第18話 入学式とアイドルとファンの一人 2
そんな、タイミングの良い注意の後で今度は壇上で笑い声が響いた。
何事かと思いすぐに目を向けると、そこでは髪の毛も髭の毛もたっぷり蓄えた白毛の爺さんが立っていた。
爺さんは何がそんなにおかしいのかわからないが、とにかくしばらく笑い続けた後、まるで何かを思い出したかのように話し始めた。
どうやら、くじらちゃんとやらの話は終わっていて、爺さんの話になっていたらしい。
次から次へと現れる面白い人々に俺はどちらかというと後者のほうが気になり、隣のピンバッジの女子生徒にあの爺さんについて尋ねることにした。これもすべて後天性ギフテッドなんて言葉をさえぎるためだ。
「な、なぁ、今度のあれは誰ですか」
「え、あれは長老っす」
「長老?」
「ギフトガーデンの象徴、というより顔役ですかね?」
「へぇ」
「長老は、ここを始まりに、これからいろんな場所に入学式のお祝いをしに行
くんですよ」
「いろんな場所?」
「はい、ここのほかにも学校はありますからあいさつ回りって所ですよ」
「でも、今から行くにせよ、ほかの場所には間に合うんですか?」
「そんなのはあれで一発っすよ」
「あれ?」
そうして指差した先にはいつの間にか大きな鳥がいた。
鳥は長老のもとまでとんでいくと器用に長老の肩をつかんだ、そして、講堂の天井から物音がし始めたかと思うと、天井が徐々に開き、晴天の空が頭上に現れんとしていた。
こんなオープンカーのような機能は、この長老とかいう人のためにあるとしか思えず、俺はこの場所の桁違いのスケールに見上げた顔をおろすことができなくなった。
そして、視界の端っこから、先ほどまでこの場所で話していた長老とやらが鳥に連れられ、あっという間にどこか遠くへ飛んでいってしまった。
何とも滑稽な姿だったが、まるでファンタジーの世界にでもやってきたかのような光景に俺はおどろきを隠すことができなかった。
「うおー、すげー」
驚きのあまり大きな声をあげ、思わず口をふさいであたりを見渡すと、周りではまるで何事かといった様子で人々の視線が集まっており、俺はすぐに身を縮めた。
周りの様子からして、今の光景は見慣れたものらしく、俺は少し恥ずかしい思いをしながらバッジの女子生徒に目をやると、彼女もまた大多数と同じ顔をしていた。
「ちょっと、声がでかいっすよ」
「わ、悪い、でも飛んでったんですけど、しかも鳥に運ばれて」
「長老はいつもあんな感じっすよ、どこからともなく現れては、笑って飛んでいきますよ」
「く、狂ってる・・・・・・」
「いつもの事っすけど」
「いつもの事?」
「はい、っていうか、くじらちゃんのこともそうっすけど、なんか変っすねあなた」
「まぁ、ここに来たばっかりで、ここのことよく知らないんですよ、だからいろいろ困惑してて」
「ここに来たばかり?」
「まぁ、厳密にいえば数日前に強制的に連行されてきたって感じで、ははは」
軽いカミングアウトを済ませたところで、講堂には大きな拍手が鳴り響き、入学式の終わりを告げていた。
入学式も終わり、再び教室へと戻る道中、なぜか俺の後ろをひょこひょことついてくる女子生徒は何という運命か、俺と同じクラスだった。
クラスに戻ると担任の先生が「赤沢
ホームルームが終了すると、自己紹介やらなんやらしている間、俺のことをじっと見つめていたピンバッジの女子生徒こと、
「おんなじクラスっすね」
「猫宮ルシオと言います」
「猫宮ルシオ、顔に似合わずかわいらしい名前っすよねぇ」
「顔はともかく、猫がついてるからか?」
「いえいえ、ルシオってのもかなりかわいいっす」
「そうか?」
「はい、というわけで、あなたの事はこれからルーシーって呼んでもいいっすか?」
「別にいいけど」
「堅苦しいのは嫌なので気楽にいきましょう気楽に」
「・・・・・・そうか、じゃあよろしくなクルリ」
「はいっ」
俺はクルリと握手を交わした、相変わらず女子というものは柔らかいことに定評があるもので、もちろんクルリの手も柔らかく、このまましばらく握っていたいと思えるほどだった。
そんな、まるで変態のような俺は、名残惜しげに手を離すと、突如として教室内に大きな声が響き渡った。
それは、先ほどまで教壇で喋っていた赤沢先生の声であり、俺はすぐにそんな声のする方へと目を向けた。すると、赤沢先生は俺の方をじっと見つめながら手をこまねいていた。
「猫宮、ちょっとこっちこーい」
嫌な予感がする呼び出し、こういう時図らずとも心臓が跳ね上がるのを何とかしたいものだ。
「せっかくの入学式で友達作りのところ悪いが、おまえは今日から授業だっ」
「えっ、今日からですか?」
「そうだ、お前のための特別授業だ」
「特別授業?」
「あぁ、お前はここの教育をまともに受けていないからな、だからつべこべ言わずについて来い」
「え、ちょっと」
「いいから来い、舞子先生が待っている」
「ま、舞子先生?」
思わぬ出来事、というやつはもはや俺の日常として考えなければならない、そう思いながらしぶしぶ赤沢先生についていくことにした。
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