言祝ぎ
「無事、新ステージが解放されたようですね。おかげ様で行動範囲が広がりました」
言って、アマテラス先生は人心地ついた様子。
「どういうシステムなんだし……?」
首を傾げる赤ずきんの赤い頭巾には大きな灰色のリボンが飾っていた。
オオカミおばあさんからの誕生日プレゼントをちゃんと付けているらしい。
「神はどこにでもいます。無論あなた方の心の中にも」
うふふ。
と、アマテラス先生は明るく笑ってから言った。
「これから先、私たちに反発する転生勇者たちと相見えることもあるでしょう。がしかし、彼らと後のないあなた方とではその覚悟は雲泥天地です」
意味深長な言葉を残して、それからアマテラス先生は視線を転じた。
「そこのお馬さん」
白馬のハックは「え? 自分っすか?」みたいなリアクション。
「違います。そっちの赤兎馬のほうです」
血まみれの首なし馬には元の白い毛並みは見る影もない。
モモタは思う。
やはりこの赤兎馬もアマテラス先生によって与えられた恩恵なんじゃろう。
「もしあなたがよろしければ神馬になりませんか? 神宮に仕えればあなたの首は元に通り、血塗られた毛並みも純白に生え替わることでしょう」
そのアマテラス先生の誘いに、しかし首なし馬は首を振れないので右前足を横に振った。
「あら、そうですか」
アマテラス先生は予想が外れたという顔をした。
割合めずらしかった。
「その身体がいたく気に入ったんですね。まあよいでしょう。生きていればこういうこともあります。元の身体に戻りたくなったらいつでもおっしゃってください。首のほうはこちらで回収済みなので」
「回収してたのにゃん!? たしかに消えてたにゃんけど……、どこかの動物が持っていったと思ってたにゃん」
仰天するビョーキに構わずアマテラス先生は首なし馬に微笑みかけた。
「神宮に奉納していますのでいつでも取りに来ていいですからね」
それから一転、アマテラス先生は表情を引き締める。
そして不躾に宣言する。
「ではさっそく、いきなりですがこれより入学式を執り行います」
それを合図にコロポックルたちが赤ずきん、ハスキー、3匹の子ブタにそれぞれ通学バッグと制服とスマホを配りだした。
さっそく黒学ランに袖を通したハスキーは、傍目からでも嬉しそうであり似合っていた。新入生たちは問題なくスマホを操作できるようでモモタはどことなく疎外感を覚える。
「俺たちはまだ正式に入学するなんて言ってねえけどな」
鼻で笑うブロピに、アマテラス先生は眉を曇らせる。
「そうですか。それは残念です。学園に入学すれば食堂で好きなものを食べれますのに……。それからスマホで×××××××も無料で見放題です」
「やったブゥ」
「行かない手はないトン」
「それを先に言いやがれ。興奮してきたぜ。コノヤロー」
3匹の子ブタは一瞬で籠絡した。
後者のエサが強すぎるんじゃ。
ダメだこりゃ。
女性陣の3匹の子ブタを見る目が死んでいた。
「安心してください。本校は黒髪に染めなさいなんて言いませんから。ブラック校則反対!」
と、アマテラス先生は拳を掲げた。
「今は多様性の時代ですから。人間として生きるべきとも言いません。神を信じずとも構いません。ですが、神は信じずとも自分だけは信じてください。本校の生徒は自分らしく心の赴くままに、どうぞ生きてください。入学歓迎いたします」
これにて、アマテラス学園長の
入学式とは名ばかりの簡素なものである。
これも新たな教育機関式なのかもしれない。
「ひとつ質問ええか?」
モモタは挙手した。
「なんですか? モモタさん」
「僕たちが卒業したそのあとは、どうなるんよ?」
世界征服を成し遂げたあとは、どこに帰るんじゃ?
「うふふ。今から卒業後のことを言っていたら鬼に笑われますよ?」
そう言って神は笑った。
なにわろとんねん。
「卒業後はあなた方の好きなようにしてください。自分なりの答えを見つけて
思いやりの気持ち。
鬼にも学べるんじゃろうか。
と、モモタは思った。
「また、おとぎ学園でいつまでも幸せに暮らすのも、ひとつの選択肢でしょう。留年万歳!」
「万歳すな」
しかも留年万歳って、ひどい四字熟語じゃ。
ほんまこの神教師は……。
モモタは呆れた。
この異世界に来てからこっち絵空事のおとぎ話のようなことばかりだ。
いつの日か、僕はこの世界の摂理を知るときが来るんじゃろうか?
それはもはや、神の領域じゃないんか?
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