第20話 特別授業「ギフテッドについて」2

 そういって舞子先生が黒板に描いたのは誰もが目にしたことがあるであろうリンゴという果実だった。


「リンゴです」


「はいその通り、これがシンボルです」


「は?」


「難しい話じゃありませんよ、例えばこのリンゴ、つまり、リンゴのシンボルを身に宿している方はこのシンボルを用いた超能力を発揮することができるんです」


「つ、つまり、どういうことですか?」


「そうですね、一つ例をあげるとすれば、このシンボルを身に宿したギフテッドはリンゴを生み出すことができます」


「は?」


 自分でも「は?」とばかり言って馬鹿みたいとは思ったが、この状況下で、しかもこんな意味不明な言葉を連発する相手に、俺はこの反応しか返せなかった。


 むしろこんな説明をされて「うんうん」「なるほど」なんて言える奴はよほどのバカかよほどの天才だろう、あるいは漫画やアニメの読みすぎ。


 そして、俺はそのどれでもないということで普通の人間、突然変異型ギフテッドとかいうキメラなんかじゃない、そう信じたい。


「そのままの意味ですよ、つまりリンゴのシンボルを持つ人はリンゴを自在に操ることができる能力者ですから、生み出したリンゴを投げちゃってもいいですよ、食べちゃってもいいですよ、力自慢ならつぶしちゃってもいいですよ、とまぁ、そういう感じです」


「そんな感じって」


「そんな感じですからそんな感じなんです」


「まるで、マジシャンですね」


「そうですね、マジシャンのようなものですね」


「そ、そうですねって、そんな小手先の存在じゃないでしょ?」


「勿論です、マジシャンは実在するリンゴをうまく隠して、それを上手く取り出すわけであって、本当に何もないところからリンゴを生み出すことはできませんよね」


「それは、それが普通だとおもうんですけど」


「はい、でもそれができるのがギフテッドです、そして、ここに住むギフテッドの方々は、みなさんシンボルを宿していて、そのシンボルにちなんだ能力を扱えるようになるため、日々勉強と訓練をしているんですよ」


「じゃあ、そのシンボルっていうのはギフテッドなら誰しも持ってるもんなんですか」


「そうですよ、ただし、ちゃんとシンボルを見つけなければなりません」


「なるほど」


 大体のことはわかった、だが、おとぎ話のような世界に、なかなかどうしてのめりこむことが出来ないのはどうしてだろうか、実際に超能力を見たら一気にのめりこめるものだろうか?


「そして、そんな先天性だと思われていたギフテッドという人種の中に、高校生にして突然ギフテッドとして目覚めたという、突然変異型のルシオ君が現れたということは、ギフトガーデンいえ、全世界、全宇宙に渡るほどの衝撃であり、私たちは総力を挙げてあなたを・・・・・・」


「せ、先生っ」


 またもや俺を辱めるかのような発言に、すかさず横やりを入れると、先生はピタッと動きを止めて咳ばらいを一つした。


「コホン、そうですね、先に述べたようにギフテッドとなったルシオ君が、まずやらなければならないのは自らのシンボルを見つけることです」


「見つけるって、どういう風にですか?」


「具体的な方法はありませんが、ギフテッドにはかつての人類とは大幅に違う能力が備わっているので、日常の中で発見することもあります、何か心当たりはありませんか?」


「そうですね「お前はおかしい」と言われたことは何回かありますが、超能力的なおかしさは見覚えがないですね」


「そうですか、でしたらルシオ君はこれからどんな些細なことでも気にして過ごしていくことをお勧めします、なんてことないものが、自らのシンボルだったというのも珍しくありません」


「はぇー」


「はい、でも簡単に見つけてくださいと言いましたが、これが意外と大変なんですよ」


「え、大変なんですか?」


「えぇ、1を生み出すのは大変なことです。あ、ちなみにルシオ君が所属している六根学園の人たちは、みんなシンボルを見つけることを目的としたクラスですよ」


「なので、ルシオ君もあせらずじっくり能力を開花させてください、みなさんルシオ君と同じで「シンボルギフト」を秘めた素晴らしい人材たちばかりです」


「素晴らしい人材ねぇ・・・・・・」


 やっぱり実感がない、これもすべて入学式のその日に、いきなり連れてこられた上に実際に超能力を使えることが出来ないからだろうが、いずれ実感できる日が来るのだろうか。


 いや、大丈夫だ、ポジティブに考えよう。


「では、次に個人差について話します」


「個人差っていうと、ランク付けの事ですか?」


「そうです、ここギフトガーデンでは基本的に一等星から六等星までの格付けがされています、この格付は年に数度行われる能力テストによって決まることになっています、所謂格付けチェックですね」


「それって、ここの入国審査的な奴みたいなもんですか?」


「いいえ、あれはギフテッドとしての能力があるかどうかを確かめるためのテストです、そうですね、せっかくだからそのことも説明しましょうか」


「はい」


「ギフテッドと一般人では決定的なに違いあります。まぁ、その辺りは機密事項なのですが、この違いはルシオ君にだってわかるほど違います」


「へぇ」


「そして、それがギフテッドの基本的判断基準となります。ですから、今では大陸のあらゆる場所にギフテッド測定装置が配置されていて、生まれてきた時点でギフテッドかどうかわかるようになっていたりします」


「生まれた時点で?」


「基本的にギフテッドは先天性と言われています、なのでギフテッドだとわかった赤ちゃんは、親元を離れてすぐにでもここへとやってくることになります」


「親元を離れる。なんか強引ですね、せめて親も一緒にここに来ればいいじゃないですか」


「そうですね、でも完全に離ればなれというわけでもないのでギフテッドの方は基本的に家族と良い関係を保てていますよ」


「そんなもんなんですか?」


「そんなもんです、では次に個人差について話しますよ」


 そうして舞子先生が次なる言葉を発しようとしていると、突如として教室の扉が開かれた。

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