第8話 舞子先生と迷子
なんてことを考えつつ俺は空を見上げた、さっきまで晴れていたにもかかわらずこの分厚い雲と降り注ぐ雨、見慣れた光景だ。
だが、そんな俺とは裏腹に隣にいた舞子先生はあたふたとしていた。
「ど、どうしてですかぁ?今日は晴れだって報告してたのに」
「へぇ、そうなんですか」
「そうですよ、おかしいです、異常気象ですっ」
「でも、天気予報なんてのは確実に当たるとは限らないじゃないですか、これくらいは普通じゃないですか?」
「いいえ、ギフトガーデンの天気予報はかなり正確で、外れた事はほとんどありませんよ、だからこその異常気象なんです」
「な、なるほど」
「もしかすると、何者かの介入によるものかもしれませんね」
「何者かの介入?」
「はい、海賊、山賊、盗賊、義賊などなど、思い当たる集団は数多存在しますっ」
いつの時代の話をしているのわからないが、まぁ何者かの介入っていうのならそれなら俺にも心当たりはある。
もしも、この雨が舞子先生の言う通り何者かの介入によるものだとしたら、それは俺のものである確率が非常に高い、なぜなら俺は雨男だからだ。
雨男なんて何を馬鹿な、と思うやつが居るかもしれない。
だが物心がついたころから、俺がどこかに行けばまるで雨雲を引き連れて来たのかと思われるほど高確率で雨が降る。
さながら風神雷神でも憑いているんじゃないかと思われるほど異常気象を引き起こす大雨風男と言われてきた。
だから、もしもこれが異常気象なのだとしたらそれは俺のせいといえるかもしれない。
そして、その不思議な力は今この瞬間に発動されている様子であり、俺と舞子先生はすぐさま雨宿りのできる場所を探すことにした。
運の良いことに、たまたまにぎわい見せる市街地のほうまで来ていたので、簡単に雨宿りが出いそうな場所を発見し、すぐにそこに走りこんだ。
周囲の人たちもみな傘など持っておらず、突然の雨に苦い顔ばかりが目立っていた。
どうやら舞子先生の言っていたことはあながち間違っていないようだ。
「いやー、大変でしたね先生」
取り合えず雨宿りが出来たので、俺はそんなことを言ってみたが隣に舞子先生の姿はなく、見ず知らずのおじさんが「何を言ってんだこいつ」とでも言いたげな顔で俺を見つめてすぐに視線を逸らした。
無我夢中で雨宿りしたものだから、先生のことなど気にも留めてなかったが、どうやら俺は先生とはぐれてしまったようだ。
あたりを見渡しても舞子先生の姿はなく、近くにいたのだから先生の姿も簡単に見つけられると思った俺は、付近で雨宿りしている人たちの中から舞子先生を探してみる事にした。だが、彼女の姿は一向に見つからなかった。
不安と疑念の中、舞子先生の姿を探し続けること数分、あれほど猛烈にふっていた雨は突然終わりを告げた。
すると、さっきまでの雨が嘘だったかのように雨雲は晴れ、太陽がサンサン照り付けるという、気まぐれ天候具合を見せつけてきた。
そして、そんな異常気象に、周囲の人々もみな口々に文句を言いながら雨宿りをやめて動き始めた。
だが、俺はそんな流れに任せて動くことができなかった。言わずもがな俺はここに来たばかりの右も左もわからぬ奴だ。
だからこんなところで動こうものなら余計に面倒になることくらいは心得ている。だからこそここは舞子先生が俺を見つけてくれる事を願うばかりだ。
そんな思いを胸に数十分、いつまで待っても現れない先生に、ついに嫌気がさした俺は一人ぼっちで舞子先生を探す旅に出ることにした。
人が行き交う中、俺は適当にほっつきまわっていると、ふと通りかかった路地が気になった。
賑わい見せる歩道が光だとしたら、この路地は闇だ。
薄暗く、まるで俺を引き込むかのように怪しい陰をくっきりと見せつけてきた。決して何かあるわけでもなく、ただ暗がりの道がつづいているのだが、俺はなぜかそこに舞子先生がいそうな気がした。
そして、俺はいつの間にか路地裏に引き寄せられてしまってた。
路地裏をしばらく歩くこと数秒、喧騒が遠のいていく中、自分自身の足音が大きく聞こえるようになったかと思うと、突然、甲高い声の様なものが聞こえてきた。
時と場合によれば恐怖でしかないが、残念なことに現在は昼間、これくらいじゃそうそう驚きはしない。
そんな、徐々に近づいていく笑い声のもとへと歩み寄ると、そこにはまるで何かを取り囲んでいるかのような人の集団があった。しかもそれらは学校の制服のようなものを着込んでいた。
俺はそんな集団に近寄り、何を取り囲んでいるものかとのぞいて見ることにした。
しかし、そんなとき俺の足元では突如としてカンカラコンという空き缶を蹴り飛ばしたかのような音が鳴り響いた。足元に目をやるとそこには予想通り空き缶が転がっており、コンクリートの上で、まるでだだっ子のようにカランコロンと転がっていた。
そうして、やってしまったと思いつつ顔を上げると、先ほどまで背中をむけていた集団は一斉に俺を見つめていた。皆イカツイ顔をした方達のようで、俺はすかさず笑顔を作った。
「あ、えっと、すみません、失礼しましたぁ」
これから始まる新生活を前に面倒ごとなどあってたまるものかと、適当な言葉を言って立ち去ろうとしていると、どこからともなく「助けてー」という叫び声が聞こえてきた。
その声に俺はすぐさま集団に目を向けると、奴らは焦った様子を見せながらまるで何かを隠すかのように人と人との間を狭めた。
「ん、なんだ今の声」
思いがけずに聞こえてきた、女性の叫び声。その声に、俺はたまらず声を荒げると、集団はみなキョロキョロと目を動かしていた。
間違いなく何かを隠している。
そして聞こえてきた叫び声、俺は体の中から熱くたぎるものがあふれてきた。そしてそんな怪しい集団の一人が突如前に出てきて声をあげた。
「あ、あぁん、お前には関係ないだろどっかいけやっ」
ガラガラ声でそう叫んだチンピラ一号は、ガニ股で俺に歩み寄ってきた。
「いや、今完全に女の叫び声が聞こえたんですけど?」
「か、関係ないっつってんだろ、失せろよチンピラっ」
「ち、チンピラ?」
「あぁ、どう見てもチンピラだろうがっ」
「お、俺はこう見えても心優しい一般人です、だからこそ今の悲鳴はほっとけない、っていうかお前のほうがチンピラだろ、そんなモヒカン今時いないって」
「う、うるせぇ、何が心優しい一般人だヒーロー気取ってんじゃねぇ、俺らと同類だろ」
「だからそういうわけにはいかねぇって言っただろ、後、俺はチンピラじゃない」
「うっせーよ、どっかいけっつってんだろ」
「いや、叫び声が聞こえたんだ、しかも「助けて」とかいう女の声、ほっとけない」
「うるせぇ、痛い目にあいたくなきゃどっか行けって言ってんだろ」
そういうとチンピラはじりじりと俺に近寄ってきた。そしてチンピラの拳はぎゅっと握りしめられており、今にも殴り掛かってきそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます