第22話 ギフテッド散策
すこし不機嫌な様子を見せたように見える幸子、彼女が帰った後、俺は昼食を食べに行くため学園を後にした。
学園出て街に向かうと、入学式が重なっていたのだろうか、多くの学生たちが俺同様にぞろぞろと歩き回っていた。
その多くは学ランを着ている奴なんてのは俺くらいだということにすぐに気付いた。
まるで場違いとも思える状況の中、俺は人目を気にしながら、どこかに良い店がないかと探していると、ふと目の前に、小学生くらいの背丈でランドセルを背負った小学生男子が駆け寄ってきた。
少し癖のあるやわらかそうな金髪、そして、端正な顔立ちと白い肌した少年はまるで西洋で言うところの天使に近い容姿だった。
しかし、ランドセルの色だけで小学生男児といったが、よくよく見れば女子に見えなくもない、いや、もしかすると、彼女と呼ぶべきなのかもしれない。
そんな、あいまいで美しい顔立ちの小学生は、何故かあちこちがぼろぼろで小汚い恰好をしていた。
せっかくの美形が台無しといったところだが、これはこれでどこか芸術的なものに見えなくもない、そんな思いを巡らせていると、近づいてきた小学生は俺にむかって指さし、口を開いた。
「ろくでなしだ、ろくでなしがいる」
「は?」
「おい、なんでろくでなしがここにいるんだよっ」
「何言ってるかわからないけど、なんか用か?」
「用はないけど、なんでフランクがこんなところにいるんだって聞いてるんだよっ」
ずいぶんと横暴な喋りに顔が引きつりそうになったが、何とか耐え忍び、無理にでも笑顔を作りながら心を落ち着けた。
そう、相手は小学生だ、高校生になった俺がこんなガキンチョ相手にいらだつなんて事あっちゃいけない。
「お、俺はここにいちゃダメなのかい?」
「だめに決まってるだろ、お前みたいなギフテッドの恥が平然とこの街を歩くなんてありえないことなんだぞっ」
「恥?」
まさか、小学生男子と思われる奴に喧嘩を吹っ掛けられるとは思わなかった。
ここは本当に世界で最も進んだ国なんだろうか、いや進んでいるのは科学技術やら文化やらそんなもんで、人間性はほとんど進んでない、むしろ退化していたりしてるんじゃないだろうか。
そう思いながら、とんでもないところにきてしまったと後悔していると、目の前の小学生が怒鳴り声を上げた。
「おい、聞いてんのかろくでなしっ」
「なんだよ急に」
「だから、お前みたいなろくでなしは家の中でじっとしてろっ」
「俺は昼飯を食いに行くだけだ、そうだ、どこかいい所を知らないか、できればサンドウィッチがいい、肉が挟まってる奴がおいしいらしいんだ」
「うるせー、知らねぇよそんなこと、それよりも家に帰れよっ」
「・・・・・・」
どうやらこいつは俺を犬か何かだとでも思っているのだろう。いきなり他人に家に帰れよとか言われて帰る奴がいるか?
「そうかそうか、知らないのか、じゃあまたな小学生」
「なっ、おい、ふざけるな、そんな態度でいいと思ってんのか、俺はこれでも優秀なギフテッドなんだぞ、お前なんか簡単にぶっ飛ばせるんだぞっ」
「あのな、優秀だか何だか知らねぇけど、今はそんなこと関係ないだろ、俺は腹が減ってんだ、邪魔しないでくれ」
「お前、ろくでなしのくせにずいぶんと偉そうだな」
「だから、偉そうとかそういう問題じゃないって言ってる・・・・・・って?」
随分と面倒くさい絡みをしてくると思っていた直後、俺は、いつの間にか空を見上げていることに気付いた。
何が起こったのかわからない状況の中、空だけはどこにいても変わらないようで見知った青空と大きな雲が流れる風景を眺めていると、その視界に先ほどの小学生がにやついた顔を覗き込ませてきた。
子どもだからか、その笑顔に嫌味は感じられなかったが、だが、さっきから面倒くさい絡みからこいつは間違いなく悪意の含んだ笑顔を向けていることが何となく分かった。
「ふふん、どうだ、これ以上痛い目にあいたくなかったら俺の下僕になれ、そして俺の言うことを聞け」
「・・・・・・」
小学生は俺の胸に足をのせて、ぐりぐりといたぶってきた。
どっかいけといった割に突然の下僕スカウト、こりゃ最近の子どもは何考えてるかわからないとはよく言ったものだ。
俺も大概そういう風に言われてきたけど、俺より年下の子どもがこれなんだからこれから先の新時代は恐ろしいものになるだろうな。
「おい、聞いてんのか、下僕になるのかって聞いてるんだよ、まぁ、ならないっていうならまた痛い目にあってもらうだけだけどな」
「なぁ、なんでお前の下僕にならなきゃいけないんだ」
「それは・・・・・・あっ、そうだお前みたいな弱いろくでなし、俺のように強いギフテッドに仕えるのがお似合いだからだよ、ここじゃみんなそうしてる、もしそれが嫌ならとっととおうちに帰って」
「そうか、わかった」
「え、下僕になってくれるのかっ」
「ちがう」
「えっ?」
俺はすかさず小学生の足をつかみ、バランスを崩させると小学生はすぐにしりもちをついた。
そしてしりもちをついた隙を逃さず、俺はすかさず小学生を逆さづりにして持ち上げた。
すると小学生は「わーわー」わめきながらじたばたしていた、こりゃいい獲物が釣れたものだと、半ば釣りにでも成功した気分になった。
「はっはっは、お前みたいな生意気なガキには、これがお似合いだな、どうだ楽しいだろう?遊びに付き合ってやる」
「何をする離せろくでなし、痛い目にあいたいのかバカ」
「いつまでも偉そうだなお前、礼儀ってのを知らないのか?」
「うるせー、離せー」
そうして、生意気な男子小学生にお仕置きと仕返しが入り混じった教育を行おうとしていると、突如として女性の声が響き渡った。
それは俺が小学生男児を逆さづりにしているという、卑劣な行為に悲鳴しているものではなく「コラッ」とまるで俺をたしなめるかのようなそんな声だった。
そんな声に顔を向けると、俺のもとに一人の女性が歩み寄ってきていた。
彼女は警察官のような制服を身にまとい、腕には腕章をつけていた。なんというか、いかにも何かを取り締まっているかのような人の登場に俺の心臓はバクバクと高鳴った。
「ちょっとあなた、何をしてるんですか?」
「あ、いやこれは」
「早くその子を下ろしなさいっ」
俺はすかさず小学生を下ろしてやると、小学生は警察官らしき女性に泣きついた。
「うえーん、このバカが突然乱暴してきたんだよー」
「なにぃっ」
さっきとはまるで違う態度にいらだちを覚えていると警察官らしき女性が俺をにらみつけてきた。その目は確実に俺を悪者として認識している目だった。
「あ、いや違うんですそいつが俺に喧嘩吹っ掛けてきて、おいお前、さっきと全然キャラが違うだろっ」
「何を言ってるんですか、小学生が高校生に喧嘩売るわけないでしょ」
そりゃそうだ、小学生が高校生に喧嘩売るなんてことそうそうありゃしない、俺はまんまとこの小学生にしてやられたのかもしれない。
「いや、売ってきたような気がするんです・・・・・・」
「ほら、見てごらんなさい、この子は泣いてるじゃない」
すると、警察官らしき女性が見てないところで、泣くふりをした小学生が、乾いた瞳をいやらしくにやつかせた。
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