第3話 高遠城、初めての出陣 1555年(天文24年)6月末

高遠城、広間


俺は、4人の自らの家臣と顔合わせしていた。


「お前達、これからよろしく頼む。」


高坂昌信 「あの若が、我が殿になるとは。面白いものですな。」


馬場信春 「そうだな。聞いたぞ、殿。殿自ら、我ら3人を指名なさったという話を。これは、嬉しい限りですぞ!」


服部半蔵 「殿、これからよろしくお願い致します。あまり関わりがなかった私をご指名してくださった事、誠に嬉しく思います。」


保科正俊 「殿、これからよろしくお願い致します。高遠城の事で分からぬ事がございましたら、是非とも私をお使い下され。」


みんなそれぞれの性格を現したような挨拶だな。これから、こいつらに失望させないようにしていかないとな。

確か、この頃って第二次川中島の戦いの少し前だったよな。


「さて、硬い挨拶はここまでにして、これからのことなんだけどまず、昌信。確か、長尾景虎が北信濃に攻めてきてると話を聞いていたんだけど、それはどうなの?」


高坂昌信 「その通りでございます。長尾軍側だった栗田くりた永寿えいじゅを我が方へ寝返らせたことにより、長尾ながお景虎かげとら(後の上杉うえすぎ謙信けんしん)が善光寺ぜんこうじを取り戻すため、進軍しました。しかし、栗田氏の旭山城あさひやまじょうに我が方の援軍と共に栗田永寿が籠城ろうじょうした事を受け、犀川さいかわで待機している状態ですね。」


「そうか。父上は、いつ出陣なさると思う?」


高坂昌信 「もうすぐ出立なさるかと。我々が躑躅ヶ崎館を出る時に準備をなさっていたので。」


「じゃあ、我らもと言いたいところだけど、信房。我が軍は、総勢いくつで、いくら出せそう?」


馬場信房 「我が軍は、総勢1万でありますぞ。出陣するとするならば、半分の5千がやっとかと。」


「では、4千で信房、半蔵を供に参戦する!昌信、正俊、留守を頼むね。」


高坂昌信 「殿。5千では行かれないのですか?」


「ああ。まだ木曽きそがいるし、警戒はしなくちゃね。だから、6千を残そうと思ったんだ。まぁ、最前線ではなく、後方について行こうかと思っているから安心して。」


高坂昌信 「畏まりました。殿の留守を守らせていただきます。」


「それと、昌信。この辺りの鉱山の分布を調べておいて。半蔵、お前の配下に書簡を届けてもらいたい。届け先は、大和やまとしま清興きよおき出雲いずも山中やまなか鹿之助しかのすけ伊賀いが百地ももち丹波たんば美濃みのもり可成よしなりへ頼むね。」


『はっ!』


高坂昌信 「殿、鉱山の調査お任せください。質問なのですが、殿が仰った森可成殿は分かります。しかし、島清興、山中鹿之助、百地丹波という名前、聞き知らぬのですが、書簡をお届けになる理由を書いても良いでしょうか?」


昌信が至極不思議そうに、そう聞いてきた。確かにこの頃は、可成以外そこまで有名ではないメンバーだもんな。でも、島清興、山中鹿之助は、遅くなればなるほど、こちらへなびき難くなりそうなんだよなぁ。百地丹波はどこかに仕官する前にこちらに欲しい。忍びを貸すという交渉カードはあった方がいいだろう。


「昌信が聞いたこともないのは、当然だね。俺だって、母上との買い物の時に商人から聞いた話だから。島清興は、若い割に剣や槍が上手いらしい。山中鹿之助は、10歳という若さながら戦に同行し、手柄を挙げたらしい。百地丹波は、他家への交渉に使いたい。素破の貸し出し等で交渉を有利に出来そうかなって。まぁ、島清興と山中鹿之助には、仕官と俸禄で交渉し、百地丹波には、領地を与えるつもりだよ。」


高坂昌信 「殿がご指名した理由はわかりました。ただ、素破を他家へ貸し出すというのは危険かもしれません。素破の数が増えることは良いことかと。しかし、まだ不安が残るので、私の方でも調べておきます。あと、面会の時は同席させて下さい。」


「あい、わかった。んじゃ、戦準備始めようか!」


そこからは目まぐるしい日々だった。戦準備をしながら、合間に城下の町を下見したり、修練をしたりと大変だった。

そして、父上の出陣に間に合うように武田本軍の出陣予定日より1週間早く高遠城を出立したのであった。

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