第41話 助けに行くしかない

 店に到着すると、まだオープンしていなかったが、中では店内を掃除するキラミの姿があった。

 俺は無礼を承知で店に入った。店内に入ると、キラミがすぐに顔を向けてきた。


「まだ準備中だ・・・・・・って、猫のお客さん?」


 おそらく俺のことを言ってるんだろうが、猫のお客さんとは、なんだかどう反応すればいいかわからないが、親しみを込めて使ってくれている様子だ。


「あ、あぁ、開店準備のところ悪いな、少し話があるんだ」


「話し?」


 慌てた俺の様子を察してくれたのか、キラミは何も言わずに俺に椅子をさしだしてくれた。

 本来なら座ってる暇もないが、ここはひとつキラミの良心を守るため座ることにした。


「早速なんだが、ここに哲心が来てないか?」


「哲心、あぁ、この間の乱暴なお客さんのことか」


「あぁ」


「あのお客さんは、おととい来やがってから一度も来ていない」


 おとといきやがれなんて言葉は聞いたことはあるが、まさかこんな使い方をするとは、全くもって女子というやつは面白い言葉を生み出す天才だな。


「そうか・・・・・・」


「どうかしたのか猫のお客さん、もしかして、何かあったのか?」


「実はさ、哲心が連れ去られたって噂が立っててさ」


「まさか、空繰?」


「いや、まだちゃんと確認したわけじゃないんだけど、どうにもそういう噂がたってて、ここに来ればそういう話も聞けるかと思ってさ」


「も、もしかして」


 キラミは、まるで心当たりでもあるかのような反応をした。


「な、なんだ、心当たりでもあるのかっ?」


「実は昨日、空繰のお客さんたちが来て、いろいろ話してた」


「そいつらはなんて言ってた?」


「六巳哲心をつかまえたって・・・・・・まさか本当だったのか」


「そ、そいつらは他になんて言ってた?」


「確か、第六地区東にある廃ビル、そこで本屋哲心を捕えてるって話を聞いた、本当かどうかはわからない」


 この話が本当かどうかはわからないが、運の良い事に、とんでもなく重要な情報を手に入れたようだ。そして、何よりも哲心が心配で仕方なかった。


「ありがとう、本当にありがとうキラミ、お前には助けられてばっかりだ」


「気にするな」


「じゃあ俺は行くよ」


「どこに?」


「哲心のところだ」


「だめだっ、危険だっ」


 キラミは、まるで俺を引き留めんと言わんばかりに両手で肩を掴んできた。体がでかいだけあってなかなかの力に驚いていると、キラミは真剣な目で俺を見つめていた。


「危なくても哲心は大切な友達だ、助けに行ってやらないとダメなんだ」


「と、友達?」


「あぁ」


「で、でも一人じゃ危険すぎる、それに猫のお客さんは、その・・・・・・」


 眉をひそめて黙り込んだキラミは、伏し目がちに目をそらした。


 それはまるで俺が六等星だから、助けに行ったところでまるで歯が立たないとでも言いたいのだろうか?


 まぁ、正直なところそういう不安はある、だが、今の俺にそんな言葉は関係ない。むしろ、ここにいるギフテッドってやつらがどれほどすごいのか確かめたいくらいだ。


 なんたって、ここにきて、まともにギフテッドのすごさを実感したのは目の前にいるキラミくらいだからな。

 これから向かう先で、とんでもねーやつが出てきたら、それはそれで楽しいかもしれないし、哲心も助けられたら一石二鳥ってところだ。


 確かに、これは厄介ごとで、できる事なら首を突っ込みたくはないが、哲心のためならば動かないわけにはいかない。


「大丈夫だ、六等星だろうとなんだろうと、俺はただ哲心を助けに行くだけだ、何も本気で喧嘩しようってんじゃないんだよ」


「だとしても、戦闘は避けられない、相手は空繰、何をしてくるかわかったもんじゃない」


 確かに、そう上手くはいかないだろう。それこそ隠密なんてのは性に合わないし、結局ドンパチしてしまうはめになるかもしれないが、哲心のためならなんだってしてやるし、あいつには俺がいてやらなきゃならない。


 だが、そんな決意を胸に飛び出そうとしていると、さきほどから心配してくれているキラミの顔が更に曇った。


「よぉ兄ちゃん、今からどこにいくんだ?」


 聞き覚えのない声に振り返ると、そこには坊主頭に、サングラスをかけた、いかにもいかつい男が立っていた。


 そして何より気味が悪かったのは、その男は学生服を着ていたということだ。これほどミスマッチな格好もあるものかと、目の前に立つ男をじろじろ見ていると、キラミが俺の前に立ちはだかった。


「お客さん、お店はまだ準備中だ」


「いやぁ、俺はこのいけすかねぇろくでなしに用があるんでさ、ちょいとどいてくれるかい店長さん、あんたを相手にはしたくないんでな」


 しかし、その場を退かないキラミ。


 クルリは六等星には人権が無いとか言ってたけど、こうして優しくしてくれる奴もいる、そんな、やさしくも勇ましいキラミの肩に俺は優しく手を置いた。

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