第4噺 赤ずきんちゃんはオオカミ恐怖症
はじめての課外授業
《問3.赤ずきんがおばあさんの正体を知ったときの気持ちを答えなさい》
出席番号第3号のネコメイドが転校してきてから、数日経ったある日。
教室の黒板には、そんな問題が出題されていた。
「アマテラス先生、毎度のことながら……赤ずきんちゃんって誰なん?」
「いい質問ですね、モモタさん。赤ずきんちゃんとは、
「まんまなんよ……。桃太郎よりまんまなんよ」
モモタは聞いて損した。
「なにぃ、また女なのー? なんで男は来ないのよ?」
右隣のシンデレラはブー垂れる。
そしてスマホ片手にオニチューブの動画を再生しながら、
「うわっ、また広告ぅ。オニウザッ……。さっき流れたばっかじゃない!」
と、怒鳴り散らしていた。
「拝金主義に溺れた大企業め! どうせ起用するんなら、もっとイケメンにしなさいよね!」
「どんだけ男に飢えとるんじゃ……。おめえは腹ぺこのオオカミか」
モモタはいいかげん辟易した。
こんなんで、ほんまに僕たちは世界征服できるんか。
「ちょっ!? か、かか、勘違いしてんじゃないわよ! あーモモタァ、恥ずかしい奴ぅ!」
「何が勘違いなんよ?」
「そ、それは……」
シンデレラは赤面した顔の前で手を振り、小声で言う。
「あんまり
「ひょっとして、シンデレラ、おめえ……」
モモタが流し目を送ると、シンデレラは期待に胸を膨らませて長いまつげを瞬かせた。
「……もう腹すかせとるんか? さっき朝飯食うたばかりじゃろう」
そのモモタの残念な答えに、シンデレラは椅子から転げ落ちた。
「モモタの分からず屋!」
「モモタにゃん、今のはさすがにひどいにゃん」
今回ばかりはモモタの左隣の席からも、そんな猫なで声が聞こえた。
長靴を履いたネコメイドは制服には袖を通さずにメイド服を着用していた。
「そうか。ネコが言うなら今度から気をつけるんよ」
「なんで家来のネコには従順なのよ……こいつぅ」
シンデレラは不満げだった。
「はぁーい。静かにしてくださーい。私語は死後にしてくださーい」
アマテラス先生は注目を集めるために黒板をバシバシと平手で叩いた。
「今、ダジャレ言ったわよね」
「確実にダジャレ言いましたにゃん」
「今どき、ダジャレを言うんじゃな」
モモタたちはヒソヒソと話し合った。
「だまらっしゃい! ダジャレから生まれたような、あなた方に言われたくはありません!」
身も蓋もなかった。
でもその通りだと思い、一同は担任教師に注目した。
「今日は心機一転、課外授業をこなしてもらいます。みなさんにはカボチャの馬車に乗って、学園の外に出てもらいましょうか」
「でも……カボチャの馬車は魔法が解けてお釈迦になっちゃったわよ?」
いちおう馬車の持ち主であるシンデレラは進言した。
「ご安心ください。コロポックルたちに頼んで修理済みです。報酬として鬼あられと柿の種、そしてイチゴ大福まで献上するハメになりましたよ。3つとも私の大好物でしたのに……」
「いや、知らんけど」
「あの
「口悪っ!?」
あんた、ほんまに神様なんよな?
モモタは不信感を募らせた。
食べ物の恨みは神も人も変わらないらしい。
「ちなみに補足しますと、コロポックルたちに梅干しを与えたら目の色を変えてブチ切れるのでご注意してください。控えめに言って、
「そうなん?」
めちゃめちゃ怖いやん。
モモタにはいつも温厚なコロポックルの激昂した様子は想像つかなかった。
そして、そんな益体もない情報を真面目にメモするネコメイド。
ペンも握れるんかい。
「ウメボシ……」
その隣ではシンデレラが朝食を思い出したように手を叩いた。
「あーあの今朝モモタが食べてた、酸っぱくて腐った木の実のことね。ゲロマズだったわ」
「じゃあ食うなや」
僕の眼球にピューンしやがって……。
モモタが恨みがましい目を向けていると、
「はい。というわけでして」
と、切り替えるようにアマテラス先生は命じた。
「赤ずきんちゃんちに全員集合です。彼女をどうにかこうにか、誘拐でもなんでもいいですから、この学園に入学させてください」
今日の授業は人攫いか。
しかも、人間の少女の……。
簡単に言ってくれるが、モモタはあまり気が進まなかった。
なるたけ穏便に済ませたい。
「誘拐は反対にゃんけど、そもそもその子の家の場所がわかんないにゃん」
ネコメイドは挙手した。
「それはカボチャの馬車に新しく取り付けられたカーナビでわかるはずです。ちなみに、スマホの『Loli』とも同期していますから質問にも答えてくれるはずです」
「カーナビ、ロリ……にゃん?」
「ええい、焦れったい! ままよ、ままよ。百聞は一見にしかずです。さっさと現場に急行してください!」
そうして、モモタたちはアマテラス先生に急かされて教室から追い出されたのだった。
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