第39話 中学生アーティスト
中学二年生にしては体つきが大人としか思えない、いや、でも女性ってのは成熟が早いとかなんとかってのも聞いたことあるし、彼女もまたそのうちの一人なのかもしれない。
「そうか、最近の子は発育がいいんだな」
「よく言われる、皆は羨むが、個人的にはもう少し小さく生まれたかった」
「そういうものか」
「あぁ」
「まぁ、でもあんたがいいやつでよかった、あのままナイフでぶっ刺されるかと思ってたからヒヤヒヤしてた」
「本気でやろうとは思ってない、あと、私のことはキラミでいい」
「え?」
「親が付けてくれた大切な名前だ、だから名前で呼んでほしい、これも何かの縁だお客さん、お客さんは悪い奴じゃなさそうだしな」
驚いた、まさか俺を初対面で悪い奴だと思わないと言ってくれるだなんて。
「お、俺は悪いそうなやつに見えないのか」
「ん、見えないな」
もはや、この時点で俺の月形キラミに対する好感度は最高潮だ、これがもし嘘であったとしても俺は生涯かけて彼女のために尽くしてやりたくなる。
「いい奴だなキラミ、へへ」
「そうでもない」
少し照れた様子を見せるキラミは髪を耳にかけた。そんな姿すらも大人の女性のようであり、思わず見とれそうになった。
「ちなみにだけどさ、この店じゃこういうことが頻繁だったりするのか、さっきの様子からして初めての事には思えなくてさ」
「やってる商売柄、そういう類の人間が多い、何度か危ない目にもあったことがある。だが、この力のおかげで何とかやっていけてる、こればかりは自分の力に感謝してる」
「シンボルギフトってやつだな」
「そうだ、この力がなければ今頃こんな所で好きなことを出来ていない」
「しかしシンボルギフテッドってのはすごいな、もしかしてそれでここにあるアクセサリーとか作ってるのか?」
「あぁ」
「はぇー、すごいなぁ」
そんな、奇想天外で摩訶不思議な能力を使いこなすギフテッドの商品を見ていると、そのどれもが精巧に作られたものばかりであり、しかもオリジナリティあふれるデザインのものばかりだった。
値段もそれほど高くなく、皆お手頃のものばかりだったが頻繁に客の出入りがあるのか、いくつかのアクセサリーが売れた形跡が見られた。
ただ、アクセサリーというだけあってそれもこれもおしゃれなデザインばかりでどうにも俺の趣味とは相いれないものばかりだった。そう思ったら俺はふと、なんてことないことを思った。
「なぁキラミ、これって頼んだらオーダーメイドとか出来るのか?」
「できるぞ、何か作ってほしいのか?」
すると、キラミはどこかうれしそうな顔をした。その笑顔は先ほどまでの凛とした表情ではなく年相応のやわらかく、かわいらしいものだった。
仕事の依頼に関してはとても好意的に接してくれるようだ。
「いや、猫がないなと思ってさ」
「猫、猫というとあの動物の猫のことか?」
「そうそう、俺は猫が好きなんだ、よかったら作ってくれないか?」
「あ、う、えーっと」
急に慌てた様子を見せるキラミは困った様子で頭を掻いていた。
「どうした?」
「猫でいいんだな」
「あぁそうだけど」
「わ、わかった」
そういうと、店の奥の方へと入って行ってしまった。
それからはキラミが再び戻ってくることはなく、俺は暇つぶしがてら店内を散策したり、さっき吟子が鋏から変形させて椅子にしたものを詳しく調べたりとぼーっと過ごしたりしていた。
店内の置かれたシルバーアクセサリーの数々は、アウトロー好みのセンスが光ったものばかりで、俺が依頼した猫のようなかわいらしいものは一つも見当たらない、だからこそ、俺の依頼は予想外で大変なものだっただろうか?
なんてことを考えていると、何やら騒がしい物音とともにキラミが戻ってきた。彼女は少し心配そうな顔をして戻ってきた。
「ま、待たせたな」
「できたのか?」
「す、すまない、いつもより時間がかかった」
「いやいや、大丈夫だ」
「そうだ、気に入ってくれると嬉しい」
「そうか、どれそれ・・・・・・」
そうして見せてくれたのは、何ともいびつな形の猫だった。そんな奇妙な形の猫を前に、俺は思わず口角が上がり笑いがこみあげてきた。
それは、決していびつな形を笑うものではなく、なぜかわからないが、不細工な猫がたまらずかわいく見えてしまったからだ。
そんな世界に一つしかないであろう猫のような形をしたネックレスに俺はもういてもたってもいられなくなった。
「はははっ、いいセンスしてるじゃないかキラミ、めちゃくちゃかわいいぞ」
「そ、そうか?」
「あぁ、これ買うよ、いくらだ?」
「いや、いい」
「え?」
「もらってくれ」
「でもっ」
「いい、褒めてくれたお礼だ」
「おい、本当にいいのか?」
「いいったら、いい」
キラミはこれ以上不要な問答をしたくないといった様子でそっぽを向いた。
「・・・・・・そうか、じゃあありがたく頂戴するな」
「構わない、その代わりまた来てくれ、その時はもっと種類を増やしておく」
「そうか、じゃあまた来るよキラミ、今度はちゃんと買いに来るからさ、今日やらかした礼も込めてな」
「あ、あぁこれからもよろしくお客さん」
「あぁ」
店を出ると待っているといっていたはずの哲心の姿はなく、外は夕焼け空になっていた。
空を見上げると、ガーデン特有のよくわからない飛行物体しか浮かんでおらず、かつて見た生き物達の姿が、やはり感じられなかった。
まるで人間だけが住まう土地にも思える、そのいびつなギフトガーデンの環境に少しさみしさを感じつつ、俺を置いてどこかに行った哲心を気にしながら猫のネックレスを付けて自宅に戻った。
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