第17話 入学式とアイドルとファンの一人
なるほど、遅刻してきたら誰にも引き止められることないのか。ならば、これから毎日遅刻していけば、あの人に会わなくてもいいって事になるんだろうか?
なんてことを考えていると入学式が始まった。
式が始まると、すぐに始まる長々とした話と、ちょうどいい沈黙が俺の眠気を誘発した。そんな、ちょうどいい子守歌のような雑音に、うとうとしていた時、突如として構内がざわめきたった。
何事かと思って顔を上げると、壇上に立つ中年男性が大きな声で「静粛に」という声を上げて構内はすぐに静かになった。静かになったところで壇上に立つ中年男性が再び声を上げた。
「えー、もう一度、新入生挨拶、新入生代表、
そんな呼び声とともに「はいっ」という、綺麗な女性の声がこだました。
すると、ただの返事にもかかわらず講堂内は再びざわめき立った。ざわついた雰囲気の中、壇上に現れたのは絶世の美女といっても過言ではない、美しい女子生徒だった。
誰もが見とれるんじゃないだろうか、そう思えるほど美しい女性の登場に、周りの人々は感嘆の声を上げながら彼女の姿に釘付けになっているようだった。
そして、それを確認した俺もすぐに彼女の姿にくぎ付けになった。
もちろん絶世の美女とは言ってもただ美しいわけではなく、かわいさも兼ね備えた女性に思えた。
見事なまでの拍手喝采に沸く構内は、まるで大人気アーティストのコンサートのような熱気であり、俺は開いた口がふさがらなくなった、ただ、入学式にこの喧騒は良いのだろうか?
「いやー、やっぱ、くじらちゃんはかわいいっすねぇ」
拍手喝さいの中、突如としてそんな言葉が聞こえてきた。
もちろんそんな言葉を聞き逃さなかった俺は、すぐにその発言者に目を向けると、そこには先ほどのバッジの女子生徒が必死に拍手していた。
「ぐす、最高っす、眼福っす、地球に生まれてよかったっす・・・・・・これだけで、このつまらない文化に付き合う価値があったって思えます」
確かにきれいな人ではあるが、涙ぐみながら拍手するものかと思い、思わず口をはさみたくなった。
「な、泣くほどですか?」
思わず飛び出た言葉、その言葉がバッジの彼女に届いたようで、彼女はゆっくりと顔を向けてきた。キョトンとした様子でありながら、まるで宇宙人でも見るかのような、そんな驚愕に満ちた目だった。
「い、今、なんていいました?」
「いや泣くほどうれしいのかと思って」
「うれしいに決まってるじゃないっすかっ、くじらちゃんっすよ、くじらちゃん、あのくじらちゃんが今目の前にいるんすよっ」
「あ、あぁ」
つばをピッピピッピと飛び散らせながら話すバッジの女子生徒は、先ほどとは違い、ものすごいハイテンションだった。
「えっと、それはそんなに嬉しいことなんですか?」
「当たり前っすよ、あなた、くじらちゃんを知らないんすか?」
「いや、たしかに可愛いってのはわかりますけど、そんなにすごい人なんですか?」
「・・・・・・あなた、本当に人間っすか?」
バッジの女子生徒は、そういうと目を細めて俺から距離をとった。
「に、人間だっ」
そうだ、後天性ギフテッドとかそういう化け物みたいな者じゃない、俺は人間、だからそんな目で俺を見るな。
「だったら、なおのこと知ってるはずです、くじらちゃんはギフトガーデン、いえ、世界、いえ、銀河に名をとどろかせるギャラクシーアイドルっすよ」
「ぎゃ、ギャラクシー?」
「ギャラクシーアイドル、要するに天使っす」
「天使?」
「そうっす、くじらちゃんは「六等星」もとい「六根学園」の希望っす、くじらちゃんがいるおかげで六等星はまだ人権を保っていられるんすよ、感謝して崇拝すべきなんです」
「人権って、そんなの誰にでもあるじゃないですか、一応」
「何言ってるんすか、無いに決まってるじゃないっすか」
何やらため息交じりにそういう彼女は、うんざりとした様子だった。しかし、俺の認識ではこのギフトガーデンという場所は選ばれたものしか入ることのできない進んだ場所のはず。
そんなところで人権すら軽視されているっていうのは少しおかしな気がした。
「いやいや、ここにいるギフテッドって人のほうがよっぽど人権があるんじゃないですか、ほら、超能力が使えるし」
「何言ってんすか、六等星に人権なんてほぼないといってもいいっすよ」
「そうなのか?」
「はい、まぁ「大陸」の人に比べたらあるかもしれないっすけど、それでも六等星としてここにいるってことは、それはそれで辛いことなんすよ?」
「大陸に比べたら・・・・・・へぇ」
「はい、でもくじらちゃんは、ギフテッドとしては六等星すけど、アイドルとしては超一流の一等星、いえ、彼女の人を魅了する力は神に匹敵するともいわれるほどと言われてるっす」
「まぁ、あんだけキラキラしてるやつに魅了されないやつはいないかもしれないですね」
「そうなんすよ、くじらちゃんは本当に可愛いんですよ」
ずいぶんと熱心に語るピンバッジの女子生徒は、うんうん頷きながら満足そうに首を縦に振っていた。しかし、そんなとき、まるで何かに気づいたように目を細め、俺に顔を寄せてきた。
「それにしても、こんな誰もが知っているであろう事を知らないあなたは、いったい何者っすか?」
「え、いや、俺はここの事にあんまり詳しくなくて」
「詳しくないってどういう事っすか、もしかしてあなたは噂のっ」
もはや二度と聞きたくない言葉が飛び出しそうなその時、「静粛にっ」という声が響き渡った。
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