第47話 決着はあっさりとしてるもの

 そんな事を言うと、目の前でリンチしてきたチンピラどもはなぜかおびえた様子で俺を見てきた。そしてそんな集団の中から、御手洗が一歩飛び出してきて声を上げた。


「な、なんでまだ立ち上がるんだお前っ」


「当り前だぁ、喧嘩はどっちかが倒れて降参するまでやるもんだ、俺はまだ降参してねぇ、この通り頭も冴えて体もピンピンとしてる」


「そういうこと聞いてんじゃねぇよ、とっとくたばっとけって言ってんだよ、なんでそんなになりながら立つ?」


「そりゃお前、俺が友達思いの、普通の高校生だからだよ、ここで倒れてちゃ大切な友達を助けられないだろ」


「な、なぁにが友達だこいつ、行けお前らっ、その生意気な口を二度と喋れねぇようにしてやれ」


「かかってこぉい、もう手加減なしだ、お前全員ぶっ飛ばしてやるからな」


 なぜか湧き上がってくる力、そして、目の前に現れるチンピラどもにその湧き上がるものをぶつけた。


 チンピラどもはさっきよりのろまな動きで襲い掛かってきて、俺はそんな奴らに拳をお見舞いしてやった。

 よく動く体と集中力が高まった頭が見事に連動し、目の前のチンピラどもを蹴散らした。


 そうして、まるで夢の中にでもいる様な全能感を伴った感覚の中、ひたすら殴る、蹴る、頭突き、極めるの暴力を繰り返していると、いつの間にか俺の周りには襲ってくる人の姿がなくなった。


