第3話 出会いと別れ1
あまりに空気の読めないエミリに、もうあきらめて車窓に目を移した。
そうだ、こんなネガティブに導いていくような人間とは関わりあわないのが得策だった。そう思い、車窓から外を眺めると、晴天のおかげか海がキラキラと輝いており、それはもう絶景であった。
それからは、エミリとの間で会話が行われることなくタクシーは軽快に飛ばすこと数分、タクシーが少しづつ減速していくのを感じながら前方を確認した。
すると、タクシーの前方には検問所らしき建物が見えた。それは、まるで高速道路にある料金所のようにこじんまりとしたものだった。
そして、そんな検問所らしき場所の手前でタクシーは停車した。
すると、検問所らしき建物から「ギフトガーデン」という名にふさわしくない、鬼のように険しい顔をした男の警備員が飛び出してきた。彼はプロレスラーのような巨体を動かしながら大股でのっしのっしと歩いて来た。
警備員らしいといえばそうなるかもしれないが、巨体ゆえに、まるで個室トイレから出てきたような登場の仕方に、少なからず嫌な予感を感じていた。
そして、警備員はタクシーの近くまでやってくると車窓をこんこんと優しく小突いた。体格のわりにとても繊細な様子の警備員に思わず眉をひそめざるを得なかった。
「エミリ、俺は刑務所にでも入れられるのか?」
「ふふ、ほんとね、あ、ほら見て見て、警備員がものすごい顔で私たちをみてるわよ」
まるで子どものようにはしゃぐエミリは、俺にすり寄りながらそんなことを言った。つくづく人にくっつくことが好きなものだとあきれつつ、すぐにエミリをはねのけた。するとエミリはなぜか嬉しそうに笑った。
「何が面白いんだよ」
「ふふふ、ルーシーはビビりだなぁと思ってさ」
「ど、どこがビビッてるように見えるんだよ」
「ふふっ、ビビりビビりー、ほれほれ」
まるで俺をからかうようにエミリは俺の頬をツンツンしてきた。
そして、俺のほっぺたを大福だと例えながら、エミリはまるで中の餡をぶちまけさせるかのような勢いでつついてきた。
いつもの事とはいえ、少なからずストレスがマックスになりそうな相手に、平然とこんなことをやれる無頓着で憎めない行動に、再び口が勝手に動き始めた。
「やめろっ」
「ひゃー」
たまらず怒鳴るとエミリは勢いよく離れた。
そしてなぜかエミリは嬉しそうな笑顔を振りまきながら頭を隠すしぐさを見せた。そんな他愛もない戯れの最中、タクシーの運転手が額の汗をハンカチでぬぐいながら話しかけてきた。
「お客さんちょっといいかい?」
運転手の言葉に、エミリが敏感に反応して返事をした。
「は、はい、なんでしょう運転手さん」
先ほどまでキャッキャ、ウフフ、と騒いでいた人間はこうも簡単に取り繕うことができるものかと感心していると、エミリは真面目な顔して乱れ髪を整えていた。
「あのぉ、タクシーはここまでだから」
「あ、はいわかりました、じゃあ少しだけ待っててもらえますか、帰りもお願いしたいので」
「はいよ」
優し気にそういったタクシー運転手は、その止まることない汗を拭きとりつつ笑顔でそういった。
俺たちはタクシーから降りると、厳しい顔つきの警備員がすぐさま歩み寄って。近くで見ると警備員の大きさがより一層わかり、俺は思わず身構えると、エミリはすぐに俺の背後に隠れてきた。
しかし、そんな俺達の様子にも相変わらず険しい顔つきの警備員を前にたまらず生唾を飲んだ。
そして、それはエミリからも鮮明に聞こえてきた。まるで、今にも戦闘が始まりそな緊張感あふれる状況の中、ようやくといっていいほど警備員が口を開いた。
「
まるで何かの楽器のように響き渡る低音ボイスに、エミリはびくんと反応した。すると、なにを思ったエミリは突然俺の前に立ちはだかった。
「はい、私が保護者のエミリでこの子がルシオです、間違いありませんっ」
「それでは入門口へと案内します」
そういうと警備員は先導を取り始めた。
淡々とした様子の警備員についていくこと数分、検問所を抜けてしばらく歩いたところに入門口のような建造物が見えてきた。どうやらあそこがギフトガーデンへの入り口らしい。
すると、そんな大きなゲートの近くに、白衣を身にまとった女性がぽつんと立っていた。こんな炎天下の中よく待っていられたなと思っていると、彼女は小走りで俺たちの方へと向かってきた。
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