第23話 救世主「犬養クルリ」
そんな邪悪な裏の顔も知らず、目の前の警察官らしき女性は俺に詰め寄ってきて、腕をつかんできた。
「ちょっとついてきなさい、話は向こうで聞きます」
「いや、ちょっと本当に何もしてないんで、話せることなんてないです」
「往生際が悪いわね、さっさとついてきなさい」
「いや、だから何にもしてないんですって」
そんな言葉が誰に届くこともなく、怒った顔の警察官らしき女性と周りからの冷たい視線にあざ笑うかのような笑顔。
そして、まるで計画通りとでも言いたげなウソ泣き小学生。まさに四面楚歌で絶対絶望的状況の中俺の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
今日はよく人から声をかけてもらえるものだと思いつつ声がする方へと目を向けると、そこには犬飼クルリがニコニコ笑顔で立っていた。そんな彼女の登場は、まさしく救世主いや、天使のように思えた。
「こんちゃっすルーシー」
「クルリ」
「なんだか大変そうっすねルーシー」
「そうなんだ助けてくれクルリ、俺は無罪だ」
何もしてないのに助けてとはおかしな話であるが、今にも連行されそうな俺の様子をひとしきり眺めたクルリは、ようやく俺の元へとやってきてくれた。
すると警察官らしき女性は不審げにクルリを見つめ、クルリはというと堂々とした様子で女性の前に立った。
「ちょっといいですか衛星さん」
「な、なんですかあなたは?」
「衛星さん、あたし見てたっすけど、この人は何もしてないっすよ」
「見ていた?」
「その人、何もしてないっすよ」
「いやしかし、彼はどう見ても・・・・・・」
どう見ても何なんだろうか、その先の言葉がきになったが、その言葉が口にされることなく「衛星」と呼ばれる女性は、ただひたすら俺の体を上から下まで品定めするかのようにみてきた。
「人は見かけじゃないっすよ、それにさっきの小学生は逃げて行っちゃいましたよ」
「へ?」
「本当に小学生は逃げ足が速いっすよね、私も小さい頃はああやっていろいろなものから逃げてましたねぇ」
「え、嘘?」
俺をからかってきた小学生はピンチになるのに気付いたのか、一目散に逃げて行く背中が見えた。
そして、そんな状況にガードと呼ばれる女性は戸惑いながらその場であたふたしていた。
「衛星さんならすぐにわかると思うんすけど、あたしらは六等星っす、いくら年下とはいえ格上の「上等星」に手を出せないっすよ、それなのに真っ先にこっちを疑うんすか?」
「そ、それは」
「この人は上等星にいいように遊ばれたんすよ、衛星さんならわかってくれると思ってるんですけど、どうっすか?」
「・・・・・・」
それからはクルリは衛星と呼んでいた人としばらく立ち話をしていると、衛星と呼ばれた女性が突然俺のもとまで来て頭を下げてきた。
どうやら誤解は解けたようで、謝る衛星さんの背後ではクルリが満面の笑みでピースをしていた。
こんなにも頼りになる知り合いを持ったことを非常にうれしく思っていると、謝っていた衛星さんは申し訳なさそうな顔で敬礼したかと思うと、逃げるように俺の元から去っていった。
そんな、まさにどこかのヒーローに助けられたかのような展開に俺はすかさずクルリに駆け寄った。
「いやぁ、ルーシーも災難すね」
「災難も災難だよ、小学生に絡まれたかと思ったらわけわかんねぇ風が吹くし、おまけに警察みたいな人に絡まれるしなんなんだあれは」
「お姉さんのほうは「衛星さん」と呼ばれるギフトガーデンの治安維持活動をしてる人たちっすよ、まぁ大陸でいうところの警察みたいなもんすね」
「警察か、いい思い出はないな・・・・・・」
「衛星さんは基本的にガーデン全体の治安維持っす、そして衛星さんに所属している人達は、あたしたちのような学生も所属しています」
「学生が警察をやってるのか?」
「そうっすよ、なんたってここは超能力者ギフテッドの箱庭、治安維持する側の人間もギフテッドじゃないと太刀打ちできないっす」
「なるほど」
「あと、小学生に関していえば、ここはランクがものをいう世界なんすから、いくら年下だろうが、彼らのほうが私達よりも力が上で権力も上なんすよ、だからルーシーが絡まれたのも仕方ないってことっすね」
「俺はてっきりギフテッドってのはもっと仲睦まじく暮らしてるのかと思った、意外とシビアな所だなここは」
「普段は仲睦まじいと思うんですけど、あたしたち六等星は例外っていうか、結構悲惨な身分なんすよ」
「六等星ってだけでそんなに扱いに差が生じるのか?」
「まぁ、それでも優しくなったらしいっすよ、前はもっとひどかったらしいっすから」
「ふーん、それで入学式の時に人権がないとかなんとか言ってたのか?」
「六等星の人間はめったに街を出歩かないっす、街に出れば「ろくでなし」と馬鹿にされ、あらゆる悪意の対象になりますからね」
「それで学ランの奴が少ないのか?」
「そうっす、年下にいいように扱われるのも中々辛いところがありますからね、まぁ人によっちゃ年下の言いなりになっちゃう面白い人もいるみたいっすけど」
「そ、そうか」
そんな変な奴にはなれそうもないが、ともかくこのギフトガーデンとやらは俺が元いた世界と大して変わらん治安らしい、いくら色んなものが発達していたとしても、人間の本質的部分はそう簡単に変わることはないのかもしれない。
「物好きもいるもんすよ、特にかわいらしい女の子はたくさん手下を抱えていますねぇ」
「なんなんだそれは」
「さぁ、男気ってやつじゃないっすかねぇ、知らないっすけど」
「そんな男気は聞いたことがない、けどクルリ、お前はそんな状況下でもここにいるんだな」
「あぁ、あたしは明るく楽しい街のほうが好きっすからね、家にいるより街のほうが好きっす」
「こういっちゃなんだが、お前は大丈夫なのか、俺みたいに絡まれたりしないのか?」
「えっと、こう見えてもあたしはそこそこ可愛いらしいっすから、あんまり狙われないっすよ」
「・・・・・・」
まぁ、確かにかわいらしいっちゃかわいらしいが、可愛い女とか一番危険なんじゃないだろうか?
「なんすかその無言は」
「いや、逆じゃないかと思って」
「逆?」
「いや、可愛い方が絡まれやすくないか?」
「そうでもないっすよ、みんな優しくしてくれます」
「そうか?」
「そうっす、この間もお菓子くれたっす」
いやしかし、前いたところじゃかわいい女がいれば、そいつを奪い合うためにグループ同士のいさかいがあったり、バンダナチェックシャツ集団が、第三者的に割り込んできたりと。
女関連は絶えず争いごとの火種になることが多いと思ったが、ここいらじゃそういうこともないんだろうか?
「そうか、まぁいろいろ助かったよクルリ、ありがとな」
「いえいえっす」
「じゃあ俺は飯食いに行くから、またな」
「あれ、ルーシー今からランチっすか?」
「そうだけど」
「じゃあ、いいところを紹介しましょうか?」
「え、教えてくれるのか?」
「もちろんっす」
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