第37話 三等星のキラミ
ちなみに、第一地区というのは第六地区に比べれば研究機関やらなんやらの施設ばかりで面白みのない場所であり、セキュリティーも厳重なためそうやすやすと入れる場所じゃないらしい。
つまるところそれぞれのランクごとに特徴ある地区に分かれているらしい。
そして、そんな話をしている間にもどうやら哲心の目的にたどり着いたようだった。
哲心が立ち止まり見上げる看板には「EVE SILVER」とだけ書かれており、なんだかおしゃれな雰囲気漂う店だった。
その店を前にして哲心は少し緊張した面持ちで一つ深呼吸をしたかと思うと意を決したように入店していった。
店の中は少し薄暗く、ガラスケースがいくつも並ぶいかにもアクセサリーショップらしい店内だった。
そしてそんな店の中にあるカウンター、そこに店員らしき女性の姿があり、哲心はそんな彼女のもとへと歩み寄った。
「いらっしゃいませ」
「悪いが僕は客じゃない、お前に用がある」
どうやら導入もくそもないようで、いきなり本題に入る哲心は距離感がままならないのか、女性店員にやたらと近寄っていた。
そしてその距離感に女性店員はすかさず後ずさった。
「私に用、聞いてないな」
「聞いてないじゃない、これ以上お前達の悪事を許すわけにはいかない、ここでおとなしくやられてもらうぞ月形キラミ」
まるで正義のヒーローか名探偵かのような口ぶりの哲心に、悪の親玉のような扱いを受ける月形キラミは、堂々としていた。
銀色の長髪に、キリっとした顔立ち、首や耳には銀色の煌めくアクセサリーが輝いており、第一印象としては、完全にヤンキー女にしか見えなかった。
どうやら、彼女が月形キラミらしい。
名前の割に随分とクールな印象の彼女、一見すれば確かに空繰の主犯格に見えなくもない。
まぁ、そんなことはさておき、哲心の言葉に店内は少しだけ無音が続いた。だが、すぐさま月形キラミが口を開いた。
「何の話だ私は何も悪いことをしていないぞ」
「いいや、お前がここいら一帯の六等星狩りを指示していることはわかっている」
「はぁー?」
「とぼけるなっ」
「とぼけてなんていないし、それはこっちのセリフだ、店に入ってきたかと思えば偉そうな口の利き方、見た所、六等星の様だが一体何の用だ?」
「・・・・・・」
「黙るなよお客さん」
「おい
「なんだ?」
「空繰という名に聞き覚えはあるよな」
「空繰、あぁ聞いたことある」
「じゃあ、僕がここに来た理由もわかっているだろう」
「わからないな」
「なら教えてやろう・・・・・・君は空繰の構成員であり幹部だ、だからこの場でその面つぶさせてもらう」
「はぁ?」
月形キラミは本日二度目となる完全に呆れた様子のため息を吐いた。なんとなくだが、この状況は哲心の勘違いか何かのような気がしてならない。
「違わない、ここに多数の空繰が出入りしているのは調査済みだ」
そうして哲心は身構えた、今にも飛び出していきそうなその細い体はどこか頼りなさげだが、その気は実に充実しているように思えた。
ただそれとは対照的に月形キラミはというと呆れた様子で哲心の質問に答えていた。
いくら哲心だからといってこれほどまくしたてられたら普通の女性ならすこしはおびえたりするものだが、どうにも彼女はただ物ではないらしい。
そんな態度だけを見れば、哲心の言う通り空繰の幹部だとしてもおかしくない様子だが、彼女は様子はそういう類のものとは違うように思えた。
「おい、そんな恰好をして何をするつもりだ」
「何をって、僕たちは空繰に悩まされているからね、一早くその苦しみから解放されるために行動しようと思っているだけさ」
「誰に何を吹き込まれたか知らないが、その上げた拳を下ろしてくれお客さん」
「とぼけるのはもういい、とっとと終わらせよう」
「・・・・・・」
「どうした月形キラミ」
突如黙り込んだ月形キラミは、しばらく考え込んだような間を開けたかと思うと、彼女はそのきれいな綺麗な銀髪を掻き揚げた。
振り上げられた髪の毛は、まるで歌舞伎のワンシーンのように舞い踊り、そして先ほどまでとは違う厳しい顔つきをみせてきた。
「悪いな、こういうのはあまり好みじゃないんだが、お前がそういう事なら話は変わる」
「なんだい、ようやくやる気になったのかい?」
「こう見えても私は三等星だ、お客さんが束になったところで敵う相手じゃない、それくらいはわかるだろう」
「なんだ、脅しかい?」
「そうだ脅しだ、だから早く帰ってもらえると嬉しい」
「そうはいかないな、何しろ君は六等星狩りに加担しているのだからな」
「何を言っているのかさっぱりだなお客さん」
「・・・・・・もういいさっさと終わらせよう」
これはいったいどちらが悪いのだろうか?いや、間違いなく哲心が暴走しているだけだろう。
そう思った俺は今にも飛び出していきそうな哲心の腕をつかんだ。
腕をつかんだところで完全に獲物を狩る体制に入っている哲心はただひたすら月形キラミを見つめていた。
「おい哲心」
「なんだルシオ、邪魔をしないでくれ」
「いや、もう少し落ち着いて話し合ったらどうだ」
「落ち着く?そんな必要はない、なんたって目の前のやつは今にも俺をどうにかしようとしている目をしている、こんな状況で落ち着いていられるものか」
どうやらむこうも話し合いでは解決しないと判断したのか、月形キラミは完全に臨戦態勢へと移行しているように思えた、いや、移行している。
それは彼女の目を見ればわかった、まるですべてを悟り、これから始まる戦いに備える目をしている。
「話が通じないなら仕方がないなお客さん、おとといきやがれっ」
「あぁ、ようやく正体を現したか月形キラミ」
「私のシンボルはシルバー、銀を生み出し銀を操るもの、お客さんには悪いが帰ってもらう」
「これはこれは、ご丁寧に自己紹介までしてくれるのか?」
自己紹介が終えた月形キラミはなにやらむずかしそうな顔をし始めたかと思うと、彼女はどこからともなくその手に銀色に輝くナイフを手一杯に出現させた。
しかも、それらのナイフは妙に装飾が施されており、彼女のこだわりが少しだけ垣間見えたような気がした。
しかし、そんなびっくりするような力を前に俺は心臓がばくばくと跳ね上がり、しまいには月形キラミに駆け寄っていた。
「す、すごい、今どうやったんだ」
「ん、んぁ?」
月形キラミは困った様子を見せたが、そんなことよりも銀色のナイフが気になる。
「どこからともなくナイフが出てきたっ」
「な、なんなんだお客さんは一体」
まるで子ども、しかし、目の前で起こったマジックのような光景に、俺の興奮は収まらなかった。
ただし、そんな俺の行動が哲心の逆鱗に触れたようで、店内には俺の名を呼ぶ声が響き渡った。
「ルシオッ」
「う、うわ、なんだよ哲心?」
「なんだじゃない、今はそんなことはどうでもいいんだ、邪魔をしないでくれっ」
「いや、でもめちゃくちゃかっこいいんだけど」
「何の話をしてるんだ、黙っていてくれっ」
「いや、でも」
「いいからっ」
「あ、はい・・・・・・」
反省しながらとぼとぼともといた場所へと戻っていると、月形キラミが何やら物思いにふけった様子でナイフをなでていた。
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