第45話 三等星の力?

 黒い靄、それがいったい何なのかわからないまま、みるみる増えていくその謎の物体に見とれていると、御手洗は手で顔を覆いながら静かに笑っていた。


「なんだ、なにがおかしいんだよ」


「ふふ、ふははははっ、この湧きあがるような力、最高だぜ」


 何がすごいのかは見てわかるんだが、御手洗の楽しそうな反応に対して、周りを取り囲むやつらの反応がいまいちというか、かなり微妙な顔を浮かべているのはなぜだろう。


 そして、そんな対照的な景色がなんとも不気味であり、さっきみたいに盛り上げたらいいだろうと思った。


 しかし、そんな異様な光景の原因が俺にはすぐわかった。


 そう、先ほどから靄のように御手洗の周りに浮遊しているのは、間違いなく何かしらの虫であるということだ。

なぜそう思ったのか、それは、先ほどまで聞こえていなかった「ブンブン」という羽音だ。


 これが御手洗の周りに存在する靄の正体を虫とする根拠、あるいは俺の知らないギフテッド特有の特殊な虫とか。


 とにかく、そんな不安が募るさなか御手洗は俺を指さしてきた。


 すると、御手洗の頭上にたかっていた虫であろうその靄は突如として俺のもとへと飛んできた。


 迫る靄を前にたまらず姿勢を低くすると俺の頭上では多くの虫たちがぶんぶんと寒気のする音をたてながら飛び回っていた。


 俺は、そんな虫たちの正体を暴こうと必死に目を凝らしていると、頭上に群がるそれらの一匹が俺の腕にとまってきた。


 そして、それは間違いなくハエであることが確認できた。


 そんな、まるで、牽制してきただけの虫たちはしばらく俺の頭上を飛んだあと、一目散に御手洗の元へと戻っていった。


 そして再び主人である御手洗の元へと戻っていったハエたち、俺はそんな姿を見てしばらく呆然としたが、すぐに笑いが込み上げてきた。


 あぁ、そうだ、取り巻きが微妙な顔をしている様、そしてあのソフトクリームのような頭をする男に群がるハエの大群、そんな様子を見て、とある物をメージをしないやつがいるのかってくらい、それはそれであった。


「わっはっはっは、見ろ哲心ハエがたかってる、ハエが、ハエがたかってるんだっ」


 そう、そしてハエだということが認識できたことにより、御手洗の奇抜頭とハエの共演はもはやウンチにしか見えず、笑いを止めることができなかった。


 そしてそれを共感してもらいたくて哲心に笑いかけると、哲心もまた表情を緩めていた。


「わ、笑いすぎだぞルシオ、ぷふっ」


 あまりにも滑稽な姿に哲心もプルプル震えながら笑っていた。


 無理もない、この状況がいくらピンチであろうと、目の前にあるウンチらしきものと、それにたかっているハエたちを前に笑うのをこらえることができるはずがない。

 

 だが、そうして笑っている俺たちを前に、御手洗は大声を上げた。


「き、貴様らぁ、何がそんなに面白いっ」


「いや、だってハエがたかってて、しかもお前の頭がそんなんだからウンチみたいで・・・・・・はは、はははははっ」


「なんだとこの糞ったれ、お前だけは許さねぇ、お前だけはただじゃ置かねぇからなっ」


「でもギフテッドっていうんだから、もっと素敵でおしゃれな能力かと思ってたのに、それがまさかハエを呼び出す能力なんて、はははっ」


「笑うなって言ってんだろうが、これでも立派な三等星なんだぞ、おめーらなんかよりよっぽどできるんだ、バカにすんじゃねぇっ」


「いや、本当に悪い・・・・・・でもハエって」


「糞ったれ、笑いものにしやがってこの野郎」


「いやぁ笑った笑った、久しぶりだなこんなに笑ったの」


「うるせぇ、もう頭にきた、てめぇはぶっ殺すっ」


 怒りをあらわにした御手洗は、俺を指さしてきたかと思うと、ハエの集団はまるで大きな魚か、あるいは竜の様な形を成したかと思うと、いきなり俺に向かって飛んできた。

 なんともおぞましい状況に、再び姿勢を低くすると、俺の頭上では大量のハエでブンブン旋回しながら飛んでいた。


「うわー、きもいきもいきもい」


「はっはっは、どうだこの統率された集団行動、そしてこの洗練された動き、こいつぁ六等星にはできない芸当だぁ、まじでバカにしてんじゃねよこの野郎」


 満足げな御手洗は高笑いしながら俺をバカにするかのように指さしてきた。


「気持ち悪いだろ、どっかやれよ」


「ははは、そいつらは俺の言うことを聞く優秀なる兵士だ、手を振り払ったりしたところでどこかに行くような奴らじゃないぞ」


「くそ」


「ほらほらほらほら、どうだフランク、気持ち悪いだろ」


「・・・・・・」


「ど、どうした、気持ち悪すぎて足が動かなくなったか?それとも降伏する気になったか?」


 確かに気持ち悪い、だが、このハエどもはただ俺の周りを飛んでいるだけだ、そんなことを思いながら俺はまるでウンチか生ごみにでもなった気分でハエを眺めた。


 しかし、そいつらが特別何かしてくるわけでもない。


 俺はそんな状況にすぐさま御手洗みた。奴は偉そうな態度をしてはいるが、なんだか引きつった顔をしていた。

 何をそんな顔をする必要があるものかと、俺は姿勢を低くしたままじりじりと距離を詰めた、すると奴は俺との距離と等間隔に保った。


「おい、なんで逃げるんだよ」


「な、なに言ってんだ、俺が逃げるわけないだろ、俺は三等星様だぞ?」


「いや、でも」


「う、うるさいうるさい、お前らいけー」


 どうやらハエを操ることは出来るみたいだが特別何かできるわけでもなかった様子の御手洗は下っ端どもを俺に向かわせてきた。


 何のためにハエを召喚したのかわからない状況の中、背後に控えていたしたっぱどもが俺に向かってきた。


「おい結局、下っ端にやらすのかよっ」


「う、うるせぇ、お前なんか死んじまえーだ」


 そういいながら情けなくも子どものように舌を出して挑発してきた、ろくなギフテッドに出会わないものだと嘆きつつも、目の前に迫る武闘派らしき奴らに俺は少しだけ勝機が見えた。


 あのハエどもが単なるハエで飛んでるだけの馬鹿野郎どもだっていうなら、こっちにだってチャンスはある。


「肉弾戦ってならこっちにも勝ち目はあるぞ」


「はははっ、この人数でどうやって相手するんだバカめ、バカ」


「どうって、こうすりゃいいんだよっ」


 俺は近くにあった鉄パイプをひろい、突っ込んでくるチンピラどもの脛を壊してやろうと思っていると、奴らは軽々とその攻撃をよけて俺に殴り掛かってきた。

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