第16話 入学式
大変な一日を終えた後、入学案内を参考に六根学園の入学における準備と、ギフトガーデンでの生活の足元を固めることに心血を注いだ。
平穏な日常と共にかなり集中して行われた準備は、あっという間に入学式の日を迎える事になった。
ギフトガーデンにやってきて間もないというのに、あっという間に入学式の日を迎えるというのもあわただしいというか、いろいろと大変だったが、充実しているように思えた。
そう思いながら洗面台の鏡に映る自分の顔と向かい合いながら、身だしな身を整えた。
体にフィットする学ランはまるで一心同体のような着心地であり、思わず口元が緩んだ。そうして、しっかりと身だしなみを整えた俺は、ワクワクとした心で玄関を出た。
さぁ、せっかくの入学式だから隣人の幸子と一緒に登校でもしようかと思ったのだが、あいにく彼女はもうとっくの前に家を出ているようで、呼び鈴を押しても出てくれなかった。
まぁ、俺同様に入学前から制服に身を包んでいるんだから、彼女も待ちきれなかったんだろう。
そうして、一人寂しく通学路を歩き、六根学園へと辿りついた。
これから俺は、この学園で高校生としての生活を満喫する。中学のころとは違い、清潔感のあふれるとても良い雰囲気の学園を前に、なまじ場違い感を感じつつも、真面目に生きていればいいこともある。
そんなポジティブシンキングで、いざ校門をまたぐと、今の今まで抱いていた前向きな気持ちを吹き飛ばすかのように、一人の女子生徒が俺の前に立ちはだかった。
黒髪ロングのスレンダーな彼女は、長身の体を存分に生かした仁王立ちで俺をにらみつけていた。
「おいお前」
目の前に立つ女子生徒は俺のことをじっと見つめており彼女の言う「お前」というのが俺に向けられているものだとわかった。
しかも、彼女はずいぶんと険しい顔をしているようだが、何か怒らせるようなことでもしただろうか?
「お、俺?」
「そう、お前だお前」
「あの、何ですか?」
「新入生だっていうのに、その恰好はいったい何だ?」
よく通る声が鳴り響く校門で、俺の周りを通り過ぎていく人々はクスクスと笑っていた。だが、そんなことはお構いなしといった様子で、その声はつづけた。
「いいか、いくらここが六等星の六根学園だからといって、やさぐれてはいけないんだ、わかるか?」
「えっと、別にやさぐれてるわけじゃなくて」
「じゃあ、その制服の乱れはなんだ?」
どうやら衣服の乱れについて怒っているらしい。たしかに学ランの上着をろくに着る事もなく、おまけに改造して羽織りやすいように鎖をつけたのがまずかったのかもしれない。
「いや、これは、ほら制服ってなんかこう「あぁっ」って感じになるからそれを防ぐために羽織ってたんです」
「なんだ、その「あぁっ」っていうのは、つべこべ言わずに早くなおせ」
「でも、ちゃんと着ると「あぁっ」てなるんですけど」
「いいからなおせ、衣服の乱れは心の乱れだっ」
「は、はい」
渋々制服の乱れを治すと、やはり俺の心の内側から「もやもや」としたものが沸き上がってくるのが分かった。
もちろんそれは先ほどから言っている「あぁっ」の正体なのだが、その気持ちをわかってくれない目の前の彼女はつんとした表情の人は、まだ満足いかないのか、俺の首元に手を伸ばしてきた。
「ほら、こうしてちゃーんと上までとめるっ」
「え、あの」
まるで首を絞められているかのような苦しさに、いつの日かエミリが苦しそうな顔をしながら着物を着ているときのことを思い出した。
あいつもこんな気分だったのだろうか・・・・・・
「良し、これで格好良くなった、あぁ、とても格好いいぞ」
「そ、そうですか?」
「あぁ、似合っているぞ新入生」
そう言って俺の肩をぽんとたたいたその人は笑顔だった。そんな笑顔の検問を抜けることができた俺は、せっかくつけてもらったボタンを外した。
そうして首元を緩ませたところで、もしかすると先ほどの人がやってくるかもしれないと心配したが、彼女は俺に背を向けて仁王立ちという姿で俺にはまるで気付いていない様子だった。
そんな様子に安心しつつ、俺は掲示板に掲載されているクラス表をもとに一年三組の教室へと向かった。教室内はみな知った顔ばかりなのか、仲良さげに話している様子が見受けられた。
そして、中には俺の姿をじろじろと見てきては、ひそひそと話す様子も見受けられた。
彼らは俺の事を見て「後天性ギフテッド」だなんて言葉を発してないかが不安にだったが、そんなことよりも俺には気になることがあった。
それは、まるで今日がハロウィンか何かと勘違いするような、目を引く光景だった。一見普通の人には見えるが、頭にピョコピョコ二つの耳、そして、まるで自分の意志を持っているかのような尻尾がフリフリフリ。
人と動物が合体したかのような容姿をする彼女は教室にたった一人で座っており、どこか緊張した様子であたりをきょろきょろと見渡していた。
彼女もまた、俺同様に居心地の悪さでも感じているのかと、しばらく見つめていると、彼女と目が合ってしまった。
見つめあう事数秒、彼女は目をそらした。
何とも奇妙ではあるが、とてもかわいらしい、こんな人がここにはいるのかと、新世界ぶりに感激していると、突然教室内に大声が鳴り響いた。
「おーい、入学式が始まるから、講堂に集まれ」
教師と思われる男性が現れそんなことを叫んだ、すると、教室にいたクラスメートたちはぞろぞろと教室の外に出た。
俺は頃合いをみはからって最後に教室を出ると、相変わらず前方では楽し気な聞こえてきており、なんだかさみしくなった。
まぁ、一人には慣れているが、こうも幸せそうな声ばかり聞いていると、つい、そんなことを思ってしまう。
講堂に辿りつくと大量のパイプ椅子と多くの人たちであふれかえっており、指定されたエリアのパイプいすに腰を下ろすと、次第に講堂内が静まりかえった。
そうして今にも入学式が始まりそうな時、遅れてやってきたであろう女子生徒が俺の隣に豪快に座り込んできた。
パイプ椅子ががたがたと音を鳴らし、周囲の生徒たちはいっせいに遅れてきた生徒に視線を向けた。だがまるで何事もなかったかのようにすぐに目をそらしていた。
しかし、俺はというとその女性生徒から目を離すことができずにいた。
何しろその女子生徒は制服を着くずし、おまけに制服には数多のピンバッジがつけられていた。
それは、間違いなく校門でよびとめられるはずの存在であるが、彼女は堂々とここにいる。
俺は入学式で引っかかったというのに、どうして彼女は検問にひっかからず、しかもこんなオリジナリティあふれる格好をしていれるのだろうか。
そんな疑問を感じながらバッジの女子生徒を見つめていると、彼女は俺の視線に気づいたのか顔を向けてきた。
「ん、なんすか?」
まるで、かわいらしいアニメキャラのような声でそう言った彼女は、首をかしげながら俺をじっと見つめてきていた。
「い、いや、そんな恰好で来て、検問で引っかかりませんでしたか?」
「検問ってなんすか?」
「いや、やたらときっちりとした人が校門に立ってませんでした?」
「んー、あたしが来たときは校門には誰もいなかったっすよ」
「へ、へぇ」
「あっ、あたしは遅刻しちゃったので、それで大丈夫だったのかもしれません、てへへ」
バッジの女子生徒は恥ずかしそうに頭を掻きながらまぶしい位の笑顔を見せた。
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