第25話 お弁当とバッジと
ギフトガーデンにやってきてから、もう数日がたとうとしていた頃、相も変わらず幸子と不思議な隣人関係を築いていた。
彼女は、ことあるごとに俺のところに訪れては、一緒に食事したり、放課後の特別授業で二人並んで舞子先生の授業を受けていたりした。
不思議なもので、会ったときから嫌な気はしなかったし、一緒にいてもそれほど苦にならない。
だが、このおかしな関係性の中で、俺はちょっとした不審点を見つけた。それは俺は幸子と一緒に登下校したことがないということだ。
なんだそんなことか、と思われるかもしれないが、幸子は基本的に俺の家にいることが多いし、特別授業の時だけなら一緒にいる。
だが、決まって幸子は登下校の際になると、俺のもとから姿を消す。まるで俺との関係を周りに隠しているかのような状況だ。
そんな、さながら幽霊少女と出会ってしまったかに思える存在を俺は少しだけ奇妙に思っていた。
そして、俺の元から突然いなくなる理由が分からず、俺はいつの間にか幸子のことを考えながら、クルリと教室内で二人昼食を取っていた。
クルリは相変わらず大量のピンバッジを制服に付けており、その姿はもはや新一年生とは思えない出で立ちだった。
そんな彼女は、菓子パンをかじりながら俺の弁当に釘付けになっており、口に含んでいたパンを飲み込むと、突然しゃべりだした。
「ルーシー」
「な、なんだよ?」
「ルーシーって弁当作れるんすね」
「これくらいは朝飯前だな、ほら、早起きは三文の徳っていうだろ、俺は縁起の良い言葉は好きなんだ、なんたって幸せになれるような気がするからな」
「へぇー、そんなことよりうまそうっすね」
「そんなことって、おまえなぁ」
「いやぁ、それにしてもうまそうっすね」
うまそうと連呼する並の顔はどこか物欲しげな表情であり、それは間違いなく俺の弁当の「おかずをくれ」と言って見えた。
だが、当人の口から欲しいという言葉を言われるまで、大切な食料を渡す理由がない俺はそれとなく探りを入れることにした。
「何が言いたいんだ?」
「美味そうだからくださいっす」
両手を差出し、くれくれポーズをするクルリはその生まれ持った愛らしい容姿を有効活用して見せた。
「正直だな」
「食べたいっす食べたいっす、くださいください」
正直すぎる返答に思わずあっけにとられたが、これだけ素直に求められればもうあげない選択肢はない。いや、むしろ好感すら抱くこの純粋さは非常に愛らしい。
「そうか、じゃあ選べ好きなものをやる」
「え、いいんすかっ」
「あぁ」
「じゃあその美味そうな唐揚げをくださいっす」
「そこも正直なんだな」
「え、どういう意味っすか?」
「なんでもない、ほら」
「わーい、唐揚げっすー」
そう言うと並は俺の弁当箱に中でメインとなるおかずの唐揚げを一つ取り上げ、口の中に放り込んだ。
頬に両手を当てながら、美味しそうに咀嚼する彼女は、今にもおちようとするほっぺたを両手でおさえているようで、見てるこっちまでが幸せな気分になった。
「どうだ?」
「うまいっす、肉なんて半年ぶりっす」
「肉が半年ぶりってお前どんな生活してんだよ」
「そうなんすけど、ここ最近は出費がかさんで菓子パンしか食えない生活なんすよ、これでもいい方っすよぉ」
「一体、何に金を使ってるんだ」
「そりゃもうおしゃれっす」
「おしゃれって、まさかそのバッジじゃないだろうな?」
「そうっすよ、これがたまらないんすよ」
そういって見せつけるように胸を張る並のピンバッジに目をやると、可愛いキャラものから、なんだかよくわからないものまで。
そしてなかなかカッコイイものまで、多種多様にそろっており、なんならそのままピンバッジ販売でもしたら儲かりそうなほどそろっていた。
「へぇー、まぁ悪くはないよな、これなんか特にいい」
俺はクルリの胸元についているセクシーなポーズをしたねこのバッジを指さした。
「あぁ、これは「ワイルドキャット」と言って、一等星の方がつけているもののレプリカっす」
「レプリカ、そんなのも売ってるのか?」
「そりゃもう、あたしにしたら格上達はみんなヒーローみたいなもんですから、ファンならみんな持ってますよ」
「へぇ」
「しかしルーシーはえらくかわいいのが好きなんすね」
「べ、別にいいだろどんなものが好きでも」
「いいっすけど、そういえばルーシーはバッジの事についはもう知ってるんすか?」
「あぁ、もちろんだ、特別授業で舞子先生から教わったからな。えーっと、シンボルを見つけたやつらは、その証にみんなバッジを付けるんだろ」
そう、舞子先生の授業を真剣に受けているからこそのこの知識、ただ、最近は授業というよりも幸子による俺へのちょっかいが気になって集中できていないというのが実際のところだ。
何しろ舞子先生は話に夢中だから幸子は注意をされることもなく絶好調で好き勝手やりやがる無法地帯とかしている。
それこそ最近の事なんてのは頭に入っていないわけであり、バッジをつけてる人がいるってことぐらいまでが授業での最後の記憶のような気がする。
「そうっす、だからバッジをつけてる人が居たらなるべく喧嘩を吹っ掛けない事っすね、あたしたち六等星が格上に喧嘩なんて売ったりしたら一瞬でぼこぼこにされちゃいますからね・・・・・・ってルーシーはもう喧嘩吹っ掛けてましたね、ずいぶんと年下に」
そういうとクルリは思い出し笑いをし始めた。その様子が俺を小ばかにしているようで、少しだけ腹が立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます