記念写真

 アマテラス先生に許可をいただき、伊勢神宮の生け垣にモモタは桃の木を植えた。

 そして余談だが学園指定の制服を着用しているのはシンデレラとハスキーだけだった。


「オホホホ! 無課金勢ごときが楯突いてんじゃないわよ! さっさと負けを認めなさい!」


 最近、シンデレラは金に物を言わせてとあるソシャゲーにドハマり中だった。


 モモタには意味がわからなかった。

 実体の無い物に金払ってどうするんよ?


「あっ、こいつ! 汚ったねえ! 勇気の切断したわよ! そんなの逃げよ、逃げ! この切断厨めぇ……!」

「一周まわって、なんかおもろなってきたわ」

「『majoyukihime』ID控えたかんな! スクショしてモモッターで晒してやるわ!」


 それからモモタ一行は入学式終わりに伊勢神宮でお参りする運びになった。

 おのおの絵馬に抱負を書く。

 馬の蹄。肉球。英語。フランス語。日本語。

 さまざまな言語がいろどりを飾る。


「シンデレラはなんて書いたんじゃ?」


 モモタが問いながらのぞき見ると、シンデレラの派手派手しくデコレーションされた絵馬には『I LOVE MOMOTA』と書いてあった。


「ふふん。モモタには教えなーい。英語を勉強しなさいよ。それか、スマホで翻訳するか。あんたにそれができればね。アッハッハッハ!」


 シンプルに腹立つぁ。

 それにどうやら、シンデレラのほうは日本語を読めるし書けるようなのである。

 不公平なんよ。

 と、モモタは世界を恨みながら、柄杓ひしゃくにすくった水をシンデレラに引っかける。


「ちびたっ!?」


 そして手を清めて、境内の神前に新入生一同は整列した。

 独特の緊張感漂う。


「みなさん、いい顔してますねぇ」


 その生徒たちの様子をアマテラス先生はシンデレラのスマホで撮影していた。

 二拝、二拍手、一拝。

 一行は神妙に祈った。


「みんな、なに祈ったの?」


 祈り終わったシンデレラは後頭部で手を組みながら問うた。


「オイラはこの世の美食グルメをたらふく食べてやるブゥ」


 ヨダレを垂らす三男ストピー。


「ポクはね~。無病息災トン。あとのもうひとつは言えないトン」


 なんかよう知らんけど怖い次男ウド。


「俺はいつか、絶対に壊れねえ立派な家を建ててやるぜ」


 ストイックな長男ブロピ。


「あたしは家族といつまでも一緒にいられますように……ってお願いしたし」

「奇遇なんだ。ぼくもまったく同じだよ」


 赤ずきんとハスキーは仲良く微笑みあった。


「私は、このおとぎ学園にずっといられますように」


 シンデレラは卒業する気ゼロだった。

 留年万歳。

 しかし。

 とモモタは思う。


 元の世界に彼女のことを心配してる人はいないんじゃろうか?


 モモタはちょっとだけ気を揉んだ。


「あと、野望もあるわ。オニチューブ視聴率100%の生放送をすることね。めざせ! 100億人同時接続よ!」

「……そら無理じゃろ」

「じゃあそういうモモタは、神様になんてお祈りしたの?」


 シンデレラに問われてモモタが答えようとした――まさにそのとき、ひらりひらりとした物体がモモタの鼻頭に載った。反射的にモモタがそれを払おうとする直前に、シンデレラが先に取ってしまう。

 その摘ままれた龍鱗のようなものを見て、モモタは呟いた。


「桜」


 そして辺りを見回すと、境内には満開の桜が咲き誇っていた。


「結界領域内であればこんなことも可能です。異世界でも神様ですから」


 アマテラス先生は神だった。


「私からの入学祝いです。まさか、卑怯とは言うまいな?」

「「チートじゃん!」」


 一同は総ツッコミした。

 もはや、なんでもありである。

 というわけで。


「集合記念撮影ターイム!」


 そう言ってシンデレラはシャキーンと隠しアイテムを取り出した。


「デレララッララ~。自撮り棒~」

「こいつぁ、まーたとっつきにくい棒だしよんなら」


 けったいな女じゃ。

 モモタはそう思っていたが、さすがは未来の道具。

 なげー自撮り棒にスマホを嵌め込めば、全員きれいに画角に収まった。


 以下、おとぎ学園新入生、出席番号順。

 モモタ。シンデレラ。ハック。首なし馬。ビョーキ。赤ずきん。ハスキー。ストピー。ウド。ブロピ。


 以下、職員。

 アマテラス学園長。用務員のコロポックル。


「みんなー、いくわよー」


 シンデレラは威勢良く号令をかけたのだが、そこで彼女はとんでもない失態に気づいてしまう。


「ヤバいわ! 充電が残り1%しかないぃぃぃいいい!」

「「ええええええええええええ!?」」


 一行はてんやわんやになった。

 僕、こういう1%の女きれぇーじゃ。


「あら、こんなときに褒めてくれるの?」

「そうゆうとこじゃ……ほんま」


 モモタにジト目を向けられるシンデレラ。


「私としたことが……。今朝ソシャゲーに夢中でモバイルバッテリーを部屋に置き忘れてきちゃったわ」


 シンデレラは金色の頭を抱えてから顔の前で手を合わせて神を拝んだ。


「アマテラス先生、一生のお願い。神の力でスマホの充電を100%にできないの?」

「それができないんですよねぇ」

「「できないのかよ!」」


 桜を咲かせる力はあるのに……。

 残念な神様だった。

 今の時代、桜を咲かせるよりもスマホを充電できるほうがありがたいのである。


「こうなりゃしょうがないわ! みんな一発勝負よ! いっせーの!」


 シンデレラは光速で同輩を呼び込むのだが、しかしここで本人がモタモタする。


「んぅ……なかなか顔が決まんないわね」

「じゃけー、アヒル口やめえ!」

「あぁわわ、今度は緊張で濡れてきちゃったわ…………もちろん、手がよ!?」

「もうええわ!」


 億劫になったモモタは、シンデレラの汗握る手に自身の手を重ね合わせて、強引にシャッターを切った。間もなく、バッテリーが尽きてスマホ画面が暗くなると、シンデレラの頬に桜の花びらが滑った。

 もののついでに、モモタはお祈りする。

 願わくば、世界が平和でありますように。


 ともあれ。

 ちゃんと写真が撮れているのかどうかは神のみぞ知る。

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