第42話 野球しようぜ

 そして、それに気づいたキラミは振り返り、不思議そうな顔をしていた。


「猫のお客さん?」


「大丈夫だキラミ、この人は俺に用があるんだよ」


「でも」


「いいんだ、この店には迷惑かけたくないし、実のところ道案内が必要かと思っててな、ちょうどいいのが来たと思っていたところだ」


 そういうと、グラサン学生は眉をひそめ俺に顔を寄せてきた。


「随分と生意気な奴だな、なんだか懐かしい気分だぜこの野郎、とりあえず表出ろ、このチンピラのろくでなしが」


「ち、チンピラじゃないし、ろくでなしでもねぇ、どっからどう見ても普通の男子高校生だっ」


「うるせぇな、早く外出な」


 心配そうに見つめるキラミを背に、俺はグラサン男と共に「EVE SILVER」の外に出ると、店前には4、5人のガラの悪い連中が待ち構えていた。


 手には金属バット、超能力者にしてはずいぶんと不相応なものを持っている、超能力者ってんなら手ぶらで険しい顔でもしていればいいだろうに。


 しかし、この状況、なんだか雲行きが怪しくなってきたな。


「ぶ、武器持ちかよっ」


 そして、奴らの登場は、俺という存在が空繰に知られている事を現していた。いや、それとも哲心と一緒にいたから、その取り巻きだと思われただろうか?


「おいおい、何言ってんだ、俺らは野球が好きでよ、今からお前と野球をしようって思ってたんだよ」


 野球をする、確かにそう見えなくもないが、持っている金属バットはすべて

ベコベコにへこんだものばかりで、中には赤い何かがついているようなものもあった。


「ず、随分と物騒な野球だなぁ」


「ははは、そうかもしれねぇな」


 へらへらと笑うグラサン男は、随分と楽しそうにしていた。


 しかし、まぁ、理由はなんであれ、ここをしのがなければ哲心にはたどり着けない、そう思った俺は隣でのんきに笑っているグラサン学生の背後に回り首を絞めた。


「のわっ、何しやがるっ」


 こうなると時間の問題、さっさとことを進めるために俺はグラサン学生に尋問を始めることにした。


「おい、グラサン」


「な、なにすんだ、離せこのろくでなし、ふいうちとは汚いぞ」


「不意打ちでも何でもいい、それよりお前達は空繰なのか?」


「だ、だったら何だってんだ、離せこの野郎っ」


「哲心がいるところまで案内してくれるってんなら放してやるんだけど、どうだ?」


「はっ、どうせすぐにあいつのところに行けるさ」


「どういう意味だ」


「ろくでなしが調子こいてんじゃねぇってことだよ、お前なんざ俺らの手柄になっときゃいいんだよ」

 

 どうやらはじめっから俺を始末する気で来たようだ、それに、この口ぶりじゃ哲心の居所も知っていそうだ。

 こうなったら後はこいつらをどうにかすればいいだけなんだが、どうにもこいつらが何をしてくるかわかったものじゃない。


 なんたって相手は超能力者であるギフテッド、武器を装備をしてはいるが、どんな力で襲ってくるかもわからない。


 ただ、こんな状況になってなお俺が首を絞めてるグラサン男はおろか、取り巻きのやつらはまったくもってその能力を使ってくる様子はない。


 それどころか、少しおびえた様子でこっちの様子を見計らってると来たもんだ。


 こうなりゃ先制あるのみ、俺はグラサン男を地面にたたきつけ、たまたま店前に置いてあった、ちょうどいい長さの鉄パイプを手に、勢いよくガラの悪い連中の一人に突撃した。


 すると、突撃した相手は持っていた金属バットを振り回してきた。


 そんな、大ぶりな攻撃に身をかがませて避け、すかさずの脛に鉄パイプを軽く当てた。すると「コンッ」なんていうこ気味良い音の後、男の叫び声が響き渡った。


 そう、こういう時は足を狙え、特に脛、弁慶の泣き所にさえ打撃を与えれば二足歩行の人はあっという間に無力化できる・・・・・・まぁ、鍛えてるやつにはあんまり効かないっていうトラウマがあるけどさ。


 そして、残る三人もその標的になってもらうべく、間髪入れずに一人づつ脛破壊を行っていった。


 数的不利という事で、圧倒的不利な状況にも思えたが、バットしか使ってこない相手にそれほど苦労することなく、しかもこっちの方がリーチのある鉄パイプを使っていたこともあり


 残る三人は何が起こったのかわからないといった様子で、特にてこずることなく脛に鉄パイプを当てるという作業を続けると、店先にはいつの間にか人が五人もうずくまっているという不思議な光景が出来上がった。


 なんとも滑稽な状況の中、脛を破壊した連中は足をひきづりながらヒーヒー逃げていき、残されたグラサン学生はというと、自慢のグラサンをずり落とし、捨てられた子犬か何かのような、かわいらしい目で俺を見つめていた。


「な、なんなんだよお前は」


「脛当て屋ってのは結構勇気のいる仕事でさ、これまでに何人の断末魔を聞いてきことか・・・・・・」


「はぁ?」


「いや、本当辛い仕事なんだ、自分の脛までもが痛いような気がしてきてな、でも、これが仕事だからなぁ」


「こ、この野郎ふざけやがって」


「まぁとにかくさ、哲心がいるところまで案内してもらおうかグラサン、お仲間は俺の仕事ぶりに、しっぽ巻いて逃げてっちまったぜ」


 そうしてグラサン男に案内を頼もうとしていると、店内からキラミが飛び出してきた。

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