第12話 ポジティブシンキング
部屋を出ると、先ほどまで降っていたはずの雨が止み、視界には晴天が広がっていた。
しかし、雨が降り太陽が照り付けたせいであたりはとてつもない湿気が支配していて気分はよくなかった。
そして、それは舞子先生も感じているのか、だらしない声を上げながら俺の前を歩いていた。
やはり、舞子先生は教師らしく見えない。
六根学園へと向かう途中、マンションのエレベーターがめちゃくちゃ早かったのと、今度は迷子にならないためと舞子先生が俺の手をつないでくるなど、何やら驚くことばかりが起こりつつ、俺はようやく目的地である六根学園へとたどり着いた。
「つきました、ここが六根学園です」
六根学園、それは大きな建物だった。俺が通っていた中学なんかよりもはるかに大きなその学校を前に、俺は開いた口が塞がらなかった。そして、なによりも俺には気になっていた事があった。
「す、すごいっすね」
「そうですよ、六根学園は良い学園なんですよ」
「えぇ、なんたってカラスがいないっすもんね」
「え?」
そう、六根学園は非常に日当たりがよく、きれいで、そして何よりカラスがいない。
前に通っていた中学ではびっくりするぐらいカラスが集まり、まるでカラスの巣窟ともよばれた中学だった事もあって、今目の前にある六根学園はまるで天国のような場所に思えた。
「いや、カラスがいないんですよ、めちゃくちゃいい所じゃないですか」
「か、カラスですか?」
「はい、いや、そういえばここに来てからカラスとかあんまり見てないな、やっぱりガーデンっていうだけあって、そういう害鳥とかはいないんですか?」
「カラスはいますよ」
「え、どこに?」
「いえ、今はいませんけどここには普通にカラスはいますよ」
「そうなんですか、いやでも、学校にカラスがいないだけでこんなにも晴れやかな場所になるんですね、とても気分がいいですよ」
「あのぉ、ルシオくんはいったいどんな学校に通っていたんですか?」
「いやぁ、もうあいつら人の食いもん奪ってきたり、糞を落としてきたりするんですよ、しかも何もしてないのに石ころ落としてきたり、その仕返しに石を投げ返したりすると、大群で仕返ししてきたり、もう大変でしたよ」
「あの、同調を求められても困りますし、ずいぶんと大変な思いをされたんですね」
「はい、けど、それに比べてここは最高ですよ、見るからに環境が良くて、いい所だってすぐにわかります」
「そうですか、まぁとりあえず、ルシオくんはこれからはここで学校生活を送ることになります、新学期からよろしくお願いしますね」
「こんな場所なら喜んで授業を受けますよ」
「そ、そうですか、では私はこれで、学校が始まったらよろしくお願いしますね」
「・・・・・・・え?」
まさか、こんなところで案内が終わってしまうものかと気の抜けた返事をすると、舞子先生は笑顔だったものの、額には汗をにじませ、そして小さく乾いた笑い声をもらしていた。
かと思えば、突然何かを思い出したかのように手のひらを拳でポンと叩いた。もうわざとらしいを通り越し、俺に嫌がらせでもしているんじゃないかと思える行動に思わず顔が引きつった。
「あ、あー、えーっと私用事を思い出しちゃいましてぇ」
「用事?」
「本当ですよ、だって私先生ですから、いろいろやらなきゃいけないことがあるんです」
あやしい、明らかに挙動がおかしいし、笑顔だってとてつもなくぎこちない。
そして、彼女は尋常じゃなく汗をかいている。汗に関していえば基本属性ステータスなのかもしれないが、とにかく舞子先生は嘘をついているようにしか思えなかった。
「先生っ」
俺は相手が先生とわかっていながらもすこし声を荒げると、彼女は体を跳ね上げおびえるような目で俺を見つめてきた。
「な、なんですかっ?」
「まさか、また俺を一人にするかもしれないと思って案内をやめるわけじゃないですよね?」
「にゃにいってるんですか、本当に用事なんです、先生は意外と忙しいんですよぉ」
「本当にそうなんですか」
「そ、そうですそうです、それでは入学式の日に会いましょう、ではー」
「あっ」
そういうと、何もないところで躓きつつ、舞子先生は一目散に学内へと入っていった。
その後ろ姿がなんとも頼りなく、一体全体どうしてこんな人が俺の案内役として任命されたのかがとても気になった。
しかし、こうなってしまえば、俺はもう一人でギフトガーデンを探索しなければならないという、なんとも時間のかかる行為にうつらなければならない。
せっかく世話人という名の舞子先生を用意してもらったが、終始天手古舞な感じで落ち着きがなかった。
今度、四方教授に会えることがあればもっといい人紹介してもらうように言っておいた方がいいだろうか?
ただ、あくまでも平和的で、かつポジティブシンキングを念頭に置く俺としては、先生という忙しい身分で学校まで案内してくれただけでもましという結論に至った。
そんな少しでも物事を良い方向へと考える癖がすっかり身についた俺は、六根学園を後にすることにした。
だが、その瞬間、俺の耳にどこからともなく聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ルシオ」
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