 すると、あれほどいたチンピラどもは俺の周りの地面にうずくまっていた。そんな状況を確認した後、俺は諸悪の根源である御手洗にゆっくり歩み寄った。


 すると、ソフクリはまるで待てと言わんばかりに両手を突き出してきた。それはさっきまでの威勢を感じさせないほど弱々しい姿だった。


「ま、まてっ」


「なんだ」


「お、お前、俺をどうにかしたら大変なことになるぞ」


「大変なこと?」


 ここにきて脅しのようなことを言い出した御手洗は、よほどピンチなのだろう。対して動いていないにもかかわらず汗をびっしょりとかいていた。


「そ、そうだ、だからバカなことはよせ、俺を一発でも殴ってみろ、お前はこのギフトガーデンにいられなくなるぞ」


「へぇ」


「だ、だからお前はそこにいる六巳哲心を連れてとっとと帰れ、分かったか?」


「あぁ、わかった」


「そ、そうか、なかなか物わかりがいいじゃないか」


「あぁ、でもな、その前に」


 俺の呼びかけに、御手洗はずいぶんとおびえた様子で俺を見つめてきた。


「な、なんだ?」


「お前の事一発なぐらせてくれないか?」


 この言葉に御手洗は慌て始めた。


「な、なんでだよ、お前今わかったって言っただろっ、何で殴る必要があるんだよっ」


「いや、一発殴っとかないと、今日の傷がうずきそうでたまらなくてな」


「そんな、バカな話が、ちょ待てよ」


 もはやハエを出す余裕もなくなっているのか、腰を抜かしてしまいそうにふらふらとする御手洗に歩み寄ると。

 悪あがきか、近くに落ちているバットを拾い上げて、俺に襲い掛かってきた。


「く、くそったれ、調子に乗るなよっ六等星の分際でっ」


 突如として悪あがきをしてきた御手洗の攻撃を避けた。


「くそ、よけんじゃねぇよっ」


 そういいながら続けざまに攻撃を仕掛けてくる御手洗に対して、振り回すバットをがっちりをつかんだ。


「なっ、離せっ」


「離したら振り回すだろ」


「くそ離せ、ろくでなし、その憎たらしい顔に一発決めてやる」


「なんだ、じゃあ、大切そうに両手で握るバットを離せばいいだろ、そしたらその拳で俺を殴れるぞ」


 そういうと、御手洗は世紀の大発見でもしたような顔で、持っていたバットを手放した。

 そうなると、俺の手には圧倒的に有利であるバットが手中に収まった。バカ野郎のおかげで、素手なんかよりも有利な得物を装備することができた。


「あーあ、バット持ち相手にどうするつもりだよ」


「え、あ、あれぇっ」


 思わず愛らしく思えるほどの天然ぶりを晒す御手洗、だが、哲心にしたことを忘れていない俺は、バットを振りかぶり御手洗に殴りかかることにした。


「や、やめろ、やめてくれぇー」


 廃倉庫に響き渡る御手洗の命乞い、そして、俺は御手洗の顔面ぎりぎりで寸止めした。

 御手洗はあまりの恐怖に気絶したのか、その場でゆっくりと倒れた。もう向かってくる様子がなく、気絶している様子であり、これでようやく落ち着くことだろう。


 そして、俺は足元にいる御手洗から手錠の鍵を取り、哲心のもとへと向かった。哲心のもとへとたどり着くと、哲心は驚いた顔をしながら俺を見つめてきた。


「待たせたな、哲心」


「そんなことはどうでもいい、それより大丈夫かルシオ?」


「大丈夫大丈夫、それよりほら、手錠外してやるよ」


「でも、血が」


「大丈夫だって、ほら、外れたぞ」


 哲心の手錠を外してやると、哲心はうれしそうな顔をしながら自由になった手を存分に動かしていた。だが、すぐに心配そうな顔をして俺を見つめてきた。


「ありがとう、でも本当に大丈夫なのか?」


「大丈夫だっての、それよりとっとと帰ろう、それとも病院よってくか?」


「それはこっちのセリフだルシオ、今すぐ病院に向かおう」


「まぁ俺は大丈夫だよ、体丈夫だし」


「いや、冗談抜きにして君のことが心配だ、病院に向かおう」

 

 完全に意識を失ったわけではない様子のチンピラどもを後に、俺は哲心と共に廃工場から逃げ出した。


 追手が来ることもなく一件落着だと思っていると、突然目の前に人が現れた。何事かと目を凝らして突如現れた人の姿を確認すると、そこには見慣れた顔の人が立っていた。


「クルリ、何でここに?」


「どうしてもこうしてもないっす、ルーシーはどうして電話にでないんすか?」


 怒った様子のクルリはプンプン起こった様子で歩み寄ってきた。


「い、いや、哲心助けるのに必死でさ」


「だとしてもっす、これじゃあたしが六巳君の家にまで行ったり、聞き込みしてた意味がないってもんですよ」


「悪い、俺も夢中でさ」


「はぁ・・・・・・まぁいいっす、とりあえず衛星さん呼んどきましたから、ルーシーと六巳君はこれから私と一緒にそのぼろぼろの体を治療しに行くっすよ」


「あぁ、悪いなクルリ」


「いいってことっす、その代わり今度の昼ご飯はおごりっすよ」


「あぁ、おごらせてくれ」


 なんともいいタイミングで来てくれたクルリのおかげで、今度こそ一件落着と決めるべく、俺は哲心とクルリと共に病院に向かった。

 しかし、クルリの案内でたどり着いたのは病院ではなくつい先日おいしいホットドッグを食わせてくれた「ガニューメ」だった。


「おい、腹は減ってるが、病院に行くんじゃなったのか?」


「大丈夫っす、ここの店長は医者っす」


「は?」


 半信半疑のまま俺は哲心と共に店内に入ると、中ではマスターが待っていましたと言わんばかりに立っていて、マスターはなぜか白衣を身にまとっていた。


「な、なんで?」


「あたしが連絡しといたんすよ、だからルーシーたちは治療を受けてくださいっす」


「そうか、じゃあ哲心の方を見てやってくれ、俺はいい」


「いや、でもルーシー血だらけなんすけど、よく立っていられますね」


「このくらいなら大丈夫だ、それより哲心だ」


「いや」


「俺は寝たら治るから」


「そんなびっくり人間、いくらガーデンでも通用しないっすよ」


「そうか?」


「そうっすよ」


 そんなこんなもあって、なぜか医療知識と技術に長けたマスターは、妙に慣れた手つきで哲心を診察していた。

 マスター曰く、そこまで心配することはないといって、傷口の処理やらなんやらを見事にし終えると、今度は俺のもとへとやってきた。


「あ、あぁマスター、俺は平気なんで」


「しかし、その出血量は明らかに」


「もう止まってます、それより、今は腹が減ってて」


 マスターは唖然とした様子をしていた、確かにそんな顔するのが普通かもしれないが、とにかく意識ははっきりしているし体もちゃんと動く俺は、本当に腹が減っていた。


「マスターさん、ルーシーはご飯食べたら治るっていうびっくり人間らしいから、ほっといても大丈夫そうっすよ」


 なんだか嫌味にも聞こえるクルリの言い方に、マスターは静かに頭を下げた後、白衣を脱ぎながら店の奥へと姿を消した。


「そんな言い方しなくてもいいだろ」


「でもルーシーがそういったんじゃないっすか、本当に心配しがいのない人っすね」


「な、何を怒ってるんだよクルリ」


「別に怒ってるわけじゃないっすけど、ルーシーは心配して損するタイプの人ってことが分かって、自分自身にいらついてただけっす」


「まぁそういうなよ、俺は哲心を助けられて満足だ」


 まぁ、せっかくこんなところに来たんだから、ギフテッドとかいうわけのわからない奴らを相手にしてみたかったっていうのもあるが、何よりも哲心を助けるという目的があったからこそ迎えられた結末だ。


 そう思い、哲心に目を向けると、彼は机に突っ伏し眠っていた。あれだけぼろぼろにされていたんだから、寝てしまうのも仕方がないだろう。


 そう思い俺は哲心のずれた眼鏡を取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る