第30話 バイオレンスな文学系

 放課後、俺は昨日のことと、クルリの情報もあってか、哲心のことが気がかりで仕方なかった。

 それはもちろん、哲心が危ないことに首を突っ込んでいることもあるし、何より、あいつのたった一人でいる姿にどこか惹かれたというのもある。


 そう思っていたら、俺はいつの間にか哲心のあとをつけているというクルリまがい、いやストーカーまがいの行為に出ていた。

 ちなみに、クルリはあれだけ哲心のことを機にかけていた割に、どういうわけか放課後すぐに教室を飛び出して行ってしまった。

 

 そして、毎日のように行われている特別授業はすっぽかした。


 舞子先生はこの状況にさぞかし怒っているだろうが、俺はどうしても哲心のことが気になって仕方なかった。

 何より、あいつがまた喧嘩を狩っていたりしないだろうかと心配だった。


 そんな、心配心と共に哲心をつけること数分、彼は本でも読んでいるのか、頭をうなだれながら歩いていた。

 その姿は非常に危なっかしく、何人かの人とぶつかりながら歩いている姿が見受けられた。


 そんな様子から、哲心が喧嘩ばかりの生活をおくっているのが少しわかったような気がした。

 そして、経験上、嫌な予感というものはすぐに当たるもので、哲心はガラの悪い連中に肩をぶつけた。


 もちろん、そんな出来事にガラの悪いやつらが素通りするわけもなく、哲心はすぐに絡まれた。

 そうしたところで、ようやく顔を上げた哲心は、ガラの悪い連中とにらみ合いを決めた。


 まるで、喧嘩の前の儀式のようなものを済ませた哲心と、ガラの悪い連中は、お決まりといったところだろうか、哲心が連れられるような形で路地裏の方へとその姿を消していった。


 俺もすぐさまそのあとをつけて路地裏へと侵入すると、すぐに騒がしい物音が聞こえてきた。

 もうすでに喧嘩が始まっているものかと、少しはや足で現場にたどり着くと、そこでは哲心がたった一人だけだ立っており、先ほどのガラの悪い連中は床でのびていた。 

 

 ただ、一人で立つ哲心はどこかボロボロで立っているのもやっと、という状態だった。

 しかし、ボロボロといえど数的不利を覆して立っている哲心の姿は勇敢で俺はすかさず彼に歩み寄った。


「哲心」


 俺が声をかけると、哲心は急いでふりかえった。だが、俺の顔を認識してくれたのか、すぐに安心した顔を見せた。


「なんだルシオか」


「まーた、喧嘩してるのか」


「そうだ、こいつらは空繰だったからね」


「なぁ、空繰ってのは一体何なんだ?」


「昨日も話したような気がするけど、空繰は六等星狩りをする集団さ、まぁ簡単に言えばチンピラ集団だ。

 基本的に六等星のギフテッドばかりを狙い、金銭目的やストレス発散目的で悪行を働いている、僕はそいつらを根絶やしにするためにこうしている」


「哲心一人でか?」


「そうだ、僕意外にこんな事する奴はいない」


「なんでそんなことをするんだ?」


「僕達六等星はここじゃ最弱、いくら腕っぷしに自信があったとしてもシンボルギフトを前になす術はない」


「でもお前はこいつらを倒したんだろ」


「これは経験が為した結果だ、ここにいるやつらは五等星だったからね、まだまともに力を使いこなせていない」


「そうなのか、でも、そんなことばっかりしてたらダメだ」


「どういう意味?」


「ほら、やっぱお前みたいなやつは、すぐに目を付けられてリンチとかされるし、下手に乱暴するのはよくないってことだよ」


「もうされている」


「いや、その程度じゃなくて本格的にさ」


 そうだ、いくら哲心が見かけによらず腕が立つといっても、それを気に食わないやつらが手段を選ばずつぶしに来ることは簡単に予想がつく、その上いくら強い奴でも囲まれたら一瞬だ。


