第26話 六等星狩り

「あれは、向こうから突っかかってきたんだよ」


「そうっすか、なんかルーシーってチンピラぽいっすからそういうことするのかと思ってたっす」


「な、なに言ってんだよ、俺はチンピラじゃない」


「そうなんすか?」


「そうだよ、まったく思い出したくもないこと思い出しちまった」


「ルーシー、ちびっこ相手にいともたやすく倒されてましたもんね」


「いやあれは、なんかふらついたんだよ」


「でも中々滑稽でしたよ、高校生が小学生に倒されるというのは」


「ここじゃ年齢ってのは関係ないんだろ」


「そうっすよ」


「だったら、高校生の俺が小学生レベルで、あの生意気な小学生が高校生レベルだってことだ、つまり俺は上級生にいじめられたといっても過言ではない、あいつはきっと、とんでもない奴だったんだ」


「なんかよくわかんないっすけど、まぁいいっすよ」


「あぁ」


「そうだルーシー、バッジホルダーのついでに、もう一つ気を付けてほしいのがいるんすけど、聞きますか?」


「なんだ?」


「それが、ここ最近巷を騒がせているとんでもない奴の噂っす」


 そういうと、クルリは周りを見渡し、俺に体を寄せてきた。どうやらあまり大きな声で言えないことらしい。


「教えてくれ、知っといた方が穏便に過ごせそうだ」


「おやじ狩りならぬ、ろくでなし狩り、つまり私たちの様な六等星を狩ってる人がいるらしいっす」


「狩るって、穏やかじゃないな」


「まぁ、よくわかんないっすけど、いじめみたいなもんっすね」


「ここでもそんなのがあるのか?」


「まぁ、あたしたちだけに限った話とは思いますけど、少なからずどこにでもそういうものは存在しますよね」


「で、そいつはどんな奴なんだ」


「なんでも、細身で眼鏡をかけた理系男子らしいっすよ、あくまで見た目だけっすけど」


「一人か?」


「一人っす」


「細身で眼鏡の理系男子、そいつが俺らみたいな六等星を狩ってるってのか?」


「はい、だから気を付けてくださいっす、ルーシーみたいな人は狙われやすいそうですから」


「どういう意味だよ」


「チンピラみたいで生意気そうに見えるからっす」


「いや、だから俺はっ」


 そう声に挙げた途端、教室が静まり返った。原因はもちろん俺が声を上げたせいだと思われる。そして、俺の周りでは、緊張した面持ちのクラスメートたちがじっと俺を見つめてきていた。


 入学式から数日たった今でも、目の前にいるクルリとしか会話できていないことから、もとよりクラスメートたちとは相いれない感じだったが、この出来事によりその溝はさらに深くなったような気がした。


 そして、そんな俺をあざ笑うかのようにクルリが笑った顔を寄せてきた。


「これはチンピラから、極道さんにでも格上げしそうっすね」


「あのな、俺はただの一般人なんだ、だからそういう人たちと一緒にしてもらっちゃ困る」


「でも、クラスメートがみんなそう言ってるんすよ、ヤンキーだって」


「えっ?」


「根も葉もないうわさっていうのは怖いもんすね、あたしはルーシーがそういう人じゃないと思ってますけど、何も知らない人にしたらルーシーは相当やばいやつに見えるんじゃないっすか?」


「なぁ、それってマジで言ってんのか?」


「何がっすか?」


「その、ヤンキーとかいうの」


「アウトローっていうのはいつだってブームになるみたいですから」


「なんてブームだ、とんでもない」


「いやぁ、ルーシーも災難っすね、たぶんその目つきのせいだとは思うっすけど」


「くそっ、俺は絶対静かに平和的に過ごすって決めてるんだ」


「そうなんすか?」


「そうだ、そしたらそのうち俺に対する偏見もなくなるだろ、そしてゆくゆくは友達がたくさんできて、いろんなところに遊びに出かけたりして普通の学生生活ってやつを送るんだよ」


「そうっすね、そうなるといいっすね」


 応援してくれているような発言をしたクルリだったが、どことなくその笑顔が俺の平和的生活の妨げになりそうな予感がしてならなかった。


 だが、変な噂をされているにもかかわらず俺と一緒にいてくれているクルリはとってもいいやつだ。 


 そんな、クルリがいてくれるおかげで何とか楽しめている学園生活。


 基本的に俺が元居た場所と大差なく、一般教養的授業と、体育や芸術といった授業で構成されている。

 これじゃ、いくらここが超能力者が集められた場所だといわれても全然実感がわかないというか、周りの連中もほとんど普通の奴らにしか言えなかった。


 ただ、そんな今までと変わりないような日常でも、舞子先生との授業の間だけは少し違った。

 舞子先生から教わる内容は、現実離れしたものばかりで、とても楽しく時間を忘れるほどのものだった。

 

 自分でもびっくりするくらい疑問がわいてきて、自然と質問したり、そしてそれに答えてくれる舞子先生、まさにこれが理想の授業ってやつなんじゃないだろうかと思えるようなだった。


 まぁ、たまに呆れるようなことを言い出したりするけど、それでも舞子先生のおかげでギフトガーデンの事やその他に関することを学べたのは本当に感謝している。


 そして、そんな楽しい居残り授業が終わると下校になるのだが、決して帰宅するわけではなく、ここ最近は町をぶらついてから帰るという習慣がついている。


 一人でブラブラするだけだから何ら楽しいことはないが、それでも目新しい建物やら文化などなどが俺を刺激してくれる。

 つい最近で言うと、ギフトガーデンではツチノコを見つけるのが流行ってるとかなんとか。


 まるで一昔前の文化がこんなところに流れてきているのか、はたまた歴史が繰り返されているだけなのか、とにかく俺がいたところとは大分かけ離れた世界になっているようだった。


 まぁ、それ以外は特に変わったところもないが、町の中にはやたらと「衛星さん」と呼ばれる治安維持活動をする人たちが徘徊しており、治安維持に躍起になっている様子がうかがえた。


 そしてそれら配備された「衛星さん」達は見事にその存在意義を示すかのようにあらゆる場所を忙しそうに駆け回っていたりした。


 そう、なんとなくだが、この街は騒がしく刺激的な場所のようだ。まぁ、そんなことはさておき、ガーデン散策だ。


 そもそも、この散策を始めたのはもちろんこの場所のことをもっと知りたいということもあるが、何よりも家に帰ると幸子がいるというのがちょっとした原因でもある。


 いくらガーデンに来た初日から仲良くしてもらってるとはいえ、同年代でしかも美少女が家にいる。

 これは思春期真っ盛りの俺にとっては嬉しくもありちょっとした試練である、だからこそ俺は町中をぶらつき、少しでも時間をつぶせないかと画策している。


 運の良いことに幸子は外に出るのがあまりすきじゃないようで、外で彼女と鉢合わせになることはない。 

 まぁ、客観的にみればあれだけの美少女が妙になついてくれるのだから、すぐにでも家に帰ればいいじゃないかと思われるかもしれない。


 だが、女性という生き物に関して、あまりいい思い出のない俺にとっては、いくら恩のある幸子であったとしても、ほいほいと自らの欲望をさらけ出せないのだ。

 あとは、なんとなくいえにかえると幸子の面倒を見なきゃいけないような気がするっていう気持ちもあった。

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