第46話 友を助けるために立ち上がる

 いとも簡単によけられたことに驚きつつ、殴られた衝撃で地面をころがりながらもすぐに立ち上がると、御手洗の下っ端どもはニヤニヤしていた。


「あれ、おかしいな?」


「はっはっは当り前だ、お前のやり方はこいつから聞いてるからな」


 突然聞こえてくる威勢の良い声、すぐさま目を向けると、そこには「EVE SILVER」で出会い、ここまで案内してくれたグラサン学生がいた。


 グラサン学生はにやにやしながらグラサンをずらして、かわいらしい子犬のような目を見せてきた。


「お前っ、さっきのグラサン」


「へへへ、お前の戦い方はとっくにわかってんだよバカめ」


 グラサンはやってやったとでも言いたげに憎たらしい笑顔を見せながらそう言った。 


「くっそ、チクったなこの野郎」


「チクったとかそんなんじゃねぇよバカ」


「いや、チクったろ、最低だなお前チンピラの風上にも置けねぇやつだ」


「だ、だからそんなんじゃねぇっての」


「しょうがねぇな、脛がダメならほかのやり方で・・・・・・」


「ルシオッ」


 次なる策を考えていると、哲心が叫んだ。その声にすぐさま哲心の方に顔を向けると、哲心は真剣な顔で俺を見つめてきた。


「なんだ哲心」


「今すぐ逃げろ、今ならまだ助かるっ」


「まだ助かる?」


「あぁ、今ならまだ助かる、だから逃げてくれ、この人数相手に一人じゃあまりにも不利すぎる」


「不利か・・・・・・」


「そうだ、だから早く逃げてくれっ」


「それは無理だな哲心」


「なぜだ?」


「そりゃ、友達を見捨てるとか、男としてかなり難易度が高いぞ」


「と、友達?」


 哲心は飛び切り呆れた顔で俺を見つめてきた。悪くない、そういう顔も反応も、これからたくさん見てみたいものだ。


「せっかくここまで来たんだ、お前助けねぇとここに来た意味がなくなるだろ」


「ま、まだそんなことを言ってるのか、君には今のこの状況が分からないのか?」


「わかってる、だからこそ逃げるわけにはいかないんだ」


「どうしてだ、僕は君をこんなことに巻き込んでしまったんだ、君が逃げてくれないと僕は、僕はっ」


 初めて見る悔しそうな哲心の表情が俺にはうれしくてたまらなかった。


 最近会ったばかりだが、普段は不愛想ような奴が、こんな状況だってのに自分の事よりも俺の事を心配してくれている。


 こんないい奴をこんなところでよくわからねぇ野郎共に好きにさせるわけにはいかない。必ずこの戦場で勝利で飾ることを誓おう。


「何言ってんだよ哲心、俺の方こそ大切な友達を前に、敵前逃亡なんて絶対できないな」


「だめだ、頼むから逃げてくれルシオ」


「断る、せっかく友達になれそうなんだ、こんなしょーもないことで失ってたまるか、俺が何とかしてやる」


 そうだ、せっかくこんなところに来たんだ、普通に高校生やって普通に友達作って普通の学校生活ってもんを送ってみたい。


 そんなわくわくが心で暴れまわる俺は後先考えず、手に持った鉄パイプを握りしめ、目の前のチンピラ集団突っ込んだ。


 なんて無謀だろう自分でもそう思う。


 だが、哲心のため、大切な友達のために体を張れるっていうのはすこぶる気持ちがいい事を俺は知っている。


 そうさ、こうして誰かのために戦うことがどれほど最高で充実していて、俺は最高に頑張れる。


 そう思うと、不思議と体が動いて、目の前の状況なんて関係なくなる。


 ただ、気持ちがいいのは心だけであり、俺の目の前には大勢の得物を持った集団が俺に襲い掛かろうとしていた。


 言わずもがな、集団の方が有利であり、奴らはすぐさま俺を取り囲んできた。


 いわゆる鳥かご状態、どうやら相手も意外に頭が回るようで、あっという間に俺を取り囲んだかと思うと、すかさず俺に殴り掛かってきた。


 俺はもっていた鉄パイプでまるでチャンバラのように応戦していたが、侍でも剣道部でもない俺は、すぐに持っていた鉄パイプを弾き飛ばされてしまった。


 丸腰になってしまった俺に、取り囲むチンピラたちは、さらにその気持ちの悪い笑顔を咲かせて俺に襲い掛かってきた。


 頭部を守りつつ、なんとか応戦してみたが、奴らはがら空きとなった下半身や、腹部を狙ってきた。そうして、集団は間髪入れずに攻撃を仕掛けてきて、俺はワクワクする心とは裏腹に、痛みで意識が飛びそうになりながら、ひたすら攻撃に耐えた。


 だが、そうしているうちに俺はいつの間に膝をついており、そして、ほどなくして床に倒れこむしかなくなっていた。


 それからは、手を緩めることのないチンピラどもがひたすら痛みを与えてきた後、しばらくしてその攻撃はやんだ。


 ただ、攻撃がやんだところで俺は痛みのせいで立ち上がることはできなかった。だが、意識まだある、その証拠に俺の視界にはケラケラとやかましく笑う御手洗の顔が見えた。


 その顔がめちゃくちゃ腹が立つ顔をしていて、いますぐにでもなぐりにいってやりたかった。


 だが、殴るためにはまず立ち上がって、この下っ端どもを片付けないといけない。


 そう思い、いまだ高鳴る鼓動と共に起き上がろうとしていると、何やら哲心の声が聞こえてきた。それは俺の名前と俺の体を心配してくれる言葉だった。


 こんな事になるとわかっていたから、さっさと逃げてくれといったんだろうが、とらわれた哲心を前ににげるなんて絶対できない。


 そんな事した時にはあいつらに何を言われるかわかったもんじゃないからな。


 そう、俺は大丈夫、大丈夫だ哲心、そんな声をあげなくたって俺だって喧嘩には慣れてる、何回も殴られて立てなくなるほど殴られて、挙句の果てには血をぼたぼた流しても俺は立ち上がれる。


 そうして今日まで生き抜いてきた。だから、こんな生半可なリンチくらいじゃ俺は倒れない。


 そんなことを思い出しつつ俺はすぐに起き上がった。


 ボコボコにされたが意識も視界は良好、体中は痛むが、筋肉は、はち切れんばかりに躍動しているのが感じ取れる、この不思議な感覚がいつも俺を立ち上がらせ、そして過酷な人生を生き抜くために役立ってきてくれた。


「まだまだ、喧嘩はこれからだよなチンピラども」

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