「なんと言われようと、こんな事をやめられるわけがない、僕はやつらが許せないんだ」


「許せないのはいいけど、下手すりゃ、なぁ・・・・・・」


 死ぬぞなんてことは言えず、察してくれと意思表示してみると、哲心は揺らぐことのない瞳で俺を見つめてきた。


「承知の上さ、生半可な覚悟でこんなことやってない」


「・・・・・・」


 どこまでの修羅場をくくりぬけてきたのか、あるいはまだ知らないからこそのその揺らぐことのない心を持っているのか、そのどちらかはわからないが、哲心には、まぎれもなく強い意志が備わっていた。


「なぁ、なんでそこまでこだわるんだ」


「それを君に話す義理はない、じゃあねルシオ」


「え、ちょ、哲心?」


 哲心は、そう言い残し、次なる空繰でも探しに行こうとしているのか、足早に俺の元から立ち去った。

 だが、俺はそんな哲心の後を再びつけた、そう、俺はさらに六巳哲心という男が気になって仕方なくなっていたのだ。

 

 そうして、つけた先で哲心はまた喧嘩をしており、今度は三人相手にボロボロになりながらようやく立っている状態で見つけた。先ほどと似たような状況の中、俺は再び哲心に声をかけてみることにした。


「哲心」


「な、なんだまた君か」


 今にも倒れそうな哲心に肩を貸してやると、簡単に身を預けてきた。


 この様子だと相当苦労したみたいだ。まぁ無理もないだろう、三人相手にこの大立ち回りもはや驚くべき状況だけに、俺は少しだけ楽しくなっていた。


「また喧嘩してたのか」


「あぁ、そうだ」


「大丈夫か哲心」


「この通り元気はつらつだ」


「ふらふらで何言ってんだよ、そうだ、これから俺とどっかに」


「悪いが、僕にはやるべきことがあるんだ」


 あっさりと断ってきた哲心は、俺から離れてフラフラとどこかへ行こうとしていた。


「大丈夫か?」


「大丈夫だよ、じゃあ」


「あぁ、またな」


 二度あることは三度ある、俺は再び哲心の後をつけていると、やはりそこでは喧嘩に明け暮れる哲心の姿があった。

 ただ、今回ばかりは哲心が立っていることはなく地面に寝そべった状態で見つけた。


「哲心~」


「・・・・・・」


 寝そべった状態の哲心は顔だけを俺に向けてくれた。


「元気でやってるか哲心」


「ルシオ、君は僕をからかっているのか?」


「何が?」


「さっきも会ったばかりだろう」


「そうだったか?」


「そうだ、何が目的なんだい?」


「いやぁ、お前が心配でさ」


「心配?」


「そうだよ、ああいうやつらと喧嘩ばっかりしてるといつか本当に痛い目にあうと思ってさ」


「そんなことはわかってる、だがそれと君がここにいるのはどう関係してるんだい」


「だから、心配でつい見に来ちゃうんだって言ってるだろ」


「そんなもの、君に心配される義理はない」


「義理はなくてもさ、やっぱりお前が心配だよ」


「どうして、君は僕を心配するんだ?」


「だって、お前いい奴なのにそんな奴が馬鹿な奴らにつぶされたら嫌だろ」


「・・・・・・いい奴?」


「お前いい奴だよ、たった一人で馬鹿な奴ら相手に体張って、しかもたった一人でだぞ、そんなもんほっとけるわけねぇだろ」


「だとしてもだ、君まで僕の個人的な理由にまきこむわけにはいかない、だからもう僕に構わないでくれないか」


「ふっ、ふふっ」


「何がおかしいんだい」


「いや、お前やっぱいい奴だよ、そうやって俺を巻き込まねぇようにしてる」


「違う、そう意味じゃない僕はただ個人的な問題を個人的に解決しようとしているだけで、そこに君が介入してくる必要性はないというだけ・・・・・・」


 哲心は何かを言いかけてやめた。


「ん、どうした?」


「どうやら君の予想が的中したようだ」


 そうして哲心はゆっくりと立ち上がり俺の後方を見据えるような目で何かを見ていて、俺はすぐさま振り返った。


「よぉ、ここいらで暴れまわってるやつがいるって聞いたら、お前らか?」

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