緊急出動
メグは
琴音に遅れること数十秒、メグが息も絶え絶えに駐車場に着くと同時にゴン太が姿を現した。その後ろに何故か
「天空さん、何でここに」
驚いたのは琴音も同じらしかった。
「あなたたち、いつの間に仲良くなったの?」
「色々あってな、共同戦線や。それよりまたあいつやな。今度こそ捕まえたる。急ぐで」
「僕が運転しようか?」
「足は多い方がいいわ。天空は自分の車で来て。できれば課長の動きを見ててほしい」
「遠山さんの? わかった。位置情報を共有しといてくれ」
「了解」
琴音は運転席に滑り込んだ。免許を持たないメグは、いつものように助手席に乗り、ゴン太は後部座席に陣取った。
「カムイが先に行ってるわ。私たちも急ぎましょう」
言い終わるか終わらないうちに、車はキュルキュルとタイヤを軋ませて駐車場を走り抜け公道に躍り出た。年代物のライトバンは琴音の華麗なハンドルさばきによってスポーツカーの如く次々と前の車を抜き去っていく。メグはドア上の手すりにしがみついて、いつか映画で見たカーチェイスの場面を思い出していた。後部座席ではさすがのゴン太もシートベルトにしがみついて震えている。
市街地を抜け、映画ならそろそろヘリコプターから銃撃を受けるあたりで前方の空にカムイが現れた。
「カムイがついて来いって言ってるわ」
琴音の言葉で、この会話は恐らくテレパシーのようなものだとメグは気づいた。そういえばメグはまだカムイが話すところを見たことがない。言語能力に長ける筈のフクロウなのにと不思議に思っていたのだがこういうことだったのかと得心がいく。魔法課はまだまだメグの知らないことだらけだ。
曲がりくねった山道をひたすら登り、この町で最も高い山の頂上付近まで来たときカムイが照明灯のひとつに降り立ったので、琴音は近くの駐車場に車を停めた。駐車場と言っても砂利と雑草が混じった車十台分ほどの広さの単なる広場だ。少し上がったところに展望台とベンチと簡易トイレがあってハイキングコースの終着点にもなっている。メグも中学の遠足で来たことがあるが、今日はここまで誰とも出会わなかった。
「変ね」
車から降りて辺りを見回していた琴音が不意に言った。
「カラスの気配が全くしないわ」
「ほんまやな」
フラフラと車を降りたゴン太も空を見上げながら同意する。
「カムイ、このあたりに使い魔に限らずカラスはいてへんか?」
カムイは首から上だけをぐるりと回してからひと声「ホー」と鳴いた。メグにもそれは「ノー」だとわかった。
「あののらはカラスの使い手や。何ぞ企んでるのかもしれへんな」
「そうね、油断せずにいきましょう。今日は私の手で何としても奴の正体を暴いてやるわ」
そう言うと、琴音は車に戻っていつも持ち歩いているバックパックからスニーカーを取り出して履き替えた。それからメグの足元に視線を落として眉をひそめた。
「望月さんはローファーなのね。まあパンプスよりはマシだわ。カムイの話だとここからかなり歩くことになると思うけど行ける?」
メグは大きく頷いた。メグの返事を聞くや否やハイキングコースに向かって颯爽と歩き出す琴音のスラリと伸びたふくらはぎの下のスニーカーを見ながら、魔法は真似出来なくてもこういった心掛けはどんどん真似しようと思った。
ハイキングコースは大人ふたりが並んで歩けるくらいの道幅でそれなりに整備されている。メグは始めこそ快適に歩いていたが、傾斜がきつくなるとさすがにローファーでは歩きづらくなってきた。そんなメグの前にはふわふわと浮かんだまま移動するゴン太の姿があった。
「ゴン太はいいわね。せめて私のためにスニーカー出してくれない?」
「メグも浮いたらどないや」
メグは足元の松ぼっくりを拾って前を行くゴン太に次々と投げつけた。最初のひとつはゴン太の頭に命中したものの、次からはあの体育館の時と同じように空気のバリアに跳ね返されてメグは地団駄を踏んだ。
「ゴン太のケチ、デブ、ハゲ!」
「ハゲてへんわ!」
「大切なバディが困ってるっていうのに薄情過ぎるでしょ。火や水ならじゃんじゃん出せるじゃないの」
「前にも言うたけど物質化は手間がかかるんや。スニーカーみたいな複雑なもんは一から作るのはまず無理やさかい、どっかから運んでこなならん。近くの店からやと窃盗になるし、そもそもこの近くに店なんかないやろ」
「じゃあうちの靴箱から運んでよ!」
メグは名案とばかりに叫んだが、ゴン太によって即座に却下された。
「あほっ! どんだけ遠い思てんねん。物質の移動は重さと距離のかけ合わせたもんに比例してエネルギーを使うんやで。メグが最近読んだ本にも書いてあったやろが」
そんなことが書いてあったかどうかメグは一向に思い出せないでいた。ゴン太はいつの間にその本を読んだのだろう。それとも以前からその知識があったのだろうか。だとしたらどこで覚えたのだろう。不思議に思ったものの、口にするとゴン太にドヤ顔をされかねないので「それもそうね」とだけ答えておいた。
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