第11話 すけこまルシオ
そんな、不思議な女子生徒とのめぐりあわせに疑問を抱きつつ、なんとも落ち着かない空間となっている自宅を感じていると、インターフォンのベルが鳴り響いた。
その音に、まるで救いの手でも差し伸べられたような気分になった俺は、すぐさま玄関へと向かった。
「は、はーい」
心持ちテンション高く玄関を開けると、そこには息を切らした舞子先生が立っていた。
髪を乱し、眼鏡をずり落としている舞子教諭は、俺の顔をじっと見つめたかと思うと、涙目になって頭を下げてきた。
「ごべんなざい、ルシオ君っ」
そういえば、この人を探す任務を放棄していたな、っていうか泣きながら現れるとは。
「あ、いや、こっちこそ先生のことを探さずに、勝手に寮にきてしまってすみません」
「本当に、すびばせんでしたぁっ」
「あ、あの、もういいですから泣き止んでくださいよ」
しかし、俺の言葉を耳に入れることなく舞子教諭は泣き続けた。挙句、酔っぱらった中年オヤジのように俺の足に抱き着き、泣きわめき始めた。
まるで教師とは思えぬ行動と言動の数々に、俺はただ黙って、泣きながら謝り続ける先生の謝罪を聞き続けた。
しかし、いつまでも玄関前で女に泣きつかれているのもどうかと思い、俺は舞子教諭を室内へと招き入れた。
部屋の中には初対面の女性二人、こいつはなんとも妙な光景。
傍から見ればただの連れ込み上手のナンパ野郎、こんな事では俺の人生どうにかなってしまう。
そう思い、なるべく二人の女性に近づかないように距離をとった。
だが、距離をとったところで部屋に入れているから、その時点でいろいろアウトな気もするが、そこはもうどうしようもないことだから仕方がないとしよう。
そして、すんなり家の中に入った舞子先生は、相も変わらず泣きながらヨロヨロとリビングをにたどり着くと、フローリングの上で寝転がる幸子を見つけたのか、先生は大きな声を上げた。
「あらぁ?、八舞さんどうしてあなたがここにいるのですかぁ?」
舞子先生は、そういいながら不思議そうに幸子の周りをくるくると回り歩いていた。
まるで何かを発見した興味津々の犬のようで、少しかわいらしくも見えたが、幸子からしたらうっとしいほかにないと思えた。
「あれ、知り合いですか舞子先生?」
「えぇ、彼女はうちの学園の生徒ですよ、ねぇ八舞さん」
そんな舞子先生の登場と、その一言に気づいた様子の幸子は突然立ち上がったかと思うと「さよなら先生」と言ってお辞儀をした。
そして、まるで逃げるように玄関を飛び出していった。
先ほどまでの無気力な状態はどこへ行ったのやら、突然の機敏な動きに俺は驚き、玄関が閉まる音とともに、俺と舞子先生は顔を見合わせた。そんな状況に、先生もまた俺同様に驚いた様子を見せていた。
すると、舞子先生はすぐに口を開いた。
「ルシオ君、一つ聞いてもいいですか?」
「はい、何ですか?」
「彼女はどうしてここに?」
「えっと、彼女を助けて、道案内してもらって、今に至るわけですけど」
「そうですか、しかし、あの八舞さんがルシオ君をここまで案内ですか」
「はい」
何やら意味ありげな言い方、まるで幸子が道案内なんてしてくれない面倒くさがりのような口ぶりだ、いや、あり得るか。
「そうですか、そうですか」
「それよりも先生、道案内するとか言って俺置いてどっか行くとかどうなんですか、もしかしてスパルタ教育とか言うやつですか?熱血教師ですか?」
「はっ、違うんです、ついうっかりなんです」
「うっかり?」
うっかりという言葉を口にすると同時に自らの頭を小突いて見せた舞子先生は、教師には見えなかった。
「うっかりで消えてもらったら困るんですけど」
「ごめんなさい」
「まぁ、ここにたどり着けたからいいですけど」
「そ、そうですね、じゃあ自宅の位置もわかったことですし、次は学校の案内をしましょうっ」
まるで自らの失態をかき消すかのように、次なる提案をした舞子先生は汗だくだった。この調子だとまた失踪しかねない、そう思った俺はくぎを刺す意味も込めて一言言っておくことにした。
「あの舞子先生」
「なんですか?」
「今度は置いてけぼりにしないでください」
疑いを含んだ目で舞子先生を見つめると、先生はどぎまぎとした様子で苦笑いした。この苦笑いが再び失踪するフラグではないことを祈るばかりだ。
「も、もちろんですよ、大丈夫ですよ、これでも一応教師なんですよぉ」
「教師?」
「な、なんですかルシオ君、私はちゃんと教員免許を持っているんですよ、教員免許っ」
「免許ねぇ」
なんだか、よくわからない意地を張り出した舞子先生は、鼻息荒く教員免許という言葉を連呼した。
まぁ、教員免許を持っているだけいいことではあるだろう、とにもかくにも、舞子先生もいろいろ大変なこともあるのだろうと思った俺は先生のことを許すことにした。
「信用します舞子先生、俺は舞子先生についていきますよ」
「も、もちろんですよ、先生についてきなさい」
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