赤ずきんとは
「はい。じゃあ赤ずきんちゃん、手紙を読み上げてみましょうか」
スマホを構えたシンデレラのこのセリフで、せっかくの雰囲気が台無しだった。
こいつを殴っても苦情こんよな?
モモタは自身の肩をぶん回して、あとは赤ずきんに委ねた。
しかし素直な赤ずきんは、金髪監督の演出にまんまと乗っかる。
折り畳まれた便箋を開くと字は乱れていた。
書き慣れておらず、苦労して書いたのが見て取れる。
『愛しの赤ずきんへ
汚い字でごめんなさい。ちゃんと読めているかしら?
自信はありませんが、したためておきます。
赤ずきん。あなたは幼い頃に両親と離別して、さぞかし辛かったと思います。
ですが、12歳の誕生日まで強く育ってくれました。
誕生日おめでとうございます。
でも、そんな赤ずきんだからこそ、おばあさんは言わなくてはなりません。
実は、ずっとあなたに隠していたことがあります。
赤ずきん。
あなたには、お兄さんがいます。そう遠くない日に目の前に現れることでしょう。
でも、赤ずきん。
どうか驚かないであげてください。
いえ、たとえ驚いても拒絶しないであげてちょうだい。
正直、おばあさんは人間が憎いです。
本来であればもっと早い段階で、家族総出で別の場所へ移住するべきだったのでしょうが、なんせおばあさんの足の具合が悪いばかりに……本当に足を引っ張りました。
でもね、赤ずきん。
あなたはどんな真実を知っても、どうか人間を嫌いにならないでください。
憎しみの連鎖は次の世代に引き継いではいけない。
棺桶に片足を突っ込んでいるおばあさんにどうぞ譲りなさい。墓場まで持っていきます。
すみません。
ちょっとだけ、おばあさん、疲れてきました。
赤ずきん。
きっとあなたなら、どんな困難も乗り越えられると、おばあさんは信じています。
すみませんね。
信用できないかもしれません。
嘘ばかりつくおばあさんでした。
しかし、赤ずきんのことを愛しているということだけは、神に誓って嘘ではありません。
それから、あなたに赤い頭巾が似合うと言ったことも。
世界中の誰よりも、あなたは赤頭巾が似合っています。
そしてまた、世界一似合うであろうプレゼントを同封しておきます。
赤ずきん。
自分のありのまま、正直になれる場所で、精一杯生きてください。
あなたの嘘つきおばあさんより』
同封されていたプレゼントは、灰色のリボンの髪飾りだった。
おばあさんの手作りである。
灰色のリボンを抱きしめて、赤ずきんはポロポロと号泣した。
天国のおばあさんに声が届くように、遠吠えするようにわんわんと泣きました。
言葉は嘘だったかもしれないが、愛に嘘はなかった。
ハスキーは包み込むようにもう一度強く赤ずきんを抱きしめた。
『オオカミ少年』とは。
妹を守るために嘘を吐き続けた――孤独な兄の
『赤ずきん』とは。
赤い頭巾を被り自らを騙し続けた――忍ぶ妹の御伽噺。
オオカミ兄妹の感動の再会。
心温まる家族の絆。
何はともあれ、これにて一件落着。
モモタは万感の思いだった。
しかし同時に、虫の知らせめいた胸騒ぎも感じていた。
そしてその凶兆は的中することとなる。
兄妹ふたりの遠吠えに呼び寄せられるように、草原の向こうからは地響きが迫っていた。
ネコメイドの首輪の鈴の音がチャリンと不吉に鳴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます