第38話 格差バトル
そうして始まろうとしている哲心と月形キラミの一騎打ち、月形キラミの方は堂々とナイフをもち、哲心はいつもの分厚い本を一つ、圧倒的戦力差であるが、哲心はひるむことなく身構えていた。
以前のように何かしらの情報を用いて相手を動揺させた後、すきをついて攻撃するのだろうか。
そんなことを思いながら、ワクワクしながら戦況を眺めていると、突如として哲心が月形キラミに襲い掛かろうとしていた。
どうやら今回はまやかしは用意されておらず、狭い店内で哲心は本でなぐりかかった。
しかしその瞬間、月形キラミは持っているナイフを哲心に向かって投げつけた。
すると、そのナイフは哲心の本に突き刺さり、その衝撃で本は宙に舞い、そして地面に落ちた。
哲心は自慢の武器を失った衝撃だろうか、あまりに卓越したナイフさばきに感動したのか、しばらく静止しており、そんな哲心に月形キラミは持っているナイフを今度は大きなスプーンへと変えた。
あまりに器用で非現実的な行為に見とれていると、その大きなスプーンは哲心の頭に降りかかった。
「ゴンッ」と鈍い音が店内に鳴り響き、哲心は頭を押さえながら痛そうに床を転げまわった。
なんとも情けなく弱々しい姿に、俺はすぐさま哲心を抱えて月形キラミと距離をとった。
「なぁ、哲心」
「な、なんだい、今痛くてそれどころではないんだけど」
「いや、哲心ってあんまり強くないよなって思ってさ」
「言うな、これでも頑張ってる方なんだっ」
これには月形キラミもあきれ顔、もちろん俺もあきれ顔、しかし哲心だけは真剣な表情でこの闘いを真剣に行っている。
しかし、頑張っているというのなら本を床に落とされたくらいでぼーっとするものじゃないだろう。
「なぁ、もう帰ってくれないかお客さん」
「いやだ、帰るものか、お前を倒すまで僕は帰らないっ」
もはや子どものわがまま、俺はそんな哲心のことも心配だったが、今は目の前にいる三等星の月形キラミに首ったけだ。
そう思うと俺は勝手に口が動き出していた。
「あのさ、月形キラミだっけ?」
「そうだが、なんだもう一人のお客さん」
「いや、あんたは空繰なのか?」
「違う、いったいどういう情報でそうなったんだ」
「でも、哲心の話だと、ここには空繰の奴らが出入りしているんだろ?」
「それは、私の作るアクセサリーを好んで買いに来ているだけのお客さんだ」
「なるほど」
「確かに、空繰のことについての話も聞いた、勧誘の話もあった。だが、そんな野蛮なことに興味はないし、一人でアクセサリー作ってる方が楽しい、だから断った」
「そうか、じゃあ空繰とは何ら関係ないってことだ」
「そう、私とあいつらはただの商売相手、それ以上でもそれ以下でもない、ない」
ちゃんとスラスラと弁明する月形キラミ姿に感心しつつ、どうにも怪しいようには見えない彼女に、俺はこっちの勘違いじゃないんだろうかと思えてきた。
「だってよ哲心」
「くっ」
哲心は興奮冷めやらぬ様子でその握った拳を緩めようとしなかった。それどころか、うまくいかなかった腹いせだろうか、貧乏ゆすりをし始めた。
まぁ、結果的に哲心が焦って強行に走ってしまったが故のものだったのだろう。やっぱりこいつは少し心配な奴だ。
「哲心、少し熱くなりすぎだぞ、彼女は悪い奴じゃなさそうじゃないか」
俺の言葉が通じているのか通じていないのかわからないが、哲心はおもむろに立ち上がり頭をかきむしった。
「お、おい、大丈夫か哲心」
「あぁ、大丈夫さ、すこし頭を冷やすことにする、悪かったな月形キラミ、あとルシオも」
「気にするなよ」
哲心は落ち着きを取り戻したのか、冷静になった様子でそういった。すると月形キラミも状況の静まりを感じたのか、ナイフを椅子に変えた。
そして疲れた様子で銀色の椅子に座り込んだ。
何とも奇妙な光景だがこれがここに住むギフテッドやらの能力なのだとしたら、それはもう、今まで生きてきた世界が馬鹿らしく思える程のものだ。
「僕はもう行くよ」
「ちょっと待てお客さん」
ここで慌てた様子で月形キラミが哲心を呼び止めた。
「なんだい、まさか商売の邪魔をしたからって金をまき上げようってんじゃないだろうね?」
「違う、さっきから気になっていたんだが、お客さんはもしかして六巳哲心か?」
「そうだけど?」
「そうか、なら、これから外を出歩くときは気を付けたほうがいい」
「なんの脅しだ、そんな事を言ったら君は本当に空繰の構成員にしか見えなくなってきた、もうひと暴れしていいか?」
「違う、ここに来る客が六巳哲心という名の男の話ばかりしていた、それも物騒な内容ばかりだ」
「それで?」
「冗談じゃない、怖い顔したお客さんたちは本気だった」
「・・・・・・そうか、忠告ありがとう、邪魔した」
そういうと、哲心はふらふらと店を出て行ってしまった。残された俺はというと迷惑をかけたこともあってか少しだけ店内に残ることにした。
「なんかすみませんでした、えーっと月形さん」
「気にするなお客さん、それよりもお客さんはいくつだ?」
「俺、15だけど」
「そうか、こう見えても私は中学2年生だ」
「え、年下っ?」
「そうだ、気を遣わなくていいぞ」
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