第40話 「EVE SILVER」

 「EVE SILVER」を訪れた翌日の朝、昨日もらった猫のネックレスをご機嫌にいじりながら登校し、真っ先に哲心のもとへと向かうと、2組には哲心の姿がなかった。


 なぜ哲心がいないかはわからないが、見当たらない哲心に、俺は近くにいた2組の女子生徒に哲心の居所を聞いてみることにした。


 だが、女子生徒は俺が話しかける前に小さく悲鳴を上げながら逃げられてしまった。

 何もしていないに逃げられ、挙句の果てには2組のクラスメートたちから厳しい目つきをされた。


 そんな、なんともやりきれない中、俺は逃げるように2組を後にして、まだ居心地の良いであろう自分のクラスに戻った。


 すると、俺が登校してきたときにはいなかったはずの、クルリの姿があった。そして、彼女はまるで俺の気配でも察したかのように、顔を向けてきたかと思えば元気よく挨拶してきた。


「ルーシー、おはようっす」


「あぁ、おはよう、いきなりで悪いんだがクルリ、哲心のこと見てないか?」


「六巳君ですか、六巳君なら今日は休みらしいですよ」


 聞けば返事が返ってくる、これほどうれしいことはない。しかも、俺が知りたかったことを的確に返してくれるだなんて、クルリは本当にいい奴だ。


「休みなのか」


「そうっす、さっきクラスの子に教えてもらったっす」


「哲心の情報ってここでもわかるのか?」


「前も言ったじゃないっすか、六巳君は意外と人気が高いんですよ、だからそれなりの情報は入ってくるわけっすよ、ルーシーと違ってねぇ」


 どこか含みのある笑顔と言葉に顔が引きつったが、それでも的を得た言葉に俺は返す言葉がなかった。


「よ、余計なお世話だ、しかし、哲心は休みなのかぁ」


「そうっす」


 哲心が休みということで、そこはかとなくテンションが下がった俺は、その日1日を無気力状態のまま過ごした。


 そして、哲心が休みだと聞いた翌日、再び2組の教室へと向かうと、そこに哲心の姿はなかった。

 もしや喧嘩疲れだろうか、あるいは空繰関連で変なことに巻き込まれてるとか?


 とにかく、そんな不安に駆られた俺はというと、すこしでも情報を得るべく、クルリに哲心のことについて尋ねてみることにした。


 彼女は相変わらず俺がいないときは、たくさんの女子に囲まれているクラスの人気者、こりゃもう俺はクルリは関わらない方がこいつのためなのかもしれない。


 だが、哲心のこともあって、頼みの綱であるクルリに話しかけた。


「なぁ、クルリ」


 俺が話しかけると、ものの見事に取り巻きがいなくなった。


「おや、なんすか?」


「今日も哲心って休みなのか?」


「もー、ルーシーは六巳君のことが好きっすねぇ」


「気になるんだよっ」


「確かに、色々と気になる人ですからルーシーの気持ちもわからなくはないっすけど、実は、六巳君のことで少し変な噂が立ってるんですよ」


「変な噂?」


「そうっす、噂では、六巳君がガラの悪い連中に連れ去られるのを見たって噂で」


「な、なんだそれ、そんな話いつ聞いたんだ」


「今日っす、でも連れ去られたのはおとといのことらしいっすねぇ」


「おととい?」


「はい、でも噂っすから真偽のほどはわからないっす、なので普通に体調を崩してるとかそういうのかもしれないし、それを確認したって人も聞いてないっす、なにせ六巳君はミステリアスな人っすからねぇ」


「そうか、じゃあその噂は本当かもしれないってこともあるんだよな」


「それはそうっすけど、もしかして本当に連れ去られたって思ってるんすか?」


「もちろんだ」


「えっ、じゃあ本当に六巳君のこと探しに行くんですか、ただの風邪かもしれないっすよ?」


「それでも、そういう噂があるならほっとけないだろ」


「そりゃそうっすけど、どこか行く当てはあるんすか?」


「まぁ、一応」


「そうっすか」


「あぁ、だから万が一にでも先生に俺の事を聞かれたら、体調不良で帰ったと言っといてくれ」


「そうっすか」


「あぁ」


「じゃあ、あたしは六巳君の自宅に向かうっすから、ルーシーは当てがあるって場所に向かってくださいっす」


「え、いや、お前は別にいいんだぞ」


「いいじゃないっすか、あたしも手伝うっすよ、人は多い方がいいじゃないですか」


「いや」


「いいじゃないっすか、それに土地勘はあたしの方がありますからね、色んな所に行って話をきけますよ」


 クルリは笑顔でそう言った、確かに、土地勘が無い俺にとってクルリが手伝ってくれるのはありがたいことだが、同時に心配でもある。


「本当にいいのか、もしものことがあったら」


「大丈夫っすよ、こう見えてもここでの生活には慣れてるんですよ、色々なものの切り抜け方は心得てます、むしろルーシーの方が心配っす、行く当てがあるとか言ってそこらじゅうを走り回る算段じゃないっすよね」


 なんだか、とげのある言葉も聞こえてきたが、根っこの部分ではいい奴の精神がにじみ出ているクルリは少し心配した様子で俺を見つめていた。


「じゃあ頼む、俺はあてのある場所に向かう」


「はい、じゃあ連絡先教えてください」


「え、あぁ」


 思えば、入学式で仲良くなってからというものの、ろくに連絡先の交換もしていなかった俺たちは、ようやく連絡先を交換した。

 そして俺は、唯一の手掛かりがあると思われる「EVE SILVER」に向かうことにした。


 あそこには多くの空繰が出入りしているといっていた上にキラミだっている。

 この間は哲心に外を出歩くときは気をつけろとか忠告もしていたことだし、彼女がなんかしらの空繰の情報を入っているのかもしれないだろう。


 俺は全力で「EVE SILVER」へと向かった。

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