第19話 特別授業「ギフテッドについて」1

入学式から赤沢先生のよびだしを食らった俺は、特別授業とやらを受けるためにとある教室へと向かっていた。


 教室にたどり着くと、中では舞子先生が手を振りながら出迎えてくれた。


「いらっしゃいませルシオ君」


「おはございます舞子先生」


「はい、舞子先生ですよ、そして今日からルシオ君の特別授業を受け持つ事になりました。よろしくお願いします」


「舞子先生が俺の特別授業を教えてくれるんですか?」


「そうですよ」


 最後に会った時に比べてずいぶんと笑顔を取り戻していたようだが、俺は知っている。

 そう、この人は間違いなく何かをやらかし教師らしからぬ存在だ、そして、それらの思いは言葉となってすぐに口から飛び出した。


「あの、赤沢先生」


「なんだ猫宮?」


「ちょっとだけ不安なんですけど」


「不安とはどういうことだ?」


「いや、舞子先生ってちょっとあれじゃないですか、ほら、どこか抜けてるというか、空気が読めないっていうか」


 俺の言葉に赤沢先生はどこか納得した様子で何度かうなづいた。


「あぁ、それについては大丈夫だ、彼女は教師としての能力はちゃんと備わっている、それにお前の特別教育には、彼女のようなのがピッタリなんだ、まぁ人間としてはまだまだ未熟だがな」


「そうですか」


「そんなに心配することじゃない、彼女も同じ人間だ」


 ちょっとした不安を赤沢先生に告げた後、再び舞子先生に目を向けると、彼女は頬を膨らませ、まるでぷんすかおこっているような様子をみせていた。なるほどこれが教師か。


「ルシオ君」


「なんですか?」


 舞子先生に目を向けると、彼女は少し怒った表情をしていた。


「私はこれでもれっきとした教師なんですから、ギフテッドの事はちゃんと教えられるんですよっ」


「町の案内もろくにできないのに?」


 嫌味ったらしくそういうと、舞子先生はうろたえた。


「えっ、あっ、あれは仕方がないというか、どうしようもないというか、とにかくルシオ君、早く席に着きなさいっ」


「は、はい」


 そんな、ちょっとしたやり取りの後、俺をこの教室まで連れてきてくれた赤沢先生は、舞子先生に頭を下げた後、俺をじろりとにらみつけて教室を出て行った。


 俺が一体何をしたというのだろう、あんなにもにらまれる理由がわからない。


 しかし、思い起こせば、これまでに教師という生き物に、ああいう目をされたのは今回が初めてじゃない、慣れたものだとはいい難いが、何度も見たことのある目だ。


 まぁ、昔を思い出してネガティブになるのも趣味じゃない、これから始まる特別授業とやらを受けるべく気合を入れて黒板に目を向けようとしよう。

 そして、ちょうどそんなとき、隣にもう一つ席があるのに気付いた。これについて何の説明もないことから俺は自然と舞子先生に質問していた。


「先生、机がもう一つあるんですけど、もう一人来るんですか?」


「あぁ、気にしないでください、それに特別授業はルシオ君だけですよ、なんたってあなたはギフトガーデン設立以降、初めての後天性ギフテッドなんですから」


 またおかしな言い方を、もういい加減よしてくれないだろうか。


「そう言う呼称はどうなんですか?」


「どうとはどういうことですか?」


「いや、なんか悪いイメージがあるというか、なんというか」


「そんなことありません、きわめて特殊な例ですから、むしろ良いイメージでしかありません」


「そうですか?」


「そうですよ、では、さっそく授業を始めましょう」


 そうして舞子先生は咳ばらいを一つしたあと、喋り始めた。


「まず、このギフトガーデンにおける「ギフテッド」というのは、簡単に言うと超能力者の事です。彼らは普通では考えられない、超自然的な能力を宿し生まれてきます。

 そして、それらの超能力のことをここでは主に『シンボルギフト』と呼びます」


「シンボルギフト?」


「はい、我々ギフトガーデンはそんなシンボルギフトを秘めた子どもたちを保護し、育成するために作られ、多くのギフテッド達が生活する世界を作り上げ、今に至るというわけですね」


「それはすごい壮大な話ですね」


「えぇ、しかも今では「この世で最も魅力的な場所」だなんて称号もいただいていますし、観光に訪れる方もたくさんいるんですよ」


「え、ここって観光地なんですか」


「えぇ、ギフトガーデンを見に来る方はたくさんいますよ、そりゃもうこの世で最も魅力的な場所ですから」


「へぇ」


 確かに、未来都市のモデルみたいな感じがあるからそういった点では遊園地的な感じで来る人も多いかもしれないし、なによりそこら中に超能力者がいるってのは、そこらの遊園地よりもすごいと思うが。


 ただ、その肝心の超能力者というやつを、あまり目にしていないのが少し気がかりだ。


「まぁ、そんなことはさておき、説明に戻りますよ」


「はい」


「シンボルギフトというのは、自らに秘められたシンボルを用いて、超能力を発揮するものだということをしっかりと覚えていてください、そしてギフテッドとして才能をもって生まれて来た者は、まずこのシンボルを見つけることが第一目標となるのです」


「え、あの、舞子先生?」


「なんですか?」


「いや、先生が言うところのシンボルを見つけるのが第一目標なのはわかったんですけど、シンボルって例えばどんなもんですか?」


「んー、そうですね、じゃあルシオ君にはこれは何に見えますか?」

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