顔で挨拶をしてくれた。嬉しい。
「お疲れ様~、今日もよく頑張ったねえ。……じゃ、帰りますかぁ」
カラオが伸びをして、席を立った。肩にはぺちゃんこのスクールバッグを背負っている。家で勉強はしないのだろうか……。
「モリノちゃんはこの後何か予定あるの? 良かったら一緒に帰ろ…… いや、待てよ?」
突然腕を組んで考えだした。こんなにわかりやすく考え事をする人もなかなかいないと思うなぁ。
3秒ほど沈黙が流れ、カラオが手を打った。
「せっかくだし、部活見学しない!?」
名案を閃いた、という顔をしている。むふーっとドヤ顔まで披露してくれた。
人間の学校は放課後に部活動があるけど、人外の学校にも部活動があるんだ。初めて知った。
「部活? って、部活動のことだよね?」
「そうそう。たぶん、人間からしたら見ごたえあると思うよ~?」
そういえば、人外部門のスポーツ中継をテレビで見たことがある。水泳は大きなヒレをきらめかせながら泳ぐ人、マラソンは四つ足を着いて走る人やジェット噴射を利用して走る人など、本当に様々な姿をしていた。初めて目にしたときは映画やショーのたぐいだと勘違いしたくらいに派手で、美しかった。
それを生で見ることができるとなると、結構興味がある。いや、かなり見たい。
「すっごい興味ある! けど、部活動に急にお邪魔して大丈夫かなぁ?」
「大丈夫なんじゃないかな? 見学禁止なんて手品部くらいしか聞いたことないけど……」
カラオが首をかしげていると、アンジュさんがやってきた。制服の時とは違い、長い髪をポニーテールにし、メッシュ生地の動きやすそうな運動着に着替えている。見たところ、運動部のようだ。
「カラオがこの時間まで教室にいるのは珍しいな。いつもは一番に帰るのに」
「あ、アンジュ! いいところに来たね。モリノちゃんと部活動見学しようかなって思ってたんだけどさ、いきなり見学ってオッケーだと思う?」
「ああ、いいんじゃないか? 見学者がいると練習にも身が入るし、私の部は歓迎するぞ」
「おおー、やったねモリノちゃん!」
カラオが小さくガッツポーズをする。私も釣られてガッツポーズ。
「ちなみに、アンジュさんは何部なんですか?」
「私か? 私はバレー部所属だ。今から向かうが、良かったら見に来るか?」
「お、いいねぇ! アンジュの活躍っぷりをアタシたちに見せてよ」
「そうだな、期待していてくれ。──ああ、モリノについて言っておくとな……」
アンジュさんが改めて私に向き直って言った。
「人間はちょっと気を付けた方がいいかもな」
***
アンジュさんに案内され、体育館に移動してきた。人間学校の体育館に比べると、1.5倍ほどの面積はありそうな広さ。見た目的には大きな違いはないが、空調が効いていて快適だ。ふと頭上のバスケットゴールが目に入り見てみると、人間の物よりもかなり高い位置にある。あんなところまで届くのか。
体育館内を見渡すと、何人かの生徒が集まって準備体操やミーティングをしている。この辺は人間と同じみたい。
アンジュさんが案内してくれた先で、数人の生徒たちがボールを上に投げては壁に叩きつけている。いわゆるスパイクというやつ?
「バレー部はこっちだ。今日は個人練習だから、そうだな…… この辺で見学していれば大丈夫だろう」
「りょーかい。アンジュのかっこいいスパイク見せてよー!」
カラオの声援に片手を上げて応えると、アンジュさんはバレーコートの中に入っていった。隅に置かれたかごの中からボールを一つ取り出すと、リズミカルに地面に叩きつけている。数回ボールを宙に投げると、壁に向かって大きく振りかぶった。スパン!と子気味良い音がして、ボールが壁に叩きつけられた。
「おー、かっこいいじゃん! アンジュってこう見るとかっこいいんだよね~」
わかる、かっこいいよね。そう同調しようとした瞬間だった。
ズバァァン!!!
ものすごい音がして、目の前でバレーボールが弾けた。叩き付けられたであろうボールはプスプスと音を立てているし、なんか地面も焦げている。騒がしかった体育館も静まり返った。
「……び、びっ……くりしたぁ……」
カラオの耳がほぼ真上に伸びている。多分、私の全身の毛も逆立っているだろう。
「スミマセーン! まだ出力がうまく調節できなくて! 怪我はないですか~!?」
メカメカしい外見のバレー部員らしき子が駆け寄ってきた。配線が丸出しの肩から煙が上がっている。
「け、怪我はないんですけど、その、か、肩が……!」
「へ? ああ、肩はパーツ交換すれば大丈夫なんで! 驚かせちゃってスミマセン!」
恥ずかしそうに笑って一礼すると、パンクしてペラペラになってしまったボールを持って行ってしまった。大事ではないと判断されたのか、徐々に体育館のざわめきも戻ってくる。焦げた臭いが鼻をかすめた。
「おい、大丈夫か!?」
アンジュさんの声で我に返った。いろいろと衝撃的だ。カラオも目を丸くしている。
「ま、マジでびっくりしたよ! あの子は大丈夫なの?」
「ああ、アイツはたまにああなるんだ。肩も予備のパーツをいくつか持ってるみたいだから、心配はいらないだろう。ボールが二人に直撃しなくてよかった……」
アンジュさんが胸をなでおろす。本気で心配してくれたようだ。
「さっき私が教室で言った意味がわかったか? モリノ」
「ええと…… なんとなく。想像よりもすごいかも……」
「これに関しては人間も人外も関係ないよ! アタシも心臓飛び出るかと思ったもん」
「それもそうか。とにかく、こういうことが起きるから他の部活動も気を付けて見学しろよ」
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