第7話 後天性ギフテッド

「ルシオ君の資料よ、大切にしなさい」


 俺の資料、なんだかこれはいよいよ俺という存在が常軌を逸した者だといわんばかりの発言だが、ぜひとも、その資料というやつを俺にも見せてはくれないのだろうか。


 そして、書かれているかはわからないが、おそらく書かれているだろう「後天性ギフテッド」という記載を塗りつぶしたい。これがどうにも気に入らない。


「わかりました四方教授、舞子花子、責任をもって大切にいたします」


「えぇ、じゃあルシオくんの事よろしくお願いしますよ、先生」


「はい、責任をもってご案内をいたします」


「はいはい、それじゃあルシオくんまたね、ギフトガーデンを楽しんで」


 楽しんでという言葉を残して四方教授は手を振りながらその場を離れていった。残された俺と舞子先生はというと、しばらく四方教授を見送った後、互いに見つめ合った。


 すると、舞子先生はようやくずり落ちていた眼鏡をあげてにこりと笑った。


 妙にこわばった笑顔に見えるような気がするが、舞子先生も俺の様な初対面の人間相手に多少は緊張をしているのだろうか?


「それでは、行きましょうか」


「はい」


 そういわれるがまま俺は舞子教諭についていった。この炎天下のでただただ歩くという状況の中、俺はちょっとした疑問を舞子先生にぶつけてみることにした。


「ところで先生、これからどこに行くんですか?」


「そうですね、まずはルシオ君の拠点となる寮に向かいたいと思います、今日からそこで生活してもらうことになります」


「それは重要ですね」


「はい、ちなみにこれが一応ギフトガーデンの地図ですから、良かったら参考にしてください」


 そうして舞子先生は俺に一枚の地図を渡してきた。世界で最も進んだ場所だってのに、地図とはこれ如何に。

 ただ、地図なんてまともに見たことなかった俺には、この細かな線やら文字やらが多く書かれた地図を読み解くことができそうになかった。


「どうも、それで、その場所っていうのはここからどれくらいかかるんですか?」


「そうですね、30分くらいですね」


「30分も歩くんですか?」


「はい、歩かないとだめですよ、健康に悪いですからね」


「そうですか、じゃあ、もうひとつ質問いいですか?」


「はい、なんでも聞いてください」


「このギフトガーデンってのは、どれくらいの人が住んでるんですか?」


「それは難しい質問ですね」


「え?」


「ですが「ギフテッド」という総称で呼ばれ別名「スターチャイルド」である方達の数は約一万人といった所でしょうか、そして、ルシオ君が来たことによりさらに一人増えた形になりますね」


「い、一万人も超能力者がいるんですかっ?」


「えぇ、それにギフテッドの存在は今この瞬間にも生まれている可能性がありますし、ルシオ君の一件で今後はさらにギフテッドの数が上昇するかもしれませんしね」


「はぇ、世界にはそんなにも超能力者がいるんですねぇ」


「ふふ、さっきから驚いてばかりですね」


「あまりにも驚愕の事実ばかりで、つい・・・・・・そっか」


「ちなみに、ギフテッドといっても皆が皆強い能力を持っているわけじゃありません、それぞれ格付けされて、ガーデン内でそれに応じた住み分けが行われているんですよ」


「え、格付けなんてされるんですか」


「残念ながらここではそういう事になっています。まぁ、詳しいことは学校が始まってから詳しく教えますので、それまで楽しみにしていてください」


「へぇ、ちなみに俺はどれくらいの格になるんですか?」


「えっと、確か四方教授にいただいた資料によりますとルシオくんは」


 舞子先生は持っている資料に目を移し、そしてすぐに顔をあげた。その顔は笑顔であり、俺は少なからず自らの格付けに期待した。


 何しろ後天性ギフテッドとかいう特別な存在みたいな言われ方をしているものだから、せめて優秀な能力が備わってもらわないと困るってものだ。


 そうだな、おそらくだが天上天下唯我独尊で、魑魅魍魎も恐れおののく、完全無欠で一騎当千な能力を与えてくれていることだろう。


 そう期待しながら今か今かと舞子先生の口元に注目していると、小さくきれいな口が動いた。


「ちなみにこのギフトガーデンでは「星」にちなんだ格付けが行われていまして「一等星」から「六等星」まであります、そして、ルシオ君は「六等星」という事になりますね」


 今、何かが聞こえたような気がした。そう、それはまるで小バエのような小さな虫が耳元を通り過ぎたかのような、そんなしょぼい何かが聞こえてきた。


「え、何ですって?」

「ルシオ君は「六等星」ですよ、一番下のランクという事になりますね」


 なぜか満面の笑みで言う舞子先生は、にこにこと微笑みながら俺の肩に手を置いてきた。それはまるで俺を慰めるかのようなものに思えた。


 別に期待していたわけじゃないが、後天性ギフテッドとか、突然変異だとかさんざん言われておいて、いざ能力者としては一番下の格付けとか、こんなのただの拷問でしかない。


 そう思いながら、相変わらず笑顔の舞子先生をみつめていると、彼女はその顔を崩すことはなかった。


 ただショックを感じているとはいえ、俺みたいなやつが超能力者認定受けただけでもましなのかもしれない、そうさ、前のところにいた時と比べれば俺は実に恵まれた状況に違いない、そう思い俺は納得するよう自己暗示をかけた。


 いわば、俺はよくある漫画やアニメのような世界に入ることが出来たのだ。


 それだけでも十分すぎるし、後はこの世界でどう生きていくかだ。それに裏を返せば最底辺にいるのなら、あとは上がることしかないのだから、いくらでも盛り返すことはできる。


 今は六等星かもしれないが、あっという間に上がっていけるだろう。


「ま、まぁでも訓練次第で何とかなるとかそんな感じですよね舞子先生」


「そうですよ、訓練次第で何とかなるはずですから、ぜひとも頑張ってくださいっ」


 舞子先生はまるで応援してくれているかのように両手でガッツポーズを作った。でも、そうしたところで「光り輝く一等星にもなれますよ」と言わないあたり、俺のランクは相当絶望的なもののようだ。


「そ、そうですよね、超能力者ギフテッドには変わりないですもんね」


「はい、その通りですギフテッドの皆さんは素敵な方たちばかりですっ」


「で、ですよねぇ」


「はい、それじゃあパパッと目的地へ急ぎましょうっ」


 なんてポジティブに意気込んだのもつかの間、先ほどまで晴れていたはずのこの場所にまるでスコールのような雨が降り始めた。おそらく神様がこの暑すぎる今日という日に嫌気がさしたのだろう。

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