第44話 御手洗総司《みたらいそうじ》
哲心言葉を最後に、俺の耳には大勢の足音が聞こえてきた。振り返ると、そこにはガラの悪い学生たちが大量に立っていた。
皆、手には凶器を持っており、いい加減ギフテッドらしい姿でも見せてくれればいいだろうと、見慣れた光景にため息が出た。
しかし、制服を見るからに、さっきのグラサン男と同じ制服を身にまとった五等星の学生ばかりがあつまっているようで、皆怖い顔しながら俺をにらみつけてきていた。
「なぁ哲心、なんかもっと魔法使い的なローブ纏ってたり、いかにも超能力者的なぴちぴちスーツとか来てるやつはいないのかよ」
「こんな時に何をいってるんだルシオ」
「いや、なんでもない」
「そんなことよりもルシオ、早くこの手錠をどうにかしてくれないか、まるで取れないんだ」
「そりゃ手錠は取れないように作られてるんだから取れないだろ」
「頼む、早く外してくれっ」
「いや、でも鍵がないからどうにも」
「あっ」
哲心は何かを見つけたかのようにそんな声を出した、そして顎をしゃくって俺に何かを見るように促してきた。
そんなしゃくった先には、手錠のカギらしきものをじゃらつかせる男が一人見えた。
その男は、まるでソフトクリームのような奇抜な髪型をしており、そいつだけは周りの奴らとは違う制服に身を包んでいた。おそらく、五等星よりも上のランクに位置する学生だろう。
しかし、そんな新たな制服よりも、あまりに奇抜な髪形に思わず笑いがこみあげてきた。
ただ、状況が状況なだけに、必死に笑いをこらえていると、ソフトクリーム頭の男が笑いながら近づいてきた。
「よぉ、これをお探しかぁい、ろくでなしちゃん」
見た目の割には渋い声色をした男はそう言ってへらへらと笑っていた。
「誰だお前」
「御手洗
「御手洗、どっかで聞いたことがあるような気がするけど今はどうでもいい、それは哲心の手錠のカギか?」
「そうだが」
「じゃあ、貸してくれ」
「その前にろくでなし、お前に聞きたいことがある」
「なんだ?」
「お前は一体、ここに何をしに来たんだ?」
「哲心を助けに来た」
俺の言葉に御手洗は首を傾げ、眉をひそめた。
「助けに、来た?」
「どうしても何も、お前らが哲心を拉致ったから取り返しに来たんだよ、こんな事してやるなよ」
「ほぉ、だとするとお前は、このままそいつを連れて帰れるとでも思ってるのか?」
「もちろんだ、そのために・・・・・・ぷふっ」
ここにきて真剣なやり取りと、目の前の御手洗のソフトクリームみたいな頭とのギャップで笑いが漏れ出してしまった。
一応我慢はしていたが、あまりにも滑稽な髪形に笑いをこらえられなくなったのは俺のせいというよりも、ソフトクリームみたいな髪形をしているのが悪いとしか言いようがない。
「あぁ?なんだお前急に笑い出して」
「いや、ちょっと待ってくれ、やっぱりあんたの髪型面白くて、ははっ、ははははっ」
「な、なんだとこの野郎っ」
「いや、だから髪型が面白くてつい、いや、もう大丈夫、大丈夫だから、心を落ち着けるから許してくれ、っていうか、重力に逆らいすぎだろ」
「な、なにが大丈夫なんだよこの野郎っ」
しまった、シリアスな場面だというのに何で笑いを我慢することができないんだ俺は。しかも、そのせいで向こうさんの機嫌は最悪だ。
「ゴホン、よし・・・・・・俺は哲心を助けに来たんだよっ」
「ふざけんなっ、しきりなおせるとでも思ってんのかこのろくでなし、お前、今俺の髪型を馬鹿にしやがったろ」
「し、してないです」
「嘘ついてんじゃねぇよ、お前絶対笑ったろ、この頭を見て笑ったよなぁ」
「いや、それよりも、早いところそのカギかしてくれないか」
「そいつは無理だ」
「どうして?」
「なんでも何も、そんなにこれがほしけりゃ力づくでとってみな」
そんな言葉と共に御手洗の背後にいる集団はたいして面白いことも言っていない割に大笑いし始めた。
何をそんなに面白いものかと思いながら、目の前のカギを前に俺は素直に挑発ともとれる行為に乗ることにした。
「なんだ、力づくでとってもいいのか?」
すると、先ほどまで五月蠅いハエの様な連中が黙り込み、顔を見あわせていた。
そして数秒後、目の前の集団はざわめき立ち、最後には再び爆笑の嵐が訪れた。
人数が人数なだけにあまりにも大きな笑い声がこだまする中、連中は俺のことを指さして笑いものにしてきた。
何が何だかわからない状況の中、たまらず哲心を見ると、あきれた様子で首を横に振っていた。
もしかして、どこか格好つけすぎただろうか、そんな事すら思える状況の中、ようやく落ち着いてきた笑い声の中から、御手洗が話しかけてきた。
「おいお前、今力づくで取るって言ったか?」
「あぁ、だってそうしねぇと哲心が」
「ぶーっはっはっは、お前頭どうかしてるぜ」
それはこっちのセリフといいたいところだったが、状況が状況なだけに頭がどうかしていると思われても仕方がないかもしれない。
だが、今日はずいぶんと調子がいい、この人数なら大量脛破壊兵器として戦果をあげられる気がする。そう思えるほどにちょうどいい苛立ちを感じ始めていた。
「何が面白いんだ」
「そりゃ決まってる、六等星のろくでなしちゃんがドヤ顔で力づくの勝負をするっていってんのが面白いってんだよ」
「だから何が面白いんだよ」
「はっ、お前記憶喪失か何かか、ガーデンでは格が絶対なんだよ。おめーみたいなフランクが三等星の俺には勝てねぇんだよっ」
あからさまにバカにしてくる態度に、少しづつ頭が沸騰してきた俺は少しばかりいら立ちを案じながら哲心を離して臨戦態勢をとることにした。
「なんだ、じゃあやるか」
「あぁ、いいぜフランク、格の違いってもんを教えてやる」
そういうと、御手洗はなぜか俺と距離をとった。
「なんだよ、格の違いを教えるのに距離をとる必要があるのか?」
「もちろんだ、格の違いってのは見てわかるレベルのものだからな、拳を交えずとも俺とフランクのお前とでは圧倒的な差があるんだよ、覚えときな」
そして、その言葉を終えた御手洗はなぜか指をパチンと鳴らした。
マジックでも始まるかと思われるそんな行為を不思議に思っていると、なぜか御手洗の周りに黒いもやのようなものがあふれ出てきた。